第34話:実行
就業後、2人はユリアナ宅で片付けをしていた。
「ふう。大分片付いたよね。」
「そうですね、だいぶ片付きました。なんか少し寂しいです。こんなにすっきりしちゃって・・。ここは、初めて私にとって居場所になった場所だから・・。」
ユリアナは家の中をぐるっと見渡しながら寂しそうに話した。寮に入りきらない荷物は売りに出されたり処分していた為、大きな家具は無くなっていた。持参する細々したものはカバンの中に整理しており、家の中は一週間前と比較してスッキリしている。今家にある物は毎日の生活に必要な洋服や必要最低限の食器とキッチン用具のみだ。
テーブルの上に移動させた少し前まで身に着けていた装備、瓶底眼鏡とカツラをそっと手に取る。ユリアナは少しの時間を要した後、ごみ袋の中に入れた。そして自分をずっと見ていたアレックスの方へ振り返りニコッと笑った。
「これで・・前に進めます。私も、スッキリしました。」
「そうだね、もうこれらは必要ない。前を見て行こう。」
アレックスもニコッと笑った。
この日の天気は曇りで星はあまり見えず、月も雲に隠れていた。暗い夜だった。
「そしたら俺、帰るね。しっかり戸締りと、何かあったら連絡。いい?」
「はい。大丈夫です。・・今日は暗いから気を付けて帰ってね。」
「うん。おやすみユリアナ。」
「おやすみなさい。」
額にキスをしてアレックスは帰って行った。ユリアナは少し見送った後戸締りのために鍵を閉め始めた。
ドン、ガタ
最後の扉を閉めようとした時、その扉を閉じさせないように何かが滑り込んできたような音がした。
「!?」
ユリアナは音の方へ目を向けると誰かの足がドアに挟まっていた。上の方に目線を向けるとドアの隙間から手を差し込み扉を無理やりこじ開けようとしている男がいるのが見えた。
(やばい。これじゃ、ドアを開けられてしまう・・!)
ドアを閉める力は男に勝てないと思ったユリアナは、咄嗟にアレックスが護身用にと渡してきた催涙スプレーをドアの隙間から男に振りかけた。
ブシュー!
「うわっ」
催涙スプレーが顔面にかかった男は目をつぶり手を顔に当てた。その隙を狙ってユリアナは挟まれた足を蹴って外に出した後扉を閉めた。
「はぁはぁはぁ」
心臓が早鐘のようになっている。どうしよう。これから、どうしたらいい。催涙スプレーの効果も一時的。これではまた扉をあけられてしまうかもしれない。
ユリアナの脳はフル回転していたが、回転しすぎてから回っている気がしていた。動悸のようなドキドキが止まらない。手が震えていた。
(怖い・・!)
恐怖の感情がずっとユリアナの心を占めていた。ふと、先ほど帰ったアレックスの姿を思い出す。彼がいつも帰りに話していたことを思いだした。
『何かあったら社用の連絡機で連絡して』
(そうだ!連絡機!連絡機でアレックスに・・!助けを求めなくちゃ!!)
ユリアナは寝室へ走った。社用の連絡機を取り出し起動する。
久しぶりに使用する連絡機は鈍い音を立てて動き始めた。
(早く!早く!!)
やっと起動が終了し、ユリアナはアレックス宛に文字を打ち始める。
「た・・」
ドォン
玄関の方で扉が蹴破られた音がした。
「何してんだよ。全く。」
「兄貴・・催涙スプレー使われました・・涙が止まらないんですよぉ。」
「女相手に何手こずってんだよ。はあ。・・探すぞ。」
「はい!」
(やばい追っ手が来た!)
ユリアナはベッドの下に潜り込み、連絡機を使って文字を追加で打つ。
(えっと、たすけて・・男が・・手が震えて上手く打てない!)
恐怖で手が震え、文字が打ちにくい。手がプルプル震えてしまう。
(しっかりしないと!!こんな時に!!)
「みぃーつけた」
「ひっ!」
ベッドの隙間から先ほどの男がこちらを見ているのが分かった。
ユリアナは後ずさりしながら、連絡機の送信ボタンを押し、自分の背後に隠した。連絡機は小さく音を立ててメッセージの送信を始めてた。
「え、あんた、なんか隠した?またさっきみたいなスプレー?あれまじやめてよね。少ししかかかってないのに涙めっちゃ出たんだから!またしたら俺、何するか分かんないよ?」
「くっ」
ユリアナは少しでも時間を稼ごうと思っていた。時間を稼げば、連絡機は無事に『たすけて』の文字をアレックスに送ってくれる。
「ほら、早く出てきてよ。痛いことはしないからさ・・。」
(それに・・少なくとも相手は私のことを女だからと舐めている。)
「嫌よ。」
「ほら、早く出てこいって。」
「嫌って言ってるでしょ!あなたはなんなの!?一体誰から指示されたの?」
笑顔を保っていた男は出てこようとしないユリアナを見て、大きくため息を吐いた。
「はあ。あーめんどくさ!もういいや!紳士的にしようと思ったのに。」
ガン!
ユリアナが隠れていたベッドを真っ二つに折る。ユリアナが隠れていたベッドの下半分が上に折り曲がり、ユリアナは驚いた。
ユリアナの表情に怯えと動揺が出てきたのを見てニヤッと笑った男は、その後ろの隠されたものを見て表情を変えた。
「・・お前何隠してんだよ!!」
「きゃっ」
ユリアナの後ろにある連絡機を男は蹴って壊した。
「お前!これは通信機か?・・クソ!兄貴!!早くずらかりましょう!追手が来るかもしれません!」
「おう。」
後ろでやりとりをずっと見ていたもう1人の男は荷物の中から湿った布を取り出し、ユリアナの顔に押し付けた。
「っ!」
「お嬢ちゃん。寝ていたほうが楽だぜ。息を吸って。息止めてたら死んじまうぜ?」
「くっ」
薬品のようなにおいが布からする。絶対に嗅いじゃいけないことは分かっている。けど鼻と口に押し付けれられ、息を長く止めることができなくなったユリアナはその薬液を吸ってしまった。
その瞬間世界がグルグル回る。
最期に見えたのは男たちの不気味な笑顔だった。




