第33話:長兄の闇
ドンドン。扉を叩く音がする。開けると2人の黒ずくめの男が立っていた。
「ああ、あんたたち。何?」
「ちょっと報告があります。」
サンドル家へ一度戻った男2人組はユリアナの母、ジュリアに自分たちが見た内容である、ユリアナには彼氏がいて借家から彼氏が毎日帰っていくことを伝えた。
「何ですって!?」
彼氏という言葉を聞いた瞬間ジュリアは憤怒の表情で2人を見た。その後少し考えたように質問した。
「・・・ユリアナはどんな格好をしていたの?」
「え?どんな格好って?」
「あの子は目が見えないくらいの瓶底眼鏡とゴワゴワの髪の毛だったでしょ!?そんな子を誰が好きになるっていうのよ!」
ジュリアは予想外の展開に怒っていた。元々素性が分からないように、男がユリアナに寄り付かないためにあの格好をすることを強制していたのだ。なのにその恰好のままで男ができるなんてありえないと思っていた。
「え?ああ。そんな恰好じゃなかったですよ。依頼写真とは違ってモテそうな子だな~と思いました。だってあの写真、変装後の写真でしょ。家ではそんな恰好してなかったですよ。というか1日中ずっと。」
「はあ?何ですって!?」
「え、えええ?金髪に、目は青色でしょ?旦那様にそっくりでしたよ。だから分かったんですけど・・。あの家から出てきた女性は1人だけ、その人だけでしたよ。」
(あの子・・言いつけを破ってカツラも眼鏡もつけないで生活していたってこと・・!?冗談じゃないわ。なんてことしてくれたのよ!!)
ジュリアの怒りはどんどん大きくなった。報告に来た男の1人は引いていた。
もう1人の男はマイペースにジュリアへ話を続けた。
「どちらにしても俺たちは報告しましたからね。それで、彼氏がるみたいでしたけど、あの伯爵は処女じゃないと・・殺すでしょ?どうします?金が渡されない可能性がありますけど、それでも依頼された内容は実行しますか?」
「もちろんよ。作戦は実行するに決まってるじゃない。どちらにしても地獄を見てもらうつもりですから・・。もう明日にでもユリアナを連れて来なさい。どちらにしてもあの子・・言いつけを破るなんていい度胸しているじゃない。」
ジュリアはバサッと自分が来ていたガウンを翻した。
「明日の19時にはここに連れてきて!良いわね!売り物だから傷はつけないようにしてね」
「「はい。」」
「・・あ、彼氏が帰ってからの方が良いので20時でお願いします。」
「ああん?・・はあ、分かった。20時で良いから。」
どこか閉まりの悪い命令になりつつも、明日の20時にユリアナをサンドル家に連れてくるという依頼は下された。
「・・・・」
その会話を廊下でじっと聞いている男がいた。
長兄のジョージだった。
今通っている学校が長期休暇に入ったので自宅に帰ってきていた。
(あいつ・・とうとう売られるのか・・。)
自分の妹のことを考えていた。妹は自分や母に全く似ず、父親似で綺麗で美人に育っていたのは知っていた。
そしてそんな妹に対して思う、あってはならない気持ちにも気づいていた。
(あいつ・・彼氏ができたのか・・。俺という男がいるのに・・。)
長兄の調査票に特記事項がない理由の1つは、ユリアナに恋慕の感情をいだいていたからだった。ユリアナ以上に綺麗な人、美人な人、心の・・清らかな人は学校に居なかった。自分のような男に、田舎の領主予定の男に嫁ぎたいと思ってくれる貴族女子は居らず、彼はいつも学校で影のような存在だった。だからこそ、太陽のような笑顔を向けてくれるユリアナに、いつも心惹かれていた。
そして虐待を受けていた弟のために相談をしたり頼ってきてくれるユリアナに対して『俺だけを頼りにしてくれている』という思いがあった。どこか誇らしい気持ちがあった。
(許せない。あいつ・・俺という奴がいるのに・・男を作るなんて許せない・・!俺しか頼る人はいない・・そうだろう?!
母上もそうだ!俺という奴がいるのにユリアナを売り飛ばそうなんて許せない!!)
今まで両親に逆らうことができなかった長兄は内弁慶で、母に逆らうこと、意見を言うことはしないが文句だけは人一倍あった。ただ、ユリアナから大切にされている弟のアルトだけには並々ならぬ憎さがあった。正直早く逝けばいいのにとすら思っていた。
(伯爵に売るって、処女じゃなければダメだって言ってたよな・・。処女じゃなければ良いんじゃないだろうか・・。ふふふ。)
彼は暗い廊下を歩きながら危険な考えをずっと繰り返していた。自分の女神は、自分を救ってくれる女性はユリアナしかいないとずっと考えていたからこその、危険な思いであった。




