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地味な部下の正体は誰にも頼ることのできなかった初恋の人でした  作者: モハチ


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第20話:弟と

 アルトはアレックスを中へ案内する。 

 アルトの後ろをついていき、ユリアナの寝室に入った。中にはベッドの上で寝ているユリアナの姿があった。額には濡れタオルが置いてあり、寝息は荒く、顔は赤く火照っていた。

 ベッドの隣の棚の上に社用連絡機が置いてあったが、触られていない様だった。


「ああ、よかった・・。無事で良かった・・。」

「・・」

 

 アレックスはユリアナの寝姿を見てホッとした。心から安心していた。


(生きてる・・存在している・・ああ、よかった。何かの事件に巻き込まれてなくて本当に良かった・・。今まで生きた心地がしなかった・・。)


 アレックスは今までのしかめっ面が、ユリアナを見た瞬間に頬が緩んだ瞬間をアルトは横目で観察していた。


(この人、姉さんのことを特別に思っていそう・・姉さんと同じ思いを抱いていそう・・。)


 アルトは冷静に2人の関係性を判断していた。

 「あ」と思い出したかのようにアレックスはアルトの方へ振り向いた。

 

「職場に一度連絡してもいいですか?ユリアナさんの安否確認ができたことを伝えたくて。」

「いいですよ。どうぞ。」


 アレックスはいそいそと社用連絡機を取り出し、マークへ連絡する。とりあえず、『いました』とだけ発信する。すると即効返信があり『了解』とだけ送られてきた。

 そのメッセージを確認した後、ユリアナの方へ少し近づいた。

 ユリアナは固く目を閉じて寝ており、玉粒の汗を沢山かいていた。


「あの、額のタオルを変えてもいいですか・・?」

「ああ、いいですよ。」


 そっと額のタオルを取り、顔の横を流れていた汗をぬぐう。棚の上に置いてあった氷水の入った桶にタオルを浸し、固く絞った後また額の上に乗せた。

 

「・・姉は昨日の大雨で濡れて帰ってきて、低体温状態になったんです。そのあと風邪をひきました。」

「・・ええ!?」


 ユリアナの表情を見ていたアレックスの背後で急にアルトは話し出す。

 アレックスは後ろを振り向いた。立っていたアルトは真剣な表情で話し出した。


「あの・・あなたは、姉と昔話したことを知っていますよね・・?」


 ドキっとした。今更ながら、彼女の自宅、自室というテリトリーの中に入り、カツラと眼鏡をはずした素の彼女を見ていることに気づいた。加えて昔の話をしないようにと心がけていたのに、そこを弟に突っ込まれたことに驚いた。


「えっと、その、はい。そうです。昔会ったことがあります。」


 アレックスはユリアナが寝ているのを見て、弟とだけの話だから良いだろうと思うことにして正直に答えた。

 その返答内容に満足したアルトは隣に座った。


「今日、時間ありますか?」

「今日って言うと、今からってことかな?」

「そうです。」

「ちょっと待ってね・・。」


 アレックスは社用連絡機を取り出しマークに連絡する。

『いいよ。今日は僕が何とかしておくよ。君の確認が必要なものは明日に取っておく。』と返信が来たので『ありがとう』と送り返し、アルトの方へ体を向けた。


「時間、大丈夫だよ。どうしたの?」

「実は、姉のことなんです・・。」

 

 アルトは姉が自分の世話を、看病をずっとしていたことを話し始めた。それは昔ユリアナがアレックスに話していた内容よりも酷く、辛い話だった。


「僕が生まれてからずっと・・うん、虐待っていうのかな?小さい僕は乳母から離された後、僕付きの侍女から十分な食事を与えられなかったり、無視されたりしていたんです。ここは聞いていましたか?」

「ああ。さらっとではあるが聞いていた。彼女は、だからこそ自分が頑張らなければと話していたから・・。」

「そうですか。10年前にあなたと会った後、姉は更に頑張って僕を助けだそうとしてくれました。・・でも僕はどんどん精神的、肉体的にダメになって行ってしまったんです。

 何が原因かなんてあまり思い出せないんですけど、体調を一気に崩し、起き上がれないくらい病弱になりました。

 そんな僕を見た姉が、僕を家から出したほうが良い、自分も一緒に外に出ようと思い立ったそうです。姉は直接交渉をし、僕を屋敷から出すことに成功しました。ただ、その条件として自分の素性を誰にも話さないことと、見た目を野暮ったく隠すことを条件として・・。」


 彼女らしいなとアレックスは聞きながら思っていた。彼女は辛い目に合っている人を助けることのできる、勇敢な人だ。と心の中で思っていた。

 ただ素性を話さない、身目を隠すことについては疑問に思った。


(なぜそれをしなくてはいけないのか・・?そしてそれは誰が・・?)


「・・その条件は誰が出したんですか?何のために出したんですか・・?」

「・・僕たちの母です。実母です。ほら、僕たちは見た目が似ているでしょう?」


 アルトがユリアナを見る。2人ともそっくりだった。金色の髪の毛、青色の瞳。整った顔。


「そうだね。似ている・・。」

「僕たち、父親似なんです。父親の顔に惹かれた母は結婚後、母曰く不幸になりました。まあ知らんがなって話なんですけど。

 僕たちの見た目が、新たに不幸なものを生むからと、王都に行く条件として身目を隠すことが出されたのです。素性を話さないことについても同じです。王都で素性を話して、サンドル家に迷惑をかけないようにと言われたそうです。」

「・・・そうだったのか・・。」

「僕は最近、姉からその話を聞きました。」

「・・最近だったんだね。」

「・・そうです。多分、あなたに会ってから・・。」


 その言葉を聞いてアレックスはアルトを見た。アルトは穏やかに笑っていた。


「姉さんにとって、あなたは良い思い出、()()人なのです。きっと昔の話をしたくなったけれど・・母の言葉に縛られて話せなかったんじゃないかなって、思っています。良ければ、姉さんの話を聞いてやってください。」

「・・・俺でよいのだろうか・・・。こうやって俺はまた、彼女の隠したい部分を聞いてしまったのではないだろうか・・。」


 アレックスはユリアナを見た。

 ユリアナは先ほどより少し表情が穏やかになっているようだった。


「大丈夫です。きっと・・。」

「・・・」

「今日時間が許す限りいてもらって大丈夫ですので・・。僕は隣の部屋に居ます。」

「・・え・・?」

「・・変なことはしないでしょう?」

「するわけないだろう!!」

「そしたら隣にいますね。」

「・・ああ。」


 何か押し切られたような感じはしたものの、アルトが退室した後アレックスはユリアナの側を離れず、タオルを変えたり汗を拭いたりと看病を続けた。


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