第61話:モヤモヤ
「姉さん!」
「わあ!アルト!どうしたの!」
アルトが勢いよくユリアナの部屋のドアを開ける。その音に振り向くと息を切らしているアルトがいた。ユリアナはその恰好に驚いた。アルトの手と膝は土で汚れていたからだ。でも表情はいつもより晴れやかに思えた。
「姉さん!僕、ちょっと話がしたいんだ・・。いい?」
「それは勿論良いけど・・。土がついているからとりあえず、手を洗っておいで。」
「あ・・本当だ、忘れてた。すぐ戻る!」
アルトは一度土を落としに行ってからまたすぐ戻ってきた。
「洗ってきたよ!」
「うん、綺麗になったわね。・・それでどうしたのアルト、何かあったの?」
「姉さん、僕もう一度姉さんとしっかり話をしたいと思って走ってきたんだ!」
「え?う、うん。話そう!」
ユリアナは少し戸惑いつつも、しっかり話をしたいというアルトの気持ちを受け止め、ソファの隣に座るように促した。アルトは隣に座って少しずつ自分の気持ちを話し始めた。
「あの、制裁のことなんだけど・・僕、ずっとこれでよかったんだろうかって考えていたんだ。一応、あの人たちは僕の・・僕たちの家族だから・・罰を僕たちから与えることに何かこう、心が晴れないというか、モヤモヤした感じがあったんだ。」
「うん・・。」
ユリアナは頷きながら話を聞いていた。
「姉さんが言うなら良いかって思って、自分の気持ちを押し込めてたんだけど、
《《ある人》》と話をして、自分の気持ちに整理をつけて、姉さんともう一度話してみる必要があることが分かったんだ。」
アルトはユリアナを見て言った。
「家族家族って言ってたけど、僕の本当の家族は姉さんただ1人だ。」
「!」
「僕を無視して、僕を売って金にするために育てていた家族は、血縁ではあるけれど、本当の家族ではないと思ったんだ。それに・・僕自身、家族と言われて思い出すのは姉さんしかいない。」
「アルト・・。」
「姉さんもそうだったのかなって思って。」
「・・」
ユリアナは何も言わず頷いた。
アルトはその姿を見て頷き返した。
「姉さん・・僕にもう一度、なぜ僕たちがされてきたことをみんなに伝えて、お父様たちを領地内にとどまらせるのかを教えて。僕、しっかり理解した上で、姉さんと一緒に、当事者として対応したいんだ!」
「アルト・・ありがとう。」
ユリアナは微笑んだ。アルトも微笑み返し、手を繋いだ。
その2人の姿を少し離れたソファでアレックスは見ていた。
(2人とも、俺の存在を忘れているんだろうな・・。)
少し寂しい気はしたが、今までさえない表情をしていたユリアナが明るくなったので、自分の存在感をなくすことが第一だと察し、話しかけず静観していた。
「私がなぜ、私たちがされてきたことを公にしようと思ったのかなんだけど・・。」
「うん。」
「この広い世界で私たちのような存在は氷山の一角だと思うのよ。」
「?」
アルトがよくわからなそうな顔をしたので、ユリアナはくすっと笑った。
「私たちみたいな存在は、多分他にもいるの。多くいるはず。少ないはずはないわ。家族から一方的に無視されたり、食事を食べさせてもらえなかったり、必要な教育を受けられなかったり、それこそ、金にするために売られることだって、隠されていただけで、本当は沢山あったと思う。今もそういう状況に追い込まれている人がいると思うの。」
「・・・」
「そりゃ平民だったら、家同士が近いから気づける可能性は多くなるかもしれないし、お金に困ったら孤児院や修道院に助けを求めたら良い。平民の中ではそういう家族は多いみたい。でも、貴族は?」
「・・」
「私たちのような中途半端な貴族って、金に困ってもプライドがあるから助けを孤児院や修道院に求めることはできないわ。となると、私たちみたいに売る、ストレスの発散として暴力を振るうこともあると思うの。」
「僕たちが大勢の中の2人だから氷山の一角ってこと?」
「まあ、そう。私たちみたいな人ってもっといるはず。そういうことをしている貴族たちや知らない貴族たちに見せつけたいの。こういうことをすると、王家から、虐げられた子供たちから処罰を受けるって。それこそプライドを傷つけられるような状況に追い込まれるって。」
「なるほど・・そういうことだったんだ。」
アルトは納得してソファにずぶずぶと沈み込んだ。
「話をしっかり聞けて良かった・・。僕、本当にモヤモヤしていたんだ。でも話せてよかったよ。気分が晴れた気がする。」
「そうなんだ。モヤモヤが晴れたのは良かった。」
「うん!ありがとう姉さん!」
「ふふ。・・私こそ、私の家族はあなたしかいないと思っている。アルトこれからも家族よ。私の唯一の家族よ。」
「姉さん・・僕も・・。」
2人は抱きしめあった。
(尊い姿だなあ。)
アレックスはできるだけ存在感を消しながらその姿を見ていた。




