第52話:戸惑うサンドル家
「おい!どうすればいいんだよ!!ユリアナが連れていかれてしまったじゃないか!」
「そんなこと言われたって分かってる!私の方がどうしたらいいのかを聞きたいわよ!」
サンドル家ではユリアナの両親であるキールとジュリアが言い争っていた。二人はユリアナがいなくなってしまった今、金策が無くなり窮地に立たされていた。
「ああ!もう!とりあえず手下が今追いかけているから、そこからの情報を待つしかないわ!・・・それにしても一体誰がユリアナなんかを助けに来たのかしら。」
情報を得られるまで、ソワソワと落ち着かないジュリアは部屋の中をグルグル歩きながらブツブツ呟き始めた。
キールは一点を見つめ考えるように貧乏ゆすりをしていた。が、何かを閃いたように大声でジュリアに話しかけた。
「おい!あれじゃないのか!ほら、あいつらが言っていた・・そう彼氏!彼氏じゃないのか!」
「!!!」
ジュリアは彼氏という言葉を聞いた瞬間、怒りが込み上げてきた。
「ああ!本当に苛つく!どうしてあの子は私の言いつけを破って彼氏なんかを作って!!こうやって親を苦しめるのかしら!本当ダメな子!」
「ああ本当だよ。全く・・困らせやがって・・!伯爵様にバレたらどうしてくれるんだ!今はまだ伯爵様からの返信がないから良いけど、返信が来たらどうしてくれるんだ!時間を稼ぐにしても限度があるし・・伯爵様のお目にかかれる奴は今の所ユリアナしかいないぞ!」
キールは頭を抱え、絶望したように叫んだ。
サンドル家は火の車だった。唯一、長男であるジョージだけは、学校に行かせるための金を工面していたが、それもちっぽけなものだった。
ジュリアの浪費にキールの遊び癖、ジョージの学費と服装代。
領主としての、領民たちへの施しや領地の公共事業などは全く進んでおらず、領民たちは皆古い農具を使ったり、いまだに移動手段はロバ馬車か徒歩しか使用できない状況だった。そんな状況のためとれる食料は少なく、農民たちは疲弊していき税収は右肩下がりだった。
「くそ!愚かな農民たちが税を支払えないとか言って抗議してくるからこういう風になってるんだ!」
「本当よ!本来ならばこんなことはしなくてもよかったのに!」
2人がワーワーと不満を叫びあっている隣の部屋では、ジョージが顔を冷やしながらベッドに横になっていた。
ジョージはずっと思い出し、考えていた。もう少しで手に入れられそうだった、自分の最愛の人。最愛の天使。ユリアナのことを。
(ああ・・神様。どうしてこのような試練を与えるのですか・・。やはり血が繋がった妹を愛するというタブーを犯そうとしているから、こういう試練を与えるのでしょうか・・。)
彼の中でユリアナは神格化していた。学校に行っている間、ユリアナに会えない時間は彼の中でどんどん彼女の存在を大きくしていった。盲目状態になりその他のことは全く頭に入らなくなっていた。
サンドル家の人々は自分たちに忍び寄っている危機に気づくことは無かった。
それはユリアナの彼氏・・アレックスが公爵家という高位貴族ではないと高をくくっていたからだった。彼らは無意識にユリアナのことをずっと下に見ていた。
「嘘だろ・・?あのお嬢ちゃん、ダスティン公爵家に入って行った?」
「お・・おお。俺の見間違いじゃなければ・・入って行った・・。」
一方、ジュリアに指示を出され、ユリアナを追いかけていた男2人組は焦っていた。どこに逃げるのかと思っていたら、まさかの高位貴族の家に入って行ったからだ。
「おい・・どうするよ。高位貴族相手じゃねえか。これじゃこっちに勝ち目なんてないぜ。」
「本当だよ。サンドル家の計画はパーだよ。パー。マジで終わったな。俺等の賃金はどうなるんだよ。」
「兄貴・・0だよ。なんももらえねえよ、寧ろこれじゃ捕まるからズラかろうぜ。」
「そうだな。」
こそこそとダスティン公爵家の門から離れた樹木の後ろで、2人で話し合っていた。そんな2人にぬっと人影がかかった。
「「あ?」」
2人が見上げるとそこにはダスティン公爵家の家紋がついた騎士数名が立っていた。
「ひぃ!」
「うわあ!」
「捕まえろ!」
「怪しいやつらが2人いる!逃がすな!」
2人は逃げ出したが、逃げ出す方向が悪く、公爵家の方に向かって逃げてしまったため簡単に捕まえられた。




