第72話:国王の企み
「ユリアナ・・君はそんなことができる状況じゃなかったじゃないか。だって君こそ、虐げられていたんだから。君は売られそうになっていたじゃないか。」
アレックスはユリアナの手の上にそっと自分の手を重ねた。じんわりと伝わってくるその手の温かさに気持ちを委ね、甘えたくなった。でもそれはできなかった。
(自分がもう少し強ければ、領地経営のことを省みることができていたら。領地民の状況を早めに知り、王家に伝えて助けることができたのかもしれない。私が、家族から逃げずに立ち向かうことができたのなら・・過酷な状況に皆を晒さなくて済んだかもしれない。)
「国王陛下・・私にできることはありますか?」
「ん?」
「私も・・サンドル家の一員です。私に何か・・領地のためにできることはありますか?」
国王はニヤッとした。この言葉を待っていたのだ。
(先ほどのユリアナの自己紹介の時から、アレックスはユリアナのことを好いていることは分かっていた。ならばユリアナの心を捕えれば、私は動かしやすい。)
国王はサンドル家の問題に対してダスティン公爵家が関わっていることを知ってから、ここには何かがあることを見抜いていた。ヴェイユから手紙でアレックスと、死んだはずの長女が関わっていることを知り(まさか・・)とは思っていたが、それは現実だった。その何かはユリアナとアレックスは恋仲であることだった。
ユリアナの性格は分からなかったので、とりあえずアレックスと一緒にここに呼び、領地を任せることのできるタイプの人間なのかを知りたかった。
(いや~、ビンゴだったな。彼女は真面目で、責任感があるようだし。アレックスの溺愛具合も最高だな。)
人身売買の件について詳細に話した理由もその点を見抜きたかったからだ。処罰はもう決まっていた為、被害者である彼女に対し多大な衝撃を加える必要は無かった。ただ話を聞いた後、彼女がどう出るかを知りたかった。
国王は少しテンションが上がりつつ話し出した。
「ユリアナ嬢、サンドル家領地は一度王家直営地にすることを伝えたね?」
「はい。」
「実は、それ以外にも人身売買に関わった伯爵家の領地も没収する予定なんだ。」
「そうなんですね、それはとても良いと思います。領民たちが安心すると思います。」
「ただねサンドル家領地は国王直営地にするには少し不便なんだ。なんせ・・今回の件で国の領地が急に増えてしまうし・・意外と遠いんだよね王家から。ダスティン公爵家からはまだ近いんだけど。」
「確かに・・遠いですよね。サンドル家は田舎ですから。」
ユリアナは相槌を打ちながら頷いた。国王はにっこり笑った。
「だからさ、ユリアナ嬢。君が領主になってよ。」
「?」
「そこの領主にユリアナ嬢、君がなるんだ。」
「え?」
国王の言葉にユリアナは目が点になった。耳に入って来た言葉を理解することができず、無礼にもかかわらず聞きなおしてしまった。
「ふふ。すぐにとは言わないよ。だって領地経営のことなんて君、勉強していないだろう?だから、それまでは直営地としてできるだけ復興に力を入れさせてもらうよ。・・時間を決めたほうが良いのかな?2年くらい?3年必要?」
「え・・ええ?」
ユリアナの目が動揺で揺れ、顔に手を当ててこれは現実なのかを確認していた。アレックスは黙って聞いていたが、とうとう我慢できずかみついた。
「陛下!それは一体どういう考えですか!」
「ん?アレックス。そうか・・君たちは恋仲なんだっけ?」
「ぐ!それは今関係ないでしょう!」
アレックスはそこを突っ込まれるとは思っていなかったので、一旦息を飲んでから再度かみついた。
「関係あるさ。君とユリアナ嬢が結婚するのであれば、君は領主の夫じゃないか。アレックスは領地経営の勉強はしていたのかい?」
「少しはしていましたけど・・!それは兄が公爵家を継ぐことが確定してからそんなに・・じゃなくて!!」
「良いじゃないか。君たちが領主になれば、サンドル領地民は幸せだろう。」
国王は2人をここに呼ぶことを決める前からずっと考えていた。ユリアナとアレックスが結婚し、サンドル領地の領主になればいいと。




