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地味な部下の正体は誰にも頼ることのできなかった初恋の人でした  作者: モハチ


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第8話:サンドル姉弟

 一方のユリアナは焦っていた。


(何が、どう思われました?だ!!・・なんか偉そうに話してしまった・・どうしよう・・。)


 帰り道、足早に自宅へ向かいながら今日の反省をしていた。あの子の置かれていた状況を、弟のアルトだと思って見てしまっていた。そして彼に、あの時の、何を両親に訴えても変わらなかった、何もできていない自分の無力な自分を思い出し、つい当たってしまった。

 自分がもっと力のある人だったら、誰一人こんな思いをしなくて良い環境を作れるのではないかと考えてしまう。たとえ夢物語だとわかっていても。


(だって、彼は・・私と違って何かを変えられる力があると思っちゃったから・・)


 彼に12歳の頃もらった手紙には公爵家の名前が書かれていた。最初見た時驚いた。彼は田舎の貴族である私と違い、高位貴族の1人だったから。ただ高位貴族であっても無かったとしても、当時の自分が彼に惹かれていたのは事実だった。

 そんな手紙も母親に見つけられ、びりびりに破られ暖炉で燃やされてしまったのだが。


 家の前まで来たので、一旦息を整える。心の中を整理する。


(よし、切り替えよう。取り合えず、今日のことは一旦おいておこう。してしまったことは仕方ないのだから。)


「ただいまアルト!」

「お帰り姉さん!」


 ユリアナは元気に室内へ入っていった。アルトの病状は日によって変わる。今日は良いようだった。


「今日はシチューにしようね!」

「嬉しい!楽しみ!」


 ワイワイと2人で話しながら調理を開始する。今日もユリアナとアルトの間には穏やかな時間が流れ、就寝時間になった。

 アルトは横になりながら、隣のベッドで寝ている姉を見る。姉が子供庁に入った理由を知ってから、自分のことを振り返る良い機会になったと思っていた。瞼を閉じながら、アルトは自分が置かれていた状況を振り返っていった。



 アルトは小さいころ、自宅で母親、侍女たちからネグレクトを受けていた。育児放棄されていた。その時は小さくて自分の状況について自覚することは無かったが、成長するにつれ、自分に何かが足りていないことがわかった。

 それは姉であるユリアナが一生懸命自分のために動いてくれているのを知ってからだった。何かあれば姉が飛んでくる。時間をかけて薬を持ってくる。体を拭いてくれる。職務怠慢をしている侍女たちを叱り、待遇改善のため両親に掛け合ってくれる。   

 自分のために何かをしようとしてくれる人がいることが、こんなに温かいと知れたのは姉がいたからだった。


 母は、僕を全く見ようとはしなかった。多分、欲しくなかった子なのかもしれない。せめて乳母をずっとそばに置いてくれていたら良かったのに、乳母を僕から取り上げたのは母と聞いてショックを受けたのは忘れられない。

 父は本当にろくでもない人だった。色恋の多い人で、家族を狂わせた原因だと後から分かった。僕に会いに来ることもない、自己中心的な人だった。

 長兄は僕の状況を見て見ぬふりをしていた。姉に心を開いた時、丁度長兄が通りかかったので意を決して声をかけたが無視された。聞こえなかったのかなと思い数回声をかけても無視だった。僕のことを透明人間みたいに扱っていた。


(正直一番答えたのは兄だったな。無視ってこんなに心が痛むんだ。)


 姉のことは無視をしない兄。なぜ?理由は明快で、姉は行動力があり、人に影響を与えることができるから。外に出て話をすることができる。兄は自分の悪評を外に知られたくないから。

 一方の僕は、つい最近まで誰にも心を開くことができない、ただの出来損ないだった。何もしゃべれず、見るとしたら姉からもらった古い図鑑や本を読んだりすることだけ。外に出て話すことは無い僕のことを見下していたんだと思う。


(今でも思い出すと胸がキュっとする・・)


 胸元を抑える。心臓がバクバク動いているのを感じる。少しするとバクバクがいつもと同じ、トクトク、の音に変わる。ホッと息を吐く。

 バクバクした時は、自分が過度の緊張状態になっているんだと医者の先生が教えてくれた。僕は知らず知らずのうちに緊張することがあるみたいだった。知らなかった。知らないことが沢山あって毎日発見の日々だ。

 緊張するときは助け船だった姉を思い出すようにしている。姉があの環境から今の環境に出してくれた、この幸せを嚙みしめる。

 僕は、幸運にも姉のような人が近くにいてくれた。心を完全に壊さず、踏みとどまることができたのだから。


 アルトはスッと枕元に合った医療の本を出す。

 最近興味が出てきた、医療の本。自分の身体の状況を知りたいと思った。初めて、自分から何かを知りたい、学びたいと思った。


(でもそれには、僕はもっと『健康』にならなきゃいけない。自分の身体の調子を整えることが大事だと先生から言われたいから。)


 手あかがつき、何度も読んだため少し破れてはいる愛読書の医療本。中身を全て覚えるまで何回も何回も、姉が不在時に読んでいる。

 

 アルトは窓から外を見た。綺麗な三日月と星が見える。

 医療本をベッドの上に置き、アルトは目をつぶり三日月に向かってお祈りをした。


(僕は『健康』になれますように。なりますように。)


 キラっと流れ星が光った。

 



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