第55話:マークの思い
アレックスは職場に来ていた。そんな長期間休んでいたわけではなかったが、久しぶりに仕事をしに来た気がしていた。
「おはよう。」
「おお!おはようアレックス、今日は来ても大丈夫だったの?」
職場のドアを開け、中に入るとマーク驚いた様子でこちらに向かって歩いてきた。その姿を見てアレックスはフフっと笑った。
「さすがに、俺が所長なのに今週ほとんど休んだら仕事まわらないだろ。明日は休みだから、それまでに今日は仕事をバーッと終わらせようと思って。」
「そっか・・。」
「俺が休んでいる間、ずっと仕事をしてくれてたんだろう?ありがとう。本当に助かったよ。」
ユリアナ奪還の後、マークはデレクシアス家から早めに抜け出して寮へ戻り、通常出勤をしなが1人で仕事を回してくれていたのだ。アレックスとしては感謝の気持ちしかなかった。その気持ちがマークに伝わったようで、マークは少し照れていた。
「いいよ。いつか大きくお礼をしてくれたらそれで十分。」
目の下に隈ができているマークに再度お礼を言い、アレックスも仕事にとりかかった。2人は始業時間開始前から集中して仕事に取り組んだ。
「いつの間にかもう夕方だね。」
「ああ、もうそんな時間か。」
2人は集中して事務作業や所長しかできない仕事をこなしていた為、気づいた時にはもう日が暮れかかっていた。アレックスはソワソワし始めていた。
(早く帰りたいが・・後もう少し・・)
そんなアレックスを見てマークは一息ついてから話しかけた。
「いいよ、アレックス。またこれも貸しね。」
「え?」
「早く帰ってあげたほうが良いよ。攫われてからそんな日にちが経過しているわけではないし、彼女の心の傷もあるだろう?君を待っているんじゃないかな。」
「マーク・・」
「ほら、それにここから領地までも時間がかかるしさ。後は僕でもできる業務だからさ。」
マークはアレックスの手から書類を奪い取り話を続けた。
「・・僕も、ユリアナさんちに一緒に行ってやっと実感したんだ。こんなにひどい状況が本当にあったんだって。調査票を見た時とは違う、何かこう、現実味のあるというか・・僕には実際に今起こっていることなんだって感覚がなかったんだ。本当にユリアナさんは売られそうになっていたんだと思うと・・。」
「・・」
「実際、関わらないと分からないよね。僕は今までずっと他人事だったんだ。反省するよ。・・僕はこっちをするから、君はしっかり関わってあげな。」
マークは申し訳なさそうに笑った。アレックスは深く頷いた。
「ありがとう、マーク。」
「言っとくけど貸しだからね!」
アレックスは職場を飛び出した。マークはその背中を少し見送っていたがサッと残務にとりかかった。
「ただいま帰りました!」
バンっと家の扉を開ける。使用人たちがアレックスを出迎えてくれた。
「ユリアナたちは?」
「今話し合いをしている最中です。」
「そうか・・。」
アレックスは上着を脱がせてもらいながら使用人へ話を聞く。彼女たちは今後のことについて話し合いをしているようだった。
「俺も行かなくちゃ。」
「そうですね。とりあえず、アレックス様のお戻りについて伝えてきますので・・少々お待ちください。」
「分かった。」
部屋着に着替えさせられている間、ユリアナが走ってやってきた。
「アレックス!お帰りなさい!お出向かえができてなくてすみません!」
「ユリアナ、ただいま!全然いいんだよ!・・・集中してたんだろ?」
「はい・・。やっと決心がついたので・・。」
ユリアナは笑顔だった表情を引き締め、アレックスに向き合った。アレックスも笑って頷いた。
「俺は君が決めたことを尊重するって言っただろう?大丈夫。俺たちは君たちの味方だ。」
「アレックスありがとう。」
「俺もその場に向かおうか。」
「はい。一緒に行きましょう。」
アレックスはユリアナの手を取りエスコートをして歩き始めた。
「父上、戻りました。」
「おかえりアレックス、お疲れ様。」
「今、色々決めてらっしゃるんでしょう。俺にも教えてください。」
ヴェイユは勢いよく現状を尋ねてくるアレックスの熱意に少し身を引きながら、疲れた様子で話した。
「分かった分かった。ただ、俺は今集中しすぎて疲れたからまずは皆夕食を摂ってからにしないか。」
「・・・・」
アレックスは気合を入れてきたが、ヴェイユのやる気のなさに無言になった。チラリと周りを見ると確かにアルトもユリアナも少し疲れた表情をしていた為、その提案を受け入れることにした。
「はあ・・。まあ、そうですね。もう夕食の時間ですもんね。先に夕食を摂って、それぞれ少し休息をしてから話しを聞かせてください。」
「よし!休憩だ!」
ヴェイユはアルトの手を引いて立ち上がった。アルトもどことなく嬉しそうだった。
「俺は・・早く話を聞きたかったんだが・・しょうがないよな。まあ・・サンドル家は逃げないし・・。」
ボソッとアレックスは呟きつつ、皆と共にダイニングへ行き、夕食を皆と食べた
。




