第26話:恋人
アレックスは舞い上がっていた。
一世一代の告白を勢い余ってしてしまったが、その返答はOKだったからだ。
(う、嬉しい!!)
本当はこの場で小躍りしたい気持ちだった。頭の中はピンクや黄色などの様々な花が咲き乱れる花畑で自分は走り回っていた。
ユリアナもそうだった。自分の家のことを調べられていたことで頭はパンク状態だったが、アレックスからの真剣な告白で一瞬だがすべてが吹っ飛んでしまった。顔を自然と赤くなっていっているのを自覚しながら、頭の中はあわあわとパニック状態になっていた。
(了承してしまった!!こんな緊急事態なのに!)
頭の中は不安と幸せな気持ちが混ざっていて、喜びたいけど悩みたい・・難しい気持ちだった。目の前のアレックスを見ていると少し心が落ち着いた。
(でも・・この人が、私たちの味方をしてくれて一緒に解決策を考えてくれるって思ったら、どこか、強くなれた気がする・・。)
ユリアナは胸に手を当てた。心が落ち着く、暖かくなった気がした。
アレックスはユリアナの手をそっと握った。その手を握ったまま、片手でユリアナを抱きしめた。
「えっ」
「ユリアナさん・・もう離したくない・・!好きだ!嬉しい!!」
「はっ!しょ・・所長!ここ!店!店!!」
「はっ」
ふと自分の世界から戻ると、店内から生暖かい視線とパラパラと拍手が送られていた。
2人はカーっと赤面しすぐ店を出た。
「所長・・大丈夫ですか?」
「ああ。すまん。つい。興奮してしまった。申し訳ない。」
2人はユリアナの帰り道にある大木の下で、一度高まった熱を放出するために涼んでいた。アレックスは店を出る時からずっとユリアナの手を握っており、大木の下に座っても手は離さなかった。
「所長・・手・・」
「あ・・すまん。」
2人は顔を赤らめながら手を放す。少しの間沈黙が流れた。
「・・所長、いや、あの、アレックスさんって呼んでいいですか?」
「もちろんだよ。アレックスでも良い。」
「まだ上司の感覚が抜けないのでさん付けで当分はいきます。まだ照れますし・・。
それより、あの・・あの調査票を見て、嫌にならなかったですか?私の生い立ちとか、家とか・・。」
不安げな表情でユリアナはアレックスに話しかける。アレックスはきょとんとした顔をして少し照れながら話した。
「いや・・俺は、もっと好きになったよ。こんな過酷な状況からこんな、立派に・・って言うと親目線みたいだな・・。心の優しい、芯のある人が育つんだって、思ったよ。俺は君の性格や考え方、全て好きなんだ。だから嫌いになることなんてないよ。俺の気持ちを・・疑わないでほしい。さっきは勢いだったけど、本気なんだ。」
「・・うう・・ありがとうございます。」
ユリアナは泣き始めた。自分の生い立ちを全て知られたら、自分のことを嫌いになるのではとずっと心の奥底で考えていた。
アルトからは『そういう人じゃないんじゃない?』と言われていても、どうしても自信が持てなかった。でも今回、調査票という予想外のことであったが、自分の過去や家族状況を全て知ったうえで、告白してくれたことがとても嬉しかった。
「ええ、ごめん。泣かないで・・ユリアナさん・・。」
「・・嬉しくて。つい。・・これは嬉し涙なので大丈夫です。本当に嬉しい。・・私もアレックスさんのことが好きです。」
「っ!」
ユリアナは涙を流しつつも笑顔でアレックスに告白した。その表情を見てアレックスは居てもたってもいられず抱き着いた。
そのまま時が止まったように、2人は何も話すことなく抱き着きあったままだった。
ひゅー
冷たい風が吹く。火照った身体も冷めてきて、逆に体が冷えてきた。
「・・少し移動しましょうか。あの、家のことについても話をしたいですし・・この内容はアルトも知っていたほうがいいですから。」
「そうだね。移動しようか。お邪魔させてもらいます。」
2人はユリアナ宅へ移動した。
「どうしたの?2人とも。なんか汚いね。」
「「ううっ」」
「しかもなんか、あったの?二人とも・・良い感じ・・?」
「「っ!」」
ユリアナ宅へ入ると、アルトから大木の下に座っていた跡について突っ込まれ、更に2人の間に漂っている空気管についても指摘された。何とも言えない様子を見てアルトはクスっと笑った。
「まあいいけど。とりあえず、白湯でいい?」
アルトはダイニングに行き、3人分の白湯を出した。
2人は着席し一息ついた後、アルトへ事の顛末を話し始めた。
「え!おめでとう!それはいいことだね。・・ところで僕はそっちの調査票のことが気になるから見せてよ。」
「ありがとうアルト。そうね。私たちもその話をしようと思ってたのよ。」
今日の経緯を簡単に話し、とりあえず2人が恋人になったということを伝えるとアルトは喜んでくれた。でもそのきっかけになったサンドル家の調査票については姉たちが付き合ったことよりも気になるようだった。
「俺も、力になるから。一緒に対策を考えよう。」
「本当に助かります。ありがとうございます。」
アレックスが力になってくれることはアルトにとってもユリアナにとってもありがたいことだったので、アルトは素直に提案を受け入れた。
アレックスは調査票を鞄から取り出し、内容を話し始めた。




