第68話:国王陛下
談話室のドアを勢いよくバンッと音がなり、開いた。その音に驚いた2人はさっとドアの方を見ると、そこには国王陛下が息を切らして扉にもたれかかっている姿があった。
「はあはあ・・はあはあ・・っ。やあ!待たせたね!」
息を何とか整えた国王は汗をキラっと光らせ、笑顔で笑いかけてきた。こんな衝撃的な登場をするとは予想をしていなかったユリアナはなんと返事をすれば分からずうろたえた。
(え・・この方が、え、国王陛下・・?)
そんなユリアナを気にも留めず、国王はズカズカと中へ入り、談話室の1人用の豪華なソファに腰を掛けた。
慣れた様子のアレックスはいつも通りのテンションで国王陛下へ挨拶をした。
「お久しぶりです。国王陛下。」
「おお!アレックス!見ない間に背が伸びたな!ヴェイユやバルト、リディアは元気か!?」
「はい。皆元気にしております。・・国王陛下もお変わりなさそうで何よりです。」
「はっはっは!一国の王が病気をするわけないだろう!私はいつでも元気さ!!」
アレックスの言葉に違う意味が込められていたが、そこには気づかないふりをして国王は笑った。そんな中ユリアナは未だに戸惑っていた。
(ええ?これは現実?絵姿や遠目でしかみたことのない陛下が・・今目の前で大きな口をあけて笑っている・・これは現実なの・・?)
目を白黒させている中、再び談話室のドアが勢いよく開かれ、息を切らした国王の側近が中に走ってやって来た。部屋に入った瞬間両ひざに手を当て方を上下に揺らしながら「ぜえはあ」と荒い呼吸を繰り返し、やっと息を整えたところで国王に向かい怒りの言葉を発した。
「へ・・陛下!・・何故私を巻いていくのですか!何故置いていくのですか!!」
「おお、カーシー、遅かったな。私の考えではもう少し早く着くと思ったぞ。お前もう少し速く走れるようにならないと私の側近としてはやっていけないぞ。」
「文官にそんな脚力を求めないでください!!」
クワっとした表情を国王に向け、置いて行かれた怒りを爆発させているところを見て更にユリアナは困惑した。
(私は・・一体何を見ているのだろう・・。側近の方に怒られているの・・?国王陛下が・・?)
ユリアナの中にあった国王陛下という像がガラガラと音を立てて崩れ落ちていった。
「ね、言ったでしょ?ユリアナ。」
唖然としていると隣からアレックスが話しかけてくる。
「え?」
「お茶目な人だって。」
ユリアナは思い出した。王城へ向かう道中、アレックスが国王陛下のことをお茶目な人であると話をしていたことを。その話を自分は信じず、アレックスが自分の緊張をやわらげるためだけに言っていると勘違いしていたことを。
「そ・・そうね。私も、お茶目な人だって思うわ・・。」
(これを見たらそうとしか言えない・・。)
ユリアナは心からそう思った。
「ごめんごめん。カーシーの足が遅くてこんな風な対面になってしまったね。反省しているよ。」
はっはっはと軽快に笑う国王と対照的に、後から追ってきた側近は疲れ切った様子で、反論することもなく大人しく陛下の少し後ろに立っていた。
その姿を見ると、毎日こうやって陛下に振り回されているのだろうなと、感じ取ることができたので、アレックスもユリアナもその点については何も言わなかった。
「全然、大丈夫ですよ。」
「そういってもらえると助かったよ。・・ところで君が例のユリアナ・サンドル嬢・・かな?」
急に視線を向けられたユリアナは少しビクっとした後、令嬢として礼をした。
「お初にお目にかかります。サンドル家長女、ユリアナ・サンドルと申します。自己紹介が遅れて申し訳ありません。」
一通り挨拶をしたが、陛下からの声は無かった。
(どうしましょう、その後の返事がない。このままじゃ顔を上げられないけど・・この礼を続けるのもきついわ・・どうしたらいいかしら。)
礼の体制を取ったまま頭の中でフル回転をしていると、頭上からアレックスの声が聞こえてきた。
「陛下!陛下!何をニヤニヤ笑っているのですか!」
「え、いいや、こうやったらアレックスの気持ちがわかるかなって思って見てただけだから。」
「良いから!早く声をかけてください。」
「分かった分かった。ユリアナ嬢、顔を上げてくれ。」
「はい。」
声をかけられホッとすると、国王陛下を睨みつけるアレックスがいた。
(え・・不敬に値するのでは・・?)
ユリアナはアレックスの今後の境遇を内心心配していた。




