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地味な部下の正体は誰にも頼ることのできなかった初恋の人でした  作者: モハチ


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第39話:逃げられない

ガタンガタン

ガタガタガタッガタン!

ヒヒーン


「う・・」


 激しい馬車の揺れる音と共に、馬の声が聞こえる。眠る前と比べて周りは明るくなっており、眩しくて目を開けるのが難しい。

 少しずつ瞼を開けていくと少しずつ光と、周囲の景色が入ってきた。

 草原の、草の匂いが周囲に充満しているような気がする。

 太陽が頂上から少しずつ傾いてきているのが分かった。眩しさに目を細めていると自分の顔に人の影ができたのが分かった。


「お嬢ちゃん起きたかい?もう着くよ。」

「・・・」

「ははっご機嫌斜めってか。良いご身分だな。」

「いやあ兄貴、もう忘れたんすか?こいつが助けを呼べないように口を縛ったでしょ。声出すことすら叶わないっすよ。」

「はっはっは。そうだったわ。」


 男2人はユリアナを見ながら辱める様に話し出す。その話にユリアナは反応することなく、周囲の状況を観察する。もうすでにサンドル家の領地に入っていた。後10分もするとサンドル家に到着することが分かった。


(もう、こんなところまで進んだのね。私は一体どのくらい寝ていたのかしら・・。)


 ユリアナは男2人に苛々しながらもこれからの行動について考える。黙って引き渡されるのだけは嫌だった。自分のできる範囲で良いから最後まで抗いたかった。親に決められた自分の()()に最後まで抵抗したかった。


(・・この馬車が停車してからが勝負ね。あいつらは私を引き渡すときにこの紐を外す。その時に体当たりでもして、できるだけ抗うしかない・・・)


 声を出して助けを呼ぶことのできない自分を恨めしく思いつつ、馬車が止まるのを荷台の上で揺られながらその時を待った。



「着いた!さあ嬢ちゃん。君のお家に着いたよ。」

「へへ。さあ行こうか。」


 サンドル家の前まで着くと、2人はニヤニヤ笑いながらユリアナの所までやってきた。男の足に装備されていたナイフでユリアナと馬車を繋いでいた紐を切り、その勢いでユリアナの左手に結ばれていた紐も切れた。


(今しかない!)


 ユリアナは自由になった左腕を振りナイフを持っている男の顔を殴る。男は顔を紐に近づけていたのでユリアナの腕に気づくのが遅く、避けることなく頬にクリーンヒットして倒れた。


「ぐはっ」

「!!どうした!?」


 ユリアナはその隙を見逃さず男が持っていたナイフを自由になった左手で掴み、自分の足を縛っていた紐を切った。


(逃げなくちゃ!)


 ユリアナはもう1人の男が近づいてくる前に駆けだした。


「あっあいつ!」


 ユリアナは一生懸命走った。右腕は紐で未だ胴体と繋がっていたため不自由であったがそれでも一生懸命走った。


(せめて、家の敷地から出て、領民の方に助けを求めれば・・!)


 家の門の前まで走る。近くまで寄ると1人の人影が見えてきた。


「ユリアナ」


 そこには自分を呼ぶ男がいた。


「兄さん・・。」


 ユリアナの足は止まった。ユリアナの不自由な格好を見ても何も言わず、少しずつ近づいてくる。


「ユリアナ、どうして逃げるんだい?君の家はここだろう?」


 ユリアナは少し後ずさりをした。長兄は歩幅を大きくして近寄ってくる。

 ずっと無害だと思っていた兄だが、ユリアナは初めて怖いと思った。


「さあ、一緒に家に帰ろう。疲れただろう?君の分の食事を準備してあげるから、さあ。」


 手を差し伸べられる。

 

「っ兄さん・・!」

 

 ユリアナは声を振り絞り、兄の名前を呼んだ。できることなら近寄ってほしくないし助けてほしいと思っていた。そのことを伝えようとした。


「捕まえた!」

「!」


 後ろから追いかけてきた男に自分の身体から出てきた紐を引っ張られ、ユリアナは後ろに尻餅をつくように転けた。


「はあ、お嬢ちゃん・・昨日から思ってたけど君、お痛がひどいんじゃないの・・?昨日から俺の相棒が何回も君に殴られたりスプレーかけられたり・・ひどい状況になってるんだけどねえ・・」

「くっ」

「さあ行こうか。君のお母様が君を待っているよ。・・首を長くしてねえ。」

「いやっいやだ!兄さん助けて!」


 ユリアナを荷物のように男は担ぎ上げる。ユリアナは兄に手を伸ばし助けを求めるが、兄はニコッと笑うだけだった。

 その表情を見てユリアナは再び絶望を感じた。あの冷たい笑顔は私のことなんてこれっぽちも考えてくれていない、私のことなんてどうでもいいと思っている、思われていることを改めて痛感した。


「・・・」


 ユリアナは声を出すこともできず、担がれるがままに家の中に入って行った。


(ようやくだ。ようやくユリアナが()()()の家に帰ってきた。やっとだ。やっと()()ユリアナが帰ってきたんだ。)


 兄は近くまで近寄ってきて自分に助けを求めたユリアナを思い出し、興奮していた。


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