第31話:迎え
次の日の夕方、ダスティン公爵家の馬車ユリアナ宅の前までやってきた。中から1人、執事風の壮年男性が下りてくる。アレックスを見て恭しく頭を下げた。
「アレックス様。お久しぶりです、お元気そうで何よりです。」
「爺やこそ元気そうでよかったよ。久しぶり。」
「公爵様が今度帰ってこいと言ってましたよ・・。この方がアルト様ですね?」
急に自分を見られたアルトはビクっと反応する。そんなアルトの肩に手を添えながらアレックスは頷いた。
「そう、この子がアルト君。アルト君が家に行ったあと、できるだけ早く帰るよ。そう伝えておいて。」
「分かりました。」
爺や男性は膝を曲げアルトと目線を合わせて話しかけた。
「私はダスティン公爵家の執事をしています。・・。爺やと呼んでもらっても良いですが・・できればアルト様には『おじいちゃん』と呼ばれたいですね・・。」
「爺や!こら!・・全くもう。自分の意思ははっきりしてるんだから・・。アルト君、気にしなくていいから。」
「爺やはこんなでかいアレックス様ではなく、アルト様におじいちゃんとよばれたかったんです・・。孫のように接したいじゃないですか。」
「最初からそんな自分の意思を出してくるな!」
アルトはそのやり取りを見てクスっと笑い、少しモジモジしながら執事へ声をかけた。
「あの・・爺やさん?その、僕、おじいちゃんって呼んでもいいですか?」
その言葉に執事はぱあっと顔を輝かせた。その表情を見てアレックスは顔を歪めた。
「喜んで!よろしくお願いします、アルト様」
「こちらこそです・・。あの、僕のことアルト様ではなく、アルト君とか、呼び捨てでも良いですよ・・?」
「そんな!・・ゴホン。それでは失礼して、アルト君と呼ばせていただきます。」
「はい!」
2人は嬉しそうに話をしながら手を繋いで馬車に乗り、もう一台の馬車には荷物を沢山載せてダスティン公爵家へ向かっていった。
「なんか一気に距離が縮まったな・・。あんなにあっさりと出発するなんて。」
「アルトは・・ああいう年代の方には好かれるのは知っていますし、おじいちゃんと呼ぶ人は今まで居なかったから・・嬉しかったんだと思います。それに爺やさんもアルトのことを気にかけて距離を縮めてくれたんでしょう。優しい方で良かった。」
「・・そっか。まあ爺やはそういうところあるもんな。」
2人は馬車を見送りながら話をしていた。馬車が見えなくなったところで2人は家の中に戻った。
家の中に入って思った。
((今、気づいたけど俺等、今2人きりだ・・しかも密室で!!!))
2人の顔はボッと赤くなった。
アレックスは焦っていた。
今まで家に何回か来ていたが、アルトがいたから2人きりではなかった。変な気を起こすことは全くなかった。
(でも、今は2人きりだ・・どうしよう・・)
急に意識し始めてしまい、どこかソワソワした気持ちになってしまった。
初恋の相手で、童貞で、女性に襲われかけることは今まであっても回避してきたアレックスにとって、色々なことが初めてだった。2人きりになったら何かをするべきなのか変に悩んでしまった。
一方、ユリアナの方も心がせわしなく動いているのを感じていた。今まで恋愛経験がなく、情報を与えてくれるような女友達がいたわけでもなかった。が、アレックスがソワソワしているのに気づき自分もソワソワし始めていた。
(私だって、なんとなくは分かってる。私だってアレックスに触れたい気持ちはあるけど・・今は違うと思う!けどなんか・・なんか・・恥ずかしい!!)
ユリアナは顔を更に赤らめ、目を閉じ頬に手を当てうなった。
そんなユリアナを見たアレックスは戸惑いを隠せなさそうなユリアナを見て、
ここは紳士的に行くべきであると決めていた。彼女は初恋の人で、今、とても好きな、最愛の人。
(大切にしたい・・。)
アレックスはユリアナに向き合い言った。
「あの・・!何もしないから、今日は!ごめん。俺君のことが好きで、変な雰囲気を作ってしまった・・。
でも、サンドル家のことが落ち着いたら・・。良いかな?俺は君に触れたいし、たくさん話したいし、毎回赤面になっちゃって恰好着かないけど・・君のことが好きで、大切にしたいから・・。だからまだ今日はこのままで。」
アレックスの言葉にユリアナは自然と頷いていた。掛けられた言葉が心から嬉しかった。自分のことを大切にしたいという言葉と、切実そうな表情。それを見れただけで、聞けただけで嬉しかった。そして自分に嘘をつくことなく気持ちをストレートに話してくれるところも安心できた。
「は・・・はい。私もあなたに触れたいと思うし、沢山話したいと思ってる。私も初めての人だから・・。このゴタゴタが終わったら・・。」
2人は幸せな気持ちになり、頷いた。
「だけど、これだけはさせてほしい。」
「・・はい。」
アレックスはユリアナの額にキスをし、ユリアナもアレックスの額にキスをし返した。そのほんわかとした雰囲気は、窓の外の夜空に浮かぶ月のみが見ていた。




