第25話:わだかまり
店のトイレでワイシャツを水で洗う。かかったのは白ワインだったから、色はあまり残らずに済んだ。
(ああ、やらかしたなあ・・これは。初デートだったのに。まあ、落ちたから良いか。早く席に戻ろう。)
アレックスは急ぎ足で席に戻った。ユリアナは席におらずどうしたかと思ったが、床にうずくまっている姿が見えた。
「ユリアナさん。ごめん、拭いてくれてたんだね。」
「あっ・・いや、うん。・・大丈夫だった?ワイン。」
「うん。大丈夫だったよ。」
ユリアナは急いで立ち上がったがアレックスの方を見ず、少し気まずそうな顔をしていた。
「どうしたの?」
「あ、あの・・えっと・・。」
ユリアナも頭をフル回転で考えていた。
(なぜ、所長がサンドル家の調査票を持っているのだろう。それは私のことを調べようとしていたのだろうか。それは一体どういう意図で・・?)
一旦家に帰って考え直したいと思った。でも、それではまた前回してしまったことと同じになってしまう。また・・すれ違ってしまう。
(私はもう逃げないって決めた。しっかり向き合って、話したいことは話す、聞きたいことは聞くって決めたんだから・・。今は逃げずに聞いてみよう。なぜそれを持っているのか。)
ユリアナは決意を固めてアレックスと向き合った。
アレックスはまさか自分のカバンの中を見られてしまったとは思っていなかったので、急にどうしたのか疑問に思っていた。
「所長、あの、私見てしまったんです。別に見るつもりは全くなかったんですけど・・。ワインが床にこぼれたからそれを拭いていただけなんです。」
「いや、ごめんね。気を使わせてしまって。」
「それで、見てしまったんです。所長がサンドル家の調査票を持っているのを。」
「!」
アレックスは目を見開き驚いた。ユリアナは必死に弁明をする。
アレックスも動揺していた。
「ワインがカバンについてないか確認したら、カバンが倒れて・・中身が少し出たんです。その時、見えてしまったんです。すみません・・。」
「あ、ああ、いや、こちらこそ・・。不注意でワインを零してしまったことも申し訳ないし・・そのそちらについても申し訳ない。気分が悪くなったんじゃないか?俺がサンドル家について調べたことを。」
「・・・正直、どうして調べてるんだろうって思いました。」
「・・正直に話してくれてありがとう。」
アレックスは考えた。これは正直に話したほうが良いのではないかと。ユリアナは多分考えるより先に体が動くほうだ。これでまた変に言い訳をしてその場での対応にしてしまったら、また仲がこじれてしまう。折角、食事を誘ってくれるようになれたのに。
(・・それに、俺だってあんまり隠し事を彼女にはしたくないな・・ここまでバレてしまっているのならば・・。伝えよう。)
「実は昨日、君が寝ている時にアルト君と話をしていたんだ。君たちが今までどういう風にサンドル家からされてきたのかを・・。」
「!」
「俺は昔、君から聞いた内容しか知らなかったから、ある程度知ってることもあったんだけど。アルト君から聞いた内容はもっと深かったから。
君は嫌がるかもしれないけど、俺は・・もう前みたいに連絡が取れない状況になるのは嫌だった。君がどうして変装のようなことをしなくてはならないのか理由を知りたかった。
そして、今度はそういう状態にならないように、その、守れたらいいなって思ったんだ。そのためにはサンドル家について知っておく必要があると思って・・。」
「・・・」
「直接聞かなくてごめん。本当は直接の方が良かったよね・・ごめん。直接聞いて教えてくれるかは分からなかったから、調べようと思った。」
アレックスは誠心誠意で謝った。ユリアナはその姿を無言で見ていた。そして無意識に止めていた息を吐いた。
「ふぅ・・すみません。その書類を見て気が動転してしまって。その、アルトに何を聞いたんですか?」
アレックスは昨日アルトから聞いた内容を伝える。
ユリアナは目を伏せながら話を聞いていた。
「私たちの家族のことについて・・私もされたことは伝えることができます。・・私所長に怒ってはいません。私も音信不通になったり、自分のこと隠したりしていたから。調べようと思う気持ちも理解はできます。
・・良ければ私にも情報屋からの調査票を見せてもらえますか?」
「もちろんだよ。ごめん。そういうつもりではなかったんだけど、結局君を傷つけてしまったかもしれない・・。」
「いえ、それは大丈夫です。傷ついていません。私の家のことですし、私も向き合わないといけないから・・。」
2人は先ほどの和気あいあいとした雰囲気から一変、真剣な表情で向きあい、そして調査票を一緒に見た。
その内容はユリアナとアルトがされてきた内容は全て記載されていたが、姉弟の知らない家族の事情が赤裸々に記載されていた。
「・・私知らないことが多すぎて・・困惑しています。一体どうしたらいいんでしょう・・。私とアルトは、売る前提・・?」
「そんなことは絶対にさせない!」
「所長・・。」
「一緒に考えよう。俺だっていやだ。このままじゃ君たちは危ない。」
「・・でもこんなにしてもらえる立場じゃありません。」
ユリアナは横を向く。表情は悲しそうだった。その表情を見たアレックスは意を決して伝えることにした。
「・・そんなことを言わないでほしい。本当に・・俺は・・。
その、あの、こんな時に言うの《《あれ》》なんだけど、俺は君を守りたいって心の底から考えているんだ。だから俺を巻き込んでくれないか?俺に守らせてくれないか?」
「え・・」
ユリアナはアレックスを見た。
アレックスは真剣な表情でこちらを見ていた。
「俺は、昔から・・君のことが好きなんだ・・。」
時が止まったようだった。いつの間にかユリアナは頷いていた。




