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地味な部下の正体は誰にも頼ることのできなかった初恋の人でした  作者: モハチ


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第35話:絶望

 アレックスは自身の寮へ帰り着いた。


(ああ、今日もユリアナさん可愛かったな・・。)


 未だに慣れてはいないが、自分にとって初めての彼女。そんな彼女との幸せな時間が今日も平和に終わった。窓を開け部屋の中の空気の入れ替えをする。外を見ながら少しだけ幸せな時間に浸っていた。


パタパタ


「ん?」


 音の方に視線をやるとダスティン公爵家の鳩が窓枠に丁度止まるところだった。胸には手紙が括り付けられている。


「これは・・アルト君かな?」


 手紙を開くと、アルトからの手紙だった。

 その中身はダスティン公爵家での楽しい生活にと、自分たちの長兄の話だった。


『親愛なるアレックス様。こんばんは。

 この手紙が届くのは夜頃になっているでしょう。僕はダスティン公爵家ではとても楽しく過ごすことができています。最近はおじいちゃんの指導の下体力をつけることを中心に毎日を送っています。食事も沢山食べさせてもらっています。好きな本も沢山読むことができています。本当にありがとうございます。』


 アレックスは想像してくすっと笑った。爺やは本当にアルトのことを気に入ったのだと文面から分かった。続けて手紙を読み進める。

 

 ・・以前僕は、アレックスさんに兄は僕に無関心だったと伝えたでしょう。でもそこには追加しておかなければならない事実があります。姉さんの前では言いづらく、手紙での話になって申し訳ありません。

 それは、兄は姉さんに執着していること、恋愛感情を抱いている可能性があるということです。


(恋愛感情!?)


 元々、姉が僕に付きっきりになった時から少し違和感を感じていました。

 兄が姉を見る目は、どんよりしていて、でも時折悦に入った表情で見ていました。そして僕には卑下するような目線しか向けませんでした。姉に好かれている厄介者、早く消えれば良い、と思ってたんだと思います。僕には基本無視でした。姉には格好つけたいのか、あまり言葉をかけようとはしませんでした。

 兄は粘着質なところがあります。

 そんな兄が、仮に姉がサンドル家に連れ戻された時、どう動くか分かりません・・。

 どうか、姉を助けて下さい・・。僕も微力ながら力になりたいと思っています。どうかよろしくお願いします。』


 と何回か書き直したであろう内容が書かれていた。


「そうか・・。長兄に何の特記事項が無かったのは、一切()()()()()()()()()だけということなのか・・?」


 アレックスはまだ見ぬ長兄のことを思い気分を悪くした。自分の彼女を、そんな邪な目で見ていて、助けることすらしない男・・。殴り飛ばしてやりたい気分になっていた。

 

「くるっ!くるっぽ」

「・・ああ、手紙の返事だよな。ちょっと待ってて。」


 鳩からの催促もあり、アレックスは机に向かう。その時、机の上に置いてある連絡機にランプがついているのが分かった。


「え、連絡機に受信がある・・?」

 

 受信ボックスを見ると、そこにはユリアナからのメッセージがあり、『たすけて』と書かれていた。


「え!?ユリアナ!もしかして・・!」


 アレックスは目を見張った。それは一番恐れていた事態だった。ユリアナが襲われた、誘拐されたかもしれないことを。




 アレックスは走って、マークの部屋を突撃した。


「うわあ!何なんだよアレックス!!」

「マーク!恐れていたことが起きた!!ユリアナがサンドル家に攫われたのかもしれない!!」

「え!ええ!?」


 以前からサンドル家についてと、()()()()可能性があることを共有されていたマークはベッドの上でリラックスしていた体を勢いよく起こした。


「ちょっとどうするの!」

「俺はとりあえず、一旦ユリアナ宅を見てくる。いなかった時はサンドル家に行こうと思うんだが・・。応援が欲しいし。連絡も取りたい。マーク、この鳩はユリアナの弟、アルト君の所へいく鳩なんだ。アルト君にも連絡をしてほしい。今の状況と、ダスティン公爵家への応援依頼を・・!」

「ま、任せて!僕は、とりあえず、連絡機を持ったままダスティン公爵家への手紙と・・」

「一度ダスティン公爵家に行ってほしい!早く連絡が取りたいから!!」

「分かった!!」


 マークは急ぎ手紙を書き始めた。アレックスは靴をしっかり履きなおし、暗闇の中を走り出した。


(俺は!!どうしてもうちょっと強くユリアナに言えなかったんだ!危ないことを!!もっと言っておけば・・)


 走りながらユリアナのことを考える。無事でいてほしい気持ちと共に、自分を責めながら走った。


(ユリアナに何かあったら俺のせいだ・・・!!)


 足がもつれそうになりながらも全力疾走した。


 辿り着いたユリアナの家は、ドアが壊されていた。


「ユ・・ユリアナ・・?」


 中を覗くと誰もいなかった。暗闇が広がる。薬液の匂いがかすかに室内に残っている。連絡機があるユリアナの寝室へ向かうと、そこには変な方向に折られたベッドと壊された連絡機があった。


「・・・・」


 アレックスは絶望した。ユリアナは、本当に攫われてしまったと。

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