第27話:調査票
アレックスはテーブルの上に調査票を出した。アルトとユリアナはそれを覗き込むようにして読み始める。
調査票にはサンドル家の領地経営状況、家族構成、浪費状況、両親や長兄が考えていることなど詳細に記載されていた。
「え!?」
アルトは驚いた。アルトの目に入った部分には、浪費により金がなくなるため両親はアルトとユリアナを売り飛ばす計画を立てている記載されていた。
「・・僕と姉さんをを売り飛ばすつもりだったの・・?僕は男色家で有名な男爵、姉さんは何人もの妻を娶り、虐げることが趣味の伯爵の所へ・・?」
バン!
アルトは怒りを露わにし机を叩く。手がワナワナ震えている。
「ふざけるなよ!どうして僕たちを!!一体どうして!どうしてそんな風に扱うことができるんだよ!!どうして・・どうして!!!」
アルトは叫び、泣き崩れた。
家族に何かを期待していたつもりは全くなかった。それは虐げられてきていたから分かっているつもりだった。
(でも・・。でも、これからは違うと思ってた。自分がやりたいことを見つけられたから、医学の道に進んでみたいと思い始めてきたからこそ・・僕は売られたくない・・どうしてそんなことを思うことすら許されないんだろう・・。)
アルトは調査票をぼんやりと見ながら呟いた。
「僕は、どうなるの・・?親から行けといわれたら・・僕は・・売られなくちゃいけないの?だからこうやって、外に出ないように、認知されないようにされていたの・・?」
「・・アルト・・」
アルトは指を差す。そこにはアルトとユリアナを外に出さない理由が明記されていた。
アルトとユリアナはいないものとして対応しておけば、いずれ売る時に問題なくスムーズに行うことができる、と。
「僕らは・・・僕らは売るために・・生かされてきたってことなの!?!?」
「アルト・・!!」
アルトは怒りながら泣き始めた。そんなアルトを見てユリアナは抱きしめた。
「うわああああああ!!!」
「アルト・・」
アルトは自分が今まで家から冷遇されてきたことを思い出していた。あの生かさず殺さずの微妙なラインをずっとしていたのは、外に出さないでいたのは自分の存在を外に出さないため。そして・・自分が自分としての意思を持たないようにするため・・
(だったっていうこと?)
昔受けた傷は癒えたとばかり考えていたが、まだ12歳のアルトにとってその真実は深く傷をえぐった。
ユリアナはそんなアルトの姿を見て心を痛めたが、何と声をかければよいか分からなかった。ユリアナ自身もアルトと同様に扱われていたからだ。
(私はアルトのように家の中に閉じ込めておくことはできなかったみたいだけど、こうして王都に身を隠して出ることによって、私という存在がサンドル家では消えることになる。素性を話さないという約束は・・私を売るために不必要な情報が漏洩しないために必要だったということ・・。)
ユリアナはアルトを抱きしめながら考える。
(一体どうして・・私たちはあの家に生まれてきてしまったんだろう・・。)
そんなアルトとユリアナを見つつも、アレックスは考えていた。
この調査票にはサンドル家の杜撰な領地管理や、浪費の多さ、いびつな家族の関係が浮き彫りになっている。
(しかし、長兄は・・一体何をしていたんだろう・・)
調査票の長兄の部分については特に目立った記載は無かった。領主になるために貴族学校の寮に入り、寮生活をしながら学んでいる。学校では特に目立ったことはない。
という内容しか記載されておらず、両親のような度肝を抜かれる内容は全く書かれていなかった。普通の人のように思えた。
「2人とも・・これから一緒に解決策を考えていきたいんだ。ほら、すぐに君たちを売るつもりではなさそうだし・・それに、もうユリアナは身分を隠す必要はない、隠さなくていいんだ。そこからアルトの身分も分かるだろう。君たちはいない人として扱われるわけではないんだ。」
「・・・」
「アレックスさん・・」
アレックスの声掛けに2人は顔を上げる。泣きはらしたアルトは最初は無言だったが、力強くうなずいた。
「うん。僕、負けたくない・・。僕は今、ここにいるんだ・・ここに。僕はいるんだから!」
「うん、君はここにいる。そしてそれは俺も証明できる。大丈夫。ここの調査票に記載されているようなことはさせないよ。安心してほしい。」
「ありがとう、お兄さん。」
アルトは泣くのをやめ、少し笑った。
「一応、情報として知っておきたいんだけど・・君たちにはお兄さんがいたよね?お兄さんはどんな人なの?この調査票には特記事項は無さそうなんだけど・・。」
長兄のことを聞かれユリアナは少し曇った表情をした。アルトは少し怒った様子で話した。
「長兄は、事なかれ主義の人です。僕たちがされていることを知っていましたし、僕は助けてほしいと懇願しましたが・・全て無視されました。彼・・兄は・・兄だけは母親似だったので好かれていましたし、家からは普通の対応をされていましたから。・・。
兄は僕たちに関わると、そうなると思っていたみたいで特に何かをしてくれる、かといって何かをするわけでもなく・・僕たちは兄にとって空気のような存在でした。」
「兄は、アルトの言った通りです。私も相談をしたことがあり、最初は良くしてくれてたんです。ですが少しずつ・・何もしてくれなくなり、私たちのことを見なくなりました・・。」
「・・・そうですか・・。」
兄からも助けを得ることができなかった2人の境遇を察し、アレックスはサンドル家の闇を感じていた。




