第11話:言えない
2人の間に穏やかな時間が流れている。2人とも、この前から話しをしたかったことをお互い話すことができたのでスッキリしていた。
景色が少しずつ変わり、街中へ入っていく。
アレックスは口を開いた。
「あの、ユリアナ・・俺は、君に影響を受けたんだって言ったよね?」
「先ほどのですか?前回の視察時に私がやりたいことを話したことからでしたよね・・?」
「・・・それもあるんだけど・・俺がここに入職することになった理由のこと・・」
「?」
「覚えていない・・かな・・?俺のこと・・。確かにあのサンドルの地域で話をしてた時は・・あの頃は12歳だったから・・今からもう10年以上前なんだよね。」
「・・・!」
「本当に覚えていないかな・・?」
アレックスは少ししょんぼりしながら、上目遣いでユリアナを見る。ユリアナはその表情を見てドギマギしてしまった。
(うっ!心臓に悪い表情・・)
ユリアナはユリアナで、元々好意を抱いていた人からの上目遣い、かわいい表情。昔、もらった手紙を母親に破られてから終わった恋だと思っていたので、その話をされるとは思っていなかった。
(母には、自分からバラすなと言われていたから・・どうしよう・・何て返そう・・どうしたらいいんだろう・・)
ユリアナが黙っているのを見て、アレックスは自嘲が混じった笑みを浮かべた。
「・・ごめんね、困らせるつもりは全くなかったんだ。ただ・・・君と会えて久しぶりに会えて俺は、嬉しかったし・・。今も、昔も沢山話をしたいと思ってたからさ・・。こうやって話ができていることが嬉しくて、ちょっと舞い上がってたのかも。あの!本当に困らせるつもりはないから!!」
「・・っ!」
ユリアナは心が痛んだ。アレックスが寂しそうな顔をしている。その表情にさせたのは今も昔も、ユリアナ自身なのだ。
(・・でもお母様の言いつけを破ると・・アルトは連れ戻されるかもしれない・・怖い・・)
ユリアナはグっと胸元を掴む。
(でも・・)
ちらっと前を見る。向かい合わせに座っているアレックスがいる。
(私も話を・・したい・・)
ユリアナが口を開こうとする。
「・・あの・・・」
「到着しましたー!!!!」
ユリアナが声をかけようとしたのと同時に、馬車は職場に着いた。
「・・着いたね、ユリアナ。降りようか。エスコートするよ。今日は本当にありがとう。」
「・・・・いえ。」
2人の間にどこか気まずい雰囲気が流れていた。先ほどと同じようにエスコートされ、馬車から降りる。少し先を歩くアレックスの後姿を見て、ユリアナは俯きながらその背中を追った。
「おかえりー!今日は動物セラピーお疲れ様!どうだった?ユリアナさんは初めてだったでしょー?」
「あ、ただいま戻りました!」
「マーク、留守番ありがとう。問題なかったか?」
「全く問題ないよ~!」
職場のドアを開くと、笑顔のマークが出迎えてくれる。夕日が差す職場で、自身の席に荷物を置く。チラと時計を見ると、定時10分前だった。
「ユリアナさん、どうだった~?」
「えっ!えっと・・良かったです。子供たちも楽しそうでしたし・・。」
「マーク!もう定時前だろ。荷物の整理とかさせてやりなよ。動物セラピーの話は今度!」
「ぶううううう。1人で寂しかったんだよ~・・・。」
ユリアナに話しかけるマークを席に戻させる。ユリアナはマークから解放され、定時に間に合うように持参した職場の荷物整理を始めた。
定時を知らせる鐘が鳴る。
「お先に失礼します!お疲れ様でした!!」
「「お疲れ様~!」また来週~!」
ユリアナはいつも通り定時に帰っていった。
アレックスは声をかけた後、自分が不在時に届いた書類の整理を黙々と始めた。
その姿を見ていたマークは
(ふふーん?なんかあったのかな?)
と従弟の何かを察していた。
「ねえ、アレックス。今日は何か用事でもあるの?」
「・・あ?いや、特にないけど・・。」
「酒飲みに行く?それか僕がテイクアウトしてくるからワインでも飲む?」
「・・・・・・」
「飲むか~!!」
「・・・(コクン)・・」
「飲みたい気分だなあ明日休みだしなあ~」
「・・・・(コクン)・・」
「今日の夜は長いぞ~!」
「・・・(コクン)・・」
アレックスは首を振りながら腕を伸ばした。
(今日は、なんか飲みたい!!飲んでやる!!)
男たちの夜はこれからのようだった。
(早く帰ろう!早く帰ろう!)
ユリアナは早足で帰宅していた。
なぜか、早くアルトの顔が見たかった。
彼は私と話したことがきっかけになって就職したと話をしていた。では私は一体何のためにここに来た?存在理由って何・・?
(どうして、ここにいるのか・・それはアルトのため・・だと思ってる。)
アルトを助ける、アルトを守る、その理由があるからこうして毎日頑張れている。でもアルトがもしいなければ、私は一体何をしたかったのだろう。きっかけの1つであれば、アルトのような子が減ればいいと思って入ったのは事実。でも実際に動いているのはアルトのことだけ。
(それが楽だからでしょう・・?)
アルトのことさえ考えていれば、後は十分だった。アルトも自分に懐き、一緒に支えあいながら生活できている。自分のことは別にどうとでもなればいいと思ってた。
でも彼と話をしてから、昔の気持ちがぶり返している。その気持ち扉に蓋を閉めていないと、今までの生活は送れないと思っていた。
(自分の気持ちに蓋をしておけば・・楽だから。人に自分の気持ちをぶつけ、何も帰ってこない日々を過ごしたことと比べたら・・本当に楽。
でも心のどこかで思っていた。自分も・・そういう子供たちと一緒で、自分のことを押し殺して生きて来たのではないかって。)
今の職場に就職して、いろんな体験をして、いろんな知識をまた手に入れた。今回視察やセラピーを通して感じることは沢山あった。心を塞いだ子供たちが心を開いていくところが見れて本当に良かった。
(でも気づいたことがある・・。それは私とアルトのいびつな関係。私たちはお互いがお互いに依存していた・・。私は頼られたくて、弟は私しか頼る人しかいない。
私も結局親の愛をもらえなかった子供だった。誰かを頼りたい、頼られたい、存在意義が知りたい・・そんな時に会えたのがアルトだったんだ・・。)
共依存関係に気づいても、別に良いと思った。いびつながらもこれが家族の形だと思っていたから。
でも帰り道、アレックスと話していて、自分の言いたいことが言えない気持ち悪さが出てきた。押し殺されていたようなこの感情は何だろう。何なのだろう。気が抜くとなぜか涙が出てきそうだ。これではいつものユリアナではない。アルトの良い姉ではない!
(早く!早く!家に帰りたい!!)
気持ちが焦る。ユリアナは走り出した。




