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地味な部下の正体は誰にも頼ることのできなかった初恋の人でした  作者: モハチ


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第21話:赤い顔

「う・・・うん」

 

 体は熱いけど、額に冷たいものが当たって気持ちが良い。少しずつ体が楽になっているように感じる。


「・・きついですか・・?」

 

 誰かの声が聞こえる。

 優しい、自分のことを心から心配しているような、そんな声が。


「・・また、冷たいタオルで顔を拭きましょうか・・?」


(それは気持ちよかったからしてほしい。)

「・・(コクン)・・」

「!冷たいタオルを準備しますね。」


 冷たいタオルで顔を拭いてもらい、額の上に冷たいタオルを置いてもらう。

 今まで風邪をひいた時、誰も看病をしてくれなかった。

 乳母がいた時までは多分看病してくれていたんだろうけど、物心ついた時から1人だった。1人で対応してきた。

 だから・・

 

(嬉しい。)


 誰かが自分の体調の心配をしてくれて、こうして汗をぬぐってくれる。付き添ってくれる。これが幸せなんだって改めて感じた。


 布団から手を出し、そこに座っているであろう()()に手を伸ばす。

 その誰かは私の手が触れた時ビクっと震えたようだったけど、そっと、逃げることなく受け入れてくれた。私はその人の手を握る。

 温かい。本当に人が自分の近くに座って、看病してくれていたんだ。

 そう実感するとぽわっと心が温かくなった気がした。


「・・ありがとう・・嬉しい・・」


 ホッとした気持ちでまた眠りについた。

 そこに座っていた人が誰かも知らないで。

 その人が顔を真っ赤にして銅像のように動かなくなっているなんて知らなかった。



 ユリアナは目を覚ました。

 窓から夕日が差し込んでいる。雨はもう完全に上がっているようだった。

 ゆっくり起き上がる。

 ずっと寝ていたので体がギシギシして辛い。額の上に乗っていた濡れタオルが布団の上に落ちた。

 布団を見ると、誰かの腕がある。


(ん?)


 その腕の主を見ると()だった。


(んえええええ!!)


 アレックスはずっとユリアナの隣に座って看病をしていたが、最後は疲れて寝てしまっていた。腕を枕にして寝ている。小さな寝息が聞こえてくる。


「え、ええ?なんで?所長が・・?」


 ユリアナは焦った。こんなひどい状態の自分を見られたのかもしれない、そもそも寝巻姿で恥ずかしいし、寝顔を見られたかもしれない、色々な事が頭の中をよぎった。


「え、どうしよう。」

「・・すーすー」


 ユリアナがあたふたしているとアルトが部屋を覗きに来た。


「あ、起きたの?」

「あ、アルト!この状況は一体・・!?」

「あら、今度はこちらのほうが寝ているんだ。」

「あ!アルト?!」


 ユリアナが口をパクパクして小声でアルトへ叫ぶ。アルトはユリアナとは違い冷静に話し始めた。


「いや~姉さん、職場に休むこと連絡していなかったんでしょ?何かあったんじゃないかってこの人が焦って家まで来たんだよ。」

「え!」

「しかも昨日傘を忘れていったんでしょ?何か事件に巻き込まれたんじゃないかって心配してたんだって。姉さんの顔を見てすっごく安心したみたいだったよ。」

「・・そうだったんだ。」


(私のことを心配してここまで来てくれたんだ。)


 申し訳ない気持ちがあったが、それ以上に嬉しい気持ちが勝った。

 頬が緩む。

 アルトはふっと笑った。


(2人して同じような顔をしている。お似合いかも・・。)


 「姉さん、この人としっかり話をしたほうがいいんじゃない?・・・この人が姉さんの初恋の人でしょ?」

「アルト!シー!聞こえるでしょ!!」

「すーすー」

「・・寝てるから大丈夫だよ。」

「大丈夫じゃない!!」


 ユリアナはアルトの口をふさぎ、アレックスを見る。アレックスは寝ているようだった。その様子を見た後ユリアナはほっと息を吐き、そして小声でアルトに話しかけた。


「何か話した・・?」

「・・んん~少しだけ。」

「何を・・?」

「ん~それはさ、直接この人と話してみたらいいんじゃない?僕、この人のこと、気にいったよ。僕らの事情も分かってくれそうだし。あんなに焦って家に来てくれる人なんて早々いないでしょ。」

「・・そんなに焦ってきてくれたの?」

「うん。だって足は片方ずぶ濡れだったし、汗だくで、髪は乱れてたよ。」


 ユリアナはその姿を想像する。職場で見ているアレックスとは全く違う様相で少し笑えた。


「僕が今日の夕ご飯、簡単なものしか作れないけど・・作るからさ。ゆっくり話してよ。そろそろこの人も起きるでしょ。」

「アルト・・ありがとう。」

「いいよ。」


 アルトはスッとキッチンへ向かって出て行った。部屋にはアレックスとユリアナの2人になった。


(話すにしても・・昨日の今日で少し気まずいんだけど・・。とりあえず、身だしなみを整えたい。)

 

 ユリアナはアレックスを起こさないようモゾモゾ動き始めた。


(タオルで顔を拭いて、髪を梳きたい・・)


 棚の上にあるタオルを取ろうと精一杯手を伸ばす。手からタオルが滑り落ち、ビチャっと音を立てアレックスの足元に落ちた。

 

「ひっ」

「ん・・」


 タオルの音でアレックスは目を覚ました。眠気眼でぼんやりと足元のタオルをみて、そのままユリアナの方へ視線を向ける。


「ああ、起きられたんですね・・ユリアナさん。体調はどうですか・・?」

「はひっ!はい。大分よくなりました・・!」


 眠気眼のアレックスの色気が爆発してユリアナの頭は沸騰しそうだった。

 そんなことも知らず、アレックスはユリアナの返事に満足し満面の笑みをユリアナへ向ける。

 ユリアナの心臓がヒートアップし血圧が上がって別の意味で倒れそうだった。


(恋愛初心者にはキツイです・・・辛い・・鼻血が出そう・・!!!)


 寝起きでポヤポヤしているアレックスは身体に毒だった。




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