第63話:刑罰
「全然大丈夫。寧ろアルト君が来てくれて俺たちも気が紛れたよ。」
「そうそう。アルトのおかげね。」
2人はアルトを見て笑った。アルトもてへへと笑い、部屋の空気が明るくなった。そんな中、アレックスは真剣な表情で話し始めた。
「あの男たちは平民だから、貴族相手に誘拐を行ったことも含め、刑罰に処さなくてはいけない。処刑をしないのであれば鉱山などの危険な地域での労役が妥当だと考えているんだが・・どうかな?」
「「鉱山?」」
「そう。よく犯罪者が行くところが鉱山なんだよね。最近の仕事場は安全面が確保されているところが多いけど、それでもまだまだ足りないんだ。それこそ刑を受けた人たちがそういう場所で今でも沢山働いていて、そこでの事故で命を落とす人もうる。」
「・・・」
「でもそれは刑罰の1つになっていて、誰かがやらなくてはならない仕事の1つだ。万が一があってもユリアナのせいではない。これは刑法に定められている。・・どうかなこの方針。ユリアナが良ければこの方針で進めるけど。」
ユリアナは少し考えたが、これしかもう方法はないと思った。手をグッと握って頷いた。
「はい。それでお願いします。私も心を鬼にする時が来ました。」
アレックスはホッとして、すくっと立った。
「良かった。・・これで次に進めそうだね。今から父上に話をして来るから。刑罰を決めたこと、そして王家への連絡についても話をして来る。」
「うん。ありがとう、アレックス。」
サッとアレックスは足早に部屋を出てヴェイユの所へ行った。その姿を見送った後、ユリアナはアルトを見て言った。
「ここに来てから時間が早足で過ぎてってる気がする。怒涛だけど・・前に進んでいる気がしない?」
アルトはソファに沈み込み、上目遣いでユリアナを見ながら言った。
「僕も・・ここ数日で急に大人になった気がするよ。」
2人は今まで底のない沼の中で懸命にもがいていたところから、2人で這いつくばって抜け出して、ようやく少しずつ自立をと思った矢先の今だったので、ここ数日が数年間経ったかのように感じていた。
ユリアナもアルトの真似をしてソファに沈み込んだ。
「父上!決まりました。牢屋の男たちの処分・・そしてアルト君も心を決めたようで・・平和に決まりました」
「おお、アレックス。ようやく決まったか。ユリアナさんには選択権を与えるという、彼女にとっては酷なことをしてしまったが・・納得したうえで処罰をした方が後々良いだろうからな・・。」
「はい。俺も彼女が決めたほうが良いと思っていたので。」
「うむ。それでどうなった?」
ヴェイユは仕事中の眼鏡を外してアレックスに向き合う。アレックスはそのまま話し始めた。
「労役をさせることになりました。俺としては鉱山での危険な仕事をしてもらおうかなと考えてます。」
「おお。その方針で行くか・・。まあそれが妥当かもな。労役も今人手が足りなくなっているだろう?」
「はい、そうなんです。労役に就く人たちの人数が、死者が多くて少なくなっていると聞きました。」
「そうだろう。良かったな。」
「はい。元々、彼女の性格では処刑を選ばないと思っていたので・・。先に処刑を案に出し、代替案で労役を提案しました。・・選んでくれてよかったです。」
アレックスは少し悪い笑みを浮かべた。実は最初からアレックスは労役に回したいと思っていた。今王国の政策で開発が進んでいるが、まだ安全面が保証されていないトンネル工事、水路開発、鉄や金鉱山・・どこも人手不足だったため、どちらかと言えばそちらの方に人を回したいと思っていたのだ。
ヴェイユはその笑顔を見て苦々しい表情をした。
「お前・・そんな悪い顔、ユリアナさんの前でしてないだろうな。」
「してませんよ!俺は、彼女の前ではどうしてもデレてしまいますから・・。彼女に手を出したやつには容赦ありませんが・・。」
「はあ・・ユリアナさんも変な奴に好かれてしまったな。」
ヴェイユは少し笑う。アレックスはフッと鼻で笑った後に続けて言った。
「あの、ユリアナの兄のことなんですが・・。」
「ああ、あのクソ男か。」
「はい。あいつ、ユリアナに本当に手を出そうとしてたんです。最後まで致すつもりだったんだと思います・・。」
「え?元々ユリアナを売るつもりだったんだろう?」
ヴェイユもジョージがユリアナに手を出したことは知っていたが、最後までことに及ぼうとしているとは思っていなかった。売り先が処女しか好まない変態であるとほぼすべての貴族が知っていたからだ。
「・・はい。それはそうなんですか、何か考えがあったのでしょうか・・。ですが俺はあいつを許せません。俺の愛するユリアナに・・手を出そうとしたことからまず許せないんです。」
アレックスは手をぎゅっと握る。その手を見ながらヴェイユは考えつつ、質問した。
「・・・どうするつもりだ。」
「奴には・・もっと苦しい刑罰を与えたい・・と思ってるんですが・・何か前例はないでしょうか。」
ヴェイユはアレックスを見た。アレックスから普段見えない怒りのオーラが出ており、これは止められないと思った。
「うむ・・あいつは一応貴族だから・・ちょっと相談が必要だな。」
「・・・・」
「返事。」
「・・はい。そしたら相談をお願いします。俺は労役の手配をしてきます。」
「うむ。よろしく頼む。」
アレックスは怒りのオーラをまといながら部屋から出て、労役の手配に行った。ヴェイユはその姿を見送った後、王家への手紙を書き爺やを呼んだ。
「これを早めに頼む。」
「はい。かしこまりました。」
爺やは手紙を受け取った後、サッと出て行った。
「どうか、息子を殺人犯にしないでくれよな・・。」
ヴェイユは執務室で一人呟いた。




