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地味な部下の正体は誰にも頼ることのできなかった初恋の人でした  作者: モハチ


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第29話:忍び寄る

 自宅でシャワーを浴びてスッキリしたアレックスはようやくダスティン公爵家へ手紙を書き始めた。


「えっと、ユリアナとアルト、サンドル家について書いて、と・・。ああ、アルト君が、俺の妹と仲良くなってくれたら・・妹にも、レイラにも良い影響になるんだけどな。」


 ペンを持ちながらアレックスは窓から真っ暗に染まった空を見る。 

 頭の中には領地にいる妹、レイラの姿があった。


 レイラは現在アルトより3歳年上で、乳母からの虐待を受けていた。当時は人に対してひどく怯え、家族は皆レイラのことを嫌っていると洗脳されていた為誰の言葉も通らなかった。

 そんな時に庭師が飼っていた犬がきっかけで妹は心を開くようになり、その後に動物セラピーというものを本に記載されるのを見つけ、今に至っているのだが・・。彼女の心の傷は完全に癒えてはいない。それは、レイラだけではなく、アルトも・・。


(アルトとレイラは心を開きつつあるが、まだ家族以外との接点が少ないように思う・・。お互いがいい影響になればよいのだが・・。)


 アレックスは空を見ながら考えつつ、筆を進めた。




 翌日の朝。曇り空が広がる。空気の中にある湿度を感じながらアレックスは出勤した。昨日同様、ユリアナも()()を外した姿で出勤していた。


「おはよう。」

「おはようございます。・・・アレックスさん・・?」

「ぐうう」


 朝、昨日恋人になったばかりの彼女の顔を見て癒され、昨日会ったことは本当に現実だったのだろうかと思っていたところに『アレックスさん』・・。


(破壊力は・・抜群だ・・。)


 アレックスは心の中で鼻血を出しつつも、普段と同様の笑顔で対応した。


「・・・。」


 そんな2人の姿をチベットスナギツネのように見ていたマークは心の中で砂を吐いていた。


「・・上手くいったようでよかったよ・・。」

「っ!」

「っ!おはようございます。マークさん。」

「ああ、おはよう、お二人さん。」


 今日は動物セラピーの日だったため、ピーちゃんとレントも一緒だった。


「僕には・・君たちだけだよ。レント、ピーちゃん・・。」


 マークはレントに抱き着いた。



 就業後、ユリアナはアレックスに話しかけた。


「アレックスさん。あの、少し話をしたいので・・今日良ければお家に来てもらえませんか?」

「・・!いいよ!そしたら今日は一緒に帰ろうか。」

「はい。よろしくお願いします。」


 アレックスとユリアナは2人で職場を出た。


「あの・・昨日の提案についてなんですけど、昨夜アルトと2人で話をして・・ぜひ提案を受けさせてもらえたらと思いまして。・・。」

「!考えてくれたんだね。ありがとう。俺も昨日の夜色々考えたけど、その方法が一番俺の中では安心だな・・って思ってて。他に代案はあるのかも知れないけど、今はそれしか浮かばなかったんだ。良かった。」


 アレックスは心から安心したように笑いかける。ユリアナはその姿を見て微笑んだ。


「いつ、どのように行動したらよいかについては、アルトと一緒に話ができたらと思ってまして。それで今日家に来てもらえないか誘ってみました。」

「いつでもいいよ。誘ってもらえたのは別の意味でも嬉しい。」

「・・・(別の意味)・・」


 ボンっ


 ユリアナの顔から火が出るほど赤くなった。


(私たち昨日から恋人だった・・!)


 そんなユリアナを見てアレックスは心の底から出てくる喜びを嚙みしめていた。




「おい。お前。また宝石を買ったのか!いい加減にしろ!!!」

「何ですか急に。別にいいでしょう。ここには何の楽しみもありません。舞踏会に気軽に行ける距離でもないし、王都で最新のファッションや食べ物を手に入れられるわけでもありません。私は()()で我慢しているんです。()()ではありません。()()が私の楽しみなんです。・・・奪わないでください。」


 暗い部屋の中、ぼんやりと豪華なランプが並び周囲を明るくしている。そこへ、バンッと強い音を出して男が中に入ってくる。その男を見ても特に動じない赤い髪、茶褐色の瞳の女はソファに座ったまま、近寄ってきた男に対して手に沢山の宝石やブレスレットを持ちあげ、見せつけた。

 男はその姿を見て額に青筋2つほど作った。


「何言ってるんだ!ここのところ出費がひどくて財政は大変なことになってるんだぞ!ジョージに跡を継がせる前にここが立ち行かなくなってもいいのか!?」


 男は手に持っていたワインの空瓶をバンと床に投げつける。ワインの瓶は割れて粉々になった。


「何言ってるんですか。大丈夫に決まっているでしょう。ジョージにそんな辛い思いをさせるつもりは全くありません。」

「なに?」

「あの計画があるでしょう。・・あなた酒の飲みすぎで頭がバカになったんですか?本当に・・顔だけは良いんですから・・。」

「何だと?」

「あの計画ですよ。」


 金髪に青の瞳を持つ、40代でありながら色気がある男は赤髪の女に近づいた。赤髪の女は彼の耳元で囁いた。


「ユリアナとアルトを売り飛ばす計画です・・・。どちらの買い手も今か今かと楽しみにしているそうですよ。さあ、どちらから売って、領地の()()にしましょうか?」

「・・ああ、そうだったな。その計画があったんだった。」


 金髪の男はにやりと笑った。


「俺等にはまだ金があったか。金のなる奴らが・・。」

「ふふ。忘れていたんですか?ふふふ。」


 2人は怪しく笑い始めた。

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