第13話:二人の会話
2人はお互いの手を握っていた。2人とも涙を流し、テーブルの上には水跡がついていった。
「・・アルト・・そんなことを考えてたのね・・ごめんね・・。」
「姉さん、僕こそ・・。本当は分かっていたんだ。でも、最近の姉さんを見ていて、自分が情けなくなってきて・・。」
アルトとユリアナは今まで考えていたことをゆっくり話しだした。
2人にとっては新たな1歩を踏み出す大切な時間だった。互いが何を思っていたか、どう感じていたか、これからどうしたいのか、何に悩んでいるのか・・。
この日の2人の家は夜が深くなってもずっと明かりが灯っていた。
「もーどうしたの?アレックス。今日はこの前と違って静かに飲むじゃん。」
「・・・」
ゴクゴクと、ワインを一気飲みするアレックスを見てマークは呆れていた。
「もー、このワインはそんな一気飲みするようなワインじゃないんだけど・・。ちょっとは香りを楽しむとかさー、してほしいよ。全く。」
ぶつくさ言いながらもマークは空になったグラスにワインを注ぐ。注がれるワインをほろ酔いになったアレックスは見ながら急に語りだした。
「・・たんだ。」
「え?」
「・・俺は今日、彼女を困らせてしまったんだ。」
「何々、どうして?何をしたの?」
「・・実は・・」
アレックスは語りだした。今の仕事のことについてユリアナと深い話ができたことを。それが嬉しくて、つい昔のことも語ってしまったことを。
「・・昔の話をした時、彼女の表情は曇ったんだ。きっと聞かれたくないことを俺は無遠慮に聞いてしまったんだろう。そうでなければあんな顔はしない・・。ああああああなんてことをしてしまったんだ・・!!」
「前と違って今は寮だから叫んでもいいけどさ。もう少しボリュームダウンしないと苦情が来るよ。」
「くううう!冷静だなマークは!!」
「まだ一滴も飲んでないからね。」
グビグビとアレックスは再びワインを飲み干す。
そんなアレックスを見ながら今度は水を差しだした。
「今日は飲みたい気分でもあったんだろうけどさ、僕に聞いてほしいんでしょ?話してよ。どんな話をしたのか。」
「・・そんなにこう、責めるつもりとかでもないし、ただ、俺に気づいてほしかったって気持ちが強くなっちゃったから話しただけなんだけどさ・・」
アレックスは自分がどうユリアナに話しかけたのかを伝える。
マークもそれを真剣に聞いた。
「別におかしくないけどね。君は悪くないと思うけど・・。まあ、彼女にも色々事情があるんじゃない?すぐに言葉を返すことができない理由とかさ。」
「・・事情?」
「君にはもうフィルターがかかっていて、見えない存在になっているのかもしれないけどさぁ・・。彼女は今カツラと瓶底眼鏡をかけているでしょ?あんな変装みたいな恰好・・。いくら田舎の貴族とはいえ、普通しないでしょ。あんなイメージダウンするような変装なんて。」
「・・はっ!!!!」
今気づきました!みたいな表情をして自分を見たアレックスを見てマークは呆れた。
「・・ちょっと・・今更過ぎない?最初はアレックスだって疑問に思っていたんでしょ?あの眼鏡とカツラはなんなんだって。」
「最初はそうだったけど、後からはそれがデフォルトになっていて・・。どちらかと言えばなぜ定時にダッシュで帰るんだろうと、そちらのほうが気になっていたな・・。」
「ああ、そう・・。まあいいとして。仮に彼女が積極的にあの格好をしたいと言っても、普通なら親が止めるさ。いい結婚相手がいなくなる~!とかなんか言って。でも多分止められていない。そして毎日あの地味なセットアップ。」
「・・」
「一般的な令嬢はいくら勤務であってももう少し色合いを考える気はするけどな・・毎日茶色って・・。目立ちたくありません!ていう気迫がこちらにも伝わってくるけど。」
「・・・」
「それに君、困らせるつもりはなかったって謝ったんでしょ?ならいいじゃん。とりあえず。」
「・・・うん・・」
水を片手に持ち顔をテーブルに突っ伏す。
アルコールが体に回り、アレックスは完全に酔っていた。
「俺はぁ・・困らせるつもりは無かったんだぁ・・」
「はいはい。そうだねえ」
「でも・・言えない理由があるのなら仕方がないよな・・」
「うん、また事情があるんだろうねえ」
アレックスの背中をさすりながら、マークはアレックスの愚痴を聞く。
アレックスの思いは止まらなかった。
「でもぉ、謝ったんじゃん。大丈夫だよ。」
「・・うん・・」
「君が恋した人は、そんな薄情な人じゃないんでしょ?」
「・・・うん・・」
「ならいいじゃん。とりあえず、2人で話せたんだから、一歩前進じゃん!」
「ありがと、マーク。」
「どういたしまして。それよりうまくいったら、僕にもいい縁談ちょうだいね(笑)」
「任せなさい。」
「さ、ゆっくり水をのみなさい~」
「はい~」
アレックスはゆっくり水を飲む。今日、彼女は昔の話をされたくなかった。それだけの話だ。と自分に言い聞かせた。
(それに・・こんなことで彼女を諦めるつもりはさらさらない・・)
初恋の人であり、久しぶりに恋した人だから・・。
男たちの夜も更けていった。




