第7話:やりたいこと
視察は順調に終わり、アレックスとユリアナは職場へ戻る時間となった。
「「今日はありがとうございました。」」
「こちらこそ、今日はありがとうございました。これからもよろしくお願いします。」
「こちらこそです。院長には本当に良い対応をしてもらっていると視察に来ると思い知らされます。」
「・・・院長、最後にあの子に話しかけても良いですか?」
アレックスが視察終了の挨拶をしていると、ユリアナがグイっと前に出てきて院長に伝えた。あの子、虐待を受けていたという子と話がしたいと。
「・・良いですが、彼はまだ私たちにも完全に心を開いているわけではないので・・話ができるか分かりません。それでも良いですか?」
「大丈夫です。」
ユリアナは院長の許可を得ると、木の下にいる子供のもとへ早足で向かった。アレックスは院長にお礼を伝え、ユリアナの後を追った。
「・・こんにちは」
「・・・・」
ユリアナは木の下でぼんやりしている子供に声をかけた。声をかけられた少年は少しユリアナを少しだけ視界にいれたが、何も発することはなく再び虚空を見始めた。
ユリアナはその様子を見ながら少し離れたところに座り、話しかけた。
「あなたは、なんていうお名前なの?」
「・・・・」
「私はユリアナっていうの。」
「・・・・・」
「今日は空がきれいだね。」
「・・・・」
ユリアナが何か声をかけても少年からの反応は無かった。ただただぼんやりと、虚空を見つめていた。ユリアナ自身も特に返答を求めているつもりは無かったので、一緒に空を眺めていた。
アレックスはユリアナが少年に少しずつ声をかけているのを離れたところから見ていた。彼女はあの時と変わらず、子供のことになると一生懸命に何かをする、行動できる人であると改めて思った。胸を打たれた気持ちになっていた。
穏やかな時間は流れた。帰りの機関車の時間もあるため、アレックスはユリアナに声をかけた。ユリアナも帰りの時間は分かっていた為ゆっくり立ち上がった。
「また来るね。その時はお名前を教えてほしいな。」
「・・・・」
ユリアナは歩き出した。その姿を少年はじっと見つめてはいたが口が動くことは無かった。
2人で機関車に乗る。最初は2人とも何も話さず、沈黙が流れていた。アレックスも最初はあれほど話して見せると意気込んでいたはずなのに、話しだすことができなかった。気軽に話せる気分ではなかった。
ユリアナは窓の外を見ながら、ゆっくりと口を開いた。
「・・あの子は、どう成長していくのでしょうか。多感な時期に、心に深い傷を負って・・。ただ、幸運にもあんなに良い孤児院に入れたので、これから少しずつ傷の修復ができていくのではないかと思っています・・。」
「・・ああ。」
「私が今気になっているのは、知りたいのは、作りたいのは・・心の傷がとても深く、人間に対して心が開けない子供たちへの支援方法です。」
「そうだな。それについては今動物セラピーを随時行って反応を少しずつみてはいるが・・。」
「・・・加えてもう1つあります。それはそういった虐待をしている人たち、人を人と思わずに暴力をふるう人に対しての対処方法、孤児院などに避難するすべのない子供たちをどう発見して、支援していくか・・です。・・・すみません、1つじゃなかったですね・・。」
「・・・」
「・・所長はどう思われますか?」
「・・俺は・・・」
真剣は表情でユリアナから訴えられる。アレックスは手をぎゅっと握って話そうとした。
ピーーーー!
機関車が職場の最寄り駅についた音がする。
2人は窓の外を見た。もう駅構内だった。
「・・・着きましたね。」
「ああ。」
2人はなんとなくぎこちない雰囲気のなか下車し、職場へ歩いて移動した。その時は2人とも無言だった。
「おかえりなさーい!視察変わってくれてありがとう!」
「おお、ただいま。」
「ただいま戻りました。」
「あそこの孤児院は院長がしっかりしているから、良いでしょう?他の孤児院も見習ってやり方を変えているところも多いんだよ~!」
「そうですね、とても素晴らしかったです。」
マークとユリアナが2人で話し始めるのを余所に、アレックスは自身の席に座って少し考えていた。
(彼女がしたいこと・・か。)
自分は何がしたいのだろう。何がしたくてここ、子供庁に入ったのだろう。12歳の時もそうだったが、ユリアナの言動は自分を動かすものなのかもしれない。書類を手に持ちながら、違うことを考えていた。
そうこうしているうちに定時の鐘が鳴りユリアナはいつも通りササっと帰っていく。それを見送ったマークはアレックスに声をかけた。
「それで、今日はどうだった?ナイスアシストだったでしょ?」
「・・・ああ。」
「色々話せたんじゃないの~?」
「・・彼女は昔から変わっていないみたいだ。ほんと、かっこいいよ。」
「おお、それに気づけたのは僕のおかげだね。」
「マーク、今度の動物セラピーなんだが、また変わってくれないだろうか?ちょっとまた彼女と話がしたくて・・」
「いいよ!」
アレックスの反応にマークは嬉しそうに了承した。
(僕のアシストが良かったということだな!よしよし。)
マークは満足していた。
アレックスはユリアナに話しかけられた内容について深く、深く考えていた。




