第36話:持つべき友
「う・・うう」
アレックスは膝を床につけてうずくまった。その場からピクリとも動けなかった。
急ぎ助けに行かなくてはならないことは分かっていたのに、頭の中はショートし切ってしまい、何も考えられなかった。どのくらいそうしていたのか分からないが、遠くから何かの音が聞こえてきた。
パカラッ・・ヒヒーン、ガタガタ
足音が近づいてくる。自分が居る部屋まで来てため息をつく声が聞こえた。
「あーもう・・一応寄ってみたらこうだよ・・。全くもう・・。」
見上げるとマークがすぐ側まで来ていて呆れているように自分を見下ろしていた。
「・・・・マーク。」
マークは視線を自分から荒らされた部屋へと移した。現場はひどいありさまでついマークも口を覆った。
「・・ひどい状態だね・・。これは・・。」
「・・・・」
アレックスはマークが近づいてきてもボーっとしていた。
誘拐されているかもしれない、攫われたかもしれない。ずっと《《かもしれない》》で予測しながら動いていたつもりだったけど・・。実際に彼女が攫われたと知ってしまうと、身体がすくんで動けなかった。
マークはちらりと自分の足元で呆然としている幼馴染を見た。
「こらっ」
パーン
アレックスの耳元でマークは手を叩く。
「!?」
アレックスは耳に手を当ててマークを見る。
マークはいい笑顔で言った。
「君さあ、ボーっとする時間あるの?早く助けに行かなくちゃ、でしょ?ユリアナさんは君を待っているんじゃないの?『たすけて』って連絡が来たんでしょ?ほら早く立ち上がりなよ。」
マークはスッと手を差し出す。アレックスはまだ三半規管がグワングワンしているのを感じながらも手を取った。
何か目が覚めた気がした。
(そうだ。俺が助けに行かなくちゃ。俺に彼女はたすけてとメッセージをくれたんだ。何も全てが終わったわけではないんだから・・)
「そうだな。こうしてはいられないよな・・。ありがとうマーク。」
「そう。僕に感謝してよね。ほら、行くよ。」
「ありがとう・・」
立ち上がったアレックスはマークと共に歩き出す。
「君、走ってここまで来ただろうけどどうやってサンドル家、そしてダスティン家まで行くつもり?走って?」
「うぐ」
アレックスは言葉に詰まった。その通りだった。ユリアナのことが心配すぎて何も準備せず走ってここまで来ていた。サンドル家までの移動手段は全く考えていなかった。
マークはアレックスのことはお見通しだった。自分に報告するのは偉いじゃんと思っていたが、そのまま馬の所まで行くのではなく、自分で走って行ったところを見て
(まさか)
と思っていたのだ。まあまさかは現実だっんだが。
「そんなことだろうと思って、馬を連れてきているからさ・・。僕と一緒に行こう。」
「・・マーク、恩に着る。」
「そう。恩に着ておいて。」
(本当に馬を連れてきていて良かった・・。)
マークは人知れず安堵していた。
「・・じゃあ行こうか。」
「おう」
「とりあえずサンドル家に行く前に、ダスティン公爵家で体制を整えたほうがいいよ。何人か騎士も連れっていったほうがいいだろうしさ。それに家の構造とか分からないから、一度アルト君に直接話をした方が良いよ。」
「そうだな。助かる。俺、本当に頭が働いていなかった。」
「そうだね。僕の所に来たことだけは褒めてあげる!!」
馬に乗り猛スピードで走りながら二人は話す。とりあえず、日が明ける前にはダスティン公爵家に到着しそうだった。
「そういえば鳩便送ってくれた?」
「送ったよ!今から公爵家に行きますって言っておいた!」
「本当にありがとうマーク!」
「お礼は楽しみにしてるからね!」
2人は暗い空が少しずつ明るく、紫色に変化していっている方向に向かって猛スピードで走り続けた。
ガタガタガタン!
「う・・うん」
冷たい木材の床。大きく揺れる音。動けない体。音に合わせて自分が動き、視界が大きく揺れる。目を完全に開けられない。
少しずつ、覚醒していく。ぼんやりしていた視界が少しずつクリアになっていく。
外の、夜と朝の匂いが混じった、そんな色を下空の下自分は荷台に乗せられて走っているのが分かった。
馬が2頭、この荷馬車を引いている。馬を率いてる2人の男は先程自分の意識を焼失させた人たちだった。無言で馬を率いている。
自身を見ると体はグルグル巻きにされ、荷馬車に括り付けられている。手を動かすことすらできない。口には布か何かを噛まされていて言葉を自由に発することができなかった。
目線を荷台の外にやると、そこは記憶にある、田舎の領地、サンドル家へ向かっている道であることが分かった。
(ごめんなさい・・アレックス、アルト。私・・あんなに心配してもらっていたのに・・。)
後悔の念に苛まれながらユリアナは1人で絶望と悲しみに包まれていた。




