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地味な部下の正体は誰にも頼ることのできなかった初恋の人でした  作者: モハチ


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第76話:ジュリアの苦悩

「ねえ、あの人たち遅くないかしら・・偵察に行ってこんなに遅いことあった?」

「は?なんだよ急に。」


 ベッドの上で上半身裸になってくつろぐキールを傍目に、ユリアナの母親、ジュリアは一人焦っていた。


「今日で何日たったかしら。私の雇ったあの男たちは今まで失敗もなく偵察や誘拐をしてきたわ。でも・・今回は遅すぎる。何かあったのかしら。」


 ブツブツ呟くジュリアを余所に、キールはテーブルの上に手を伸ばし、安いワインをグラスに注ごうとした。だがもうワインは入っておらず、数滴ポタポタとグラスに入る程度しかなかった。


「ああ?何だよ、もうないじゃないか。おいジュリア、ワインもうないのか?」

「もう!ありませんよ!前に話したじゃないですか!ユリアナを売ったら金が入るから、それでワインを沢山買う予定だったではありませんか!でもその金策がいなくなったのでワインはそれで最後です!」


 ジュリアは顔を赤くして怒った。自分は王都出身の由緒正しい貴族で贅沢三昧をしていたのに、この体たらく。ワインすら飲めなくなった、金のない今の自分。みすぼらしくて仕方なかった。加えてなんの真剣味のない夫の状態に腹が立っていた。


「あ~ワインがないなんて・・困ったな。ワイン買う金がないってことは外にも遊びに行けないし・・。」


 キールはブツブツ呟き始めた。

 外に愛人を複数作ってはいたもののそれは金があり、身目が良いからだった。キールの金がなくなってきたことを肌で感じ始めた愛人たちはそれぞれ関係性を断ち切りもう会うことすらしていなかった。

 それが分かり始めたキールは早くユリアナを売って元の関係性を再構築したかったが、それも今はできず。ただただ家の中にこもって毎日ワインを飲む生活しかしていなかった。


「もう、あなた酒は無いんですから・・。もう休んだらどうですか?」

「あ~?んなこと言ったって、まだ昼間だろ?太陽が高く昇ってるのに眠ってられっかよ。」

「・・・・」


 ジュリアは心の中で嘆いていた。自分が好きだった外見も、酒を毎日浴びる様に飲み始めてからどんどん崩れて言っているのを感じていた。


(前は、外に出ていたからか見た目には気を付けていて、昼間から上半身裸で過ごすことなんてなかった。無精ひげがあんなに伸びることなんてなかった。ベッドに寝そべってワインを飲むことなんてなかった・・あの艶玉のような肌に吹き出物ができることなんてなかったのに・・)


 辛かった。自分が望んでここ、サンドル家に嫁いできたはずだったのに、今では夫はこんな状態でお金を作るどころか浪費する。自分のことをワインの保管者くらいにしか思っていないのではないかと勘繰ってしまう。

 長兄のジョージは学校に行かず、ずっと空を眺めてはしきりに神様へお祈りをしている始末。ジョージにはこのサンドル家を立て直した後に立派な領主としてやっていってほしいのに。この緊急事態に神に祈りしかしない。


(ああ。どうしてこうなったのかしら・・。それもこれも、ユリアナが私たちの作戦から逃げたからだわ・・どうして家族の危機的状況なのに逃げるのかしら・・娘としてあり得ないわ!)


 サンドル家の人たちは責任を他者へ擦り付けることが得意だった。キールはワインを持ってこない、この家をこんな風にしたジュリアに対して、ジュリアはこの危機的状況に逃げ出したユリアナへ、ジョージは血縁者として生み出した神へ責任転嫁していた。

 

 そんな時、一通の手紙が届いた。それはユリアナを売る予定だった伯爵家からだった。


「ジュリア様、伯爵様より手紙が届いています。」

「ひ!とうとう届いてしまったのね・・!!!」


 ジュリアは終わったと思った。今まで優遇してくれていた人身売買・・。今までは領地民の中で年頃の女をジュリア自身見初めてメイドとして雇うと騙して連れてきた後に伯爵へ売り払っていた。だが今回はもっと綺麗な処女の女をとの伯爵からの提案と大金を提示されていたのにこんなに時間をかけてしまった。怒りを買うのは当然だと思った。


「どんな恐ろしい内容が書かれているのかしら・・」


 ドキドキしながら封を開け中を見る。

 中には今回の取引は無かったことにしてほしいことのみが記載されており、理由は無かった。


「え?これだけ?ねえ。手紙の中身盗んでないわよね?」

「はい、何も手を加えておりません。」

「・・・そう・・。」


 ユリアナがいない今、取引はできないのでその点については安心だったが、それ以外が気になった。


(あの、女性に目がない伯爵様が・・どうしたのかしら。)


 胸にざわつきが走ったが、ジュリアはもう誰にも相談することができなかった。

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