第60話:悩み
「花の手入れをするんでしょう?いつもどういうことをしているの?」
「あ!そうなの。良ければ一緒にどう?」
リディアは手に持っていたスコップをアルトに渡しながら笑顔で誘った。アルトはそれを受け取り頷いた。
「もちろん!そのために今日は来たんだ。」
「ありがとう!」
リディアとアルトは庭園の中を進み、1つの花壇の植え替えをすることにした。
「今日はこの花を植え替えようと思うの。ここを掘ってくれる?」
「分かった。」
アルトは服の袖をまくり上げ、土を掘り始めた。その様子を隣に座り見ながら、リディアは話しかけた。
「・・ここの庭園に人が来るの滅多にないの。お父様やお兄様たち、そして庭園作りを手伝ってくれる庭師と・・メイドくらい。アルトはここを教えてもらったの?」
「え!そうなんだ。知らなかった。僕は、その、誰かにここの場所を教えてもらったわけではないんだけど。」
「・・だけど?」
リディアは真剣な様子でアルトを見つめる。アルトは少し言葉に詰まらせつつも話し始めた。
「あの日、ちょっと考え事をしていたんだ。そしたらいつの間にかここまで来ていて・・初めての場所だったから渡り廊下の所で立っていたら昨日の犬が来て・・って感じ。」
「そうだったんだ。」
土をいじりながら2人は話す。最初の話出しには詰まったものの、土をいじっているとなんでも話せそうな気がしていた。それはリディアも一緒だった。
「うふふ。あなたは偶然だったと思うけど・・私は昨夜、あなたに会えてよかったって思ってる。」
「え?」
「昨日ちょこっと話したけど、私同い年くらいの子と話すの初めてなの。」
「え!」
「うふふ、恥ずかしいんだけど本当なの。だから、こうやってあなたと土をいじりながら隣り合って話すのが嬉しい。」
アルトは顔が少し赤くなるのを感じながらも返答した。
「僕も・・。僕もだよ。僕も・・同い年くらいの人と話すの初めてだし、それに君と話せて嬉しい。」
「本当?うふふ。良かった!」
2人の間には少しだけ温かい空気が流れた。
「ところで、何を考えてここまで来たの?」
「あ・・」
アルトは悩みの内容を伝えるか迷ったが、彼女はデレクシアス家の人だからどうせ話が行くだろうと思い話し始めた。
「えっと・・実は、僕の両親と兄は僕と姉を虐待っていうのかな?とりあえず小さい頃無視されてたんだけど・・。」
「・・!」
「小さい頃ね。姉が色々してくれて、生きていくことができたんだけど・・。今回、僕らを売って金にしようとしていたんだ。それに気づいたアレックスさんの計らいで今、ここに置いてもらっているんだけど。」
「そんな・・。」
リディアは驚いた様子でアルトを見た。アルトは少し悲し気な表情をしながらも話を続けた。
「僕ら以外の人にも結構悪いことをしていたみたいで・・今度、領地を国から没収されるみたいなんだよね。それは良いんだけど・・。」
「うん・・。」
「姉たちは両親たちに追加で制裁を加えることにしたんだ。それには勿論僕も話し合いに参加して、制裁を加えることに了承はしたんだけど。」
「制裁・・?制裁ってどんなことをするの?」
リディアは不安げに首を傾けアルトに質問する。アルトも言葉を選びながら答えた。
「なんか、制裁って言っても特に命をどうこうする訳ではなくて・・僕たちがされてきたことを皆に伝えて、サンドル家領地で平民として暮らしてもらうって言うことらしいんだけど。」
「そう・・命を取らないなら、別に悪くはないと思うけど・・どうしてアルト君はそれで悩んでいるの?」
アルトは自分がなぜこんなに悩んでいるのかを聞かれ、ちょっと考えた後に答えた。
「そうだよね・・悩んでいるっていうか、何なんだろう。自分の家族にそんなことしていいのかなっていう考えがずっと渦巻いていて・・モヤモヤしちゃって。」
アルトは自分のつたない回答ではあるが、それを人に伝えることで考えがスッキリしていくのを感じていた。そしてリディアが真剣に考えてくれているのが嬉しく思った。
「自分の家族だからモヤモヤするのよね・・。でも、本当にあなたの家族なの?あなたのことを本当に考えてくれていたのはあなたのお姉さまなんじゃないの?」
「!」
アルトは目を見開いた。
「私は何をされてきたのかは分からないけど、アルト君を無視しなかったのはお姉さまだけで、売ろうとしなかったのもお姉さま。助けてくれたのも・・・」
「うん。姉だけ。」
「でしょう?なら、あなたの家族はお姉さまだけなのよ。」
「・・・」
リディアはふふんと得意げに笑う。
「そもそも本当に家族なら、自分の金策が上手くいかなくて子供を売るなんてことはしないわ。」
「・・・そうだね。」
アルトは自分が悩んでいたことが晴れてきたような気がしていた。リディアは話し続けた。
「あと自分たちがされてきたことを公表するって、考えがあるんじゃないかしら?」
「考え?」
「そう。例えばだけど・・同じようなことをしたらこうなるぞっていうある意味脅しみたいなこととか・・?」
「脅し・・・」
「まあそこはあなたのお姉さまに聞いてみるしかないかもよ!話すことができるんだから!しっかり話してみて!」
「・・うん。そうだね。話せるんだから、なんで僕、こんなに遠慮してたんだろう・・・ありがとうリディア様。」
「リディアで良いよ。その代わり私もアルト君じゃなくて、アルトって呼んでもいい?」
「もちろん!ごめん!僕、ちょっと行ってくる!姉さんに話をしてみる!」
「いってらっしゃいアルト!」
「うん!・・また来てもいい?」
「もちろんよ!」
アルトはスッキリした表情でユリアナのもとへ走り始めた。その様子を見ながらリディアは花の植え替えを再開し始めた。




