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太陽のデイジー ~私、組織に縛られない魔術師を目指してるので。~  作者: スズキアカネ
外伝・東で花咲く菊花

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消せない傷


「お前、く、狂ってんじゃねぇの!?」


 未だに股間の痛みが引かない様子の男は股を庇ったまま涙目で叫んだ。

 その言葉にあたしはイラつく。


「狂ってるのはお前だ! 乱暴に引きずり込んで、何をするつもりだった! あたしが反撃をしないような弱い人間に見えたか!?」


 見くびられてるみたいだが、あたしは決して弱い人間じゃないぞ!

 身を守るためなら、人を傷つけることも厭わない…!


「キッカ!」


 背後からあたしを包み込むその腕。誰かが拘束するように抱きついてきた。

 目の前に敵はいる。じゃあ後ろにいるのは誰?


「いやだ! 離して!!」

「キッカ! 危ないから!」


 あたしは後ろから拘束されたまま小刀を振り回す。その拍子にあたしを襲った男は足を縺れさせながらその場から逃げていった。


「大丈夫! もう大丈夫だから落ち着け!」

『いや、こわい! 母さん、兄さん助けて!』


 後ろから言い聞かせるように何かを言われたが、あたしは恐怖のあまり、母国語を叫んでいた。

 後ろにいるのは誰なんだ、いやだ、いやだ怖い。私もあの女達のように力で押さえつけられて奪われるのか。

 助けて、だれか助けて!!


『あたしに触らないでー! やだぁぁあ!』

「キッカ!」


 混乱状態で泣き叫ぶと、背後にいる相手も同じくらいの声量であたしの名を叫んだ。


「キッカ聞け! 俺はお前を傷つけない!」


 背後にいる人物は刃物を持っているあたしの右手を上からギュッと握りしめてきた。


「もしも俺がお前になにかしたらこれで刺せ。それで怪我をしたとしても、俺がお前を責めることはない」


 呼吸が乱れていたあたしは何を言われたのか理解できずに、一瞬呼吸が止まった。

 暴れていたあたしを拘束していた腕がそっとほどかれ、後ろにいた人物がそっと前に現れる。


「大丈夫、キッカを傷つける奴は俺が容赦しないから」


 刃物を持つ手をしっかり握られ、優しく言い聞かせられたあたしは彼の顔を見て、不思議に思った。なぜスバルさんは自分のことのように痛そうな表情を浮かべているのだろうか。なんでそんな顔をするのだろうか。

 ポンポンと頭を撫でられていると、徐々に恐怖がぶりかえしてきて視界が歪んだ。ぼろぼろと頬を流れる涙は熱い。

 あたしは何度涙を飲んだだろう。奪い奪われ、生きるか死ぬかの世界。それが当然で、いつの間にか諦めるようになった。あたしは無力なんだって。自分が生き残ることしか考えられなかった。

 だけど本当は悔しくて、どうにかしてやりたかったんだ。


 力強く握っていたはずの小刀が自分の手からこぼれ落ちる。

 あたしはずしゃりと地面に膝をつくと、前に倒れ込んで泣きわめいた。顔や着物が土に汚れようとお構いなしに、あたしは悔しさや悲しさを土にぶつけるように泣いた。


 そんなあたしの背中をスバルさんは黙って撫で続けていた。中途半端な慰めや、上辺だけの同情をするわけでもなく、ただ傍に寄り添っているだけ。

 今のあたしにはそれで十分だった。

 あたしの苦しみはあたしにしかわからないのだから。


 泣いて、泣いて、泣き叫んで。

 あたしは泣き疲れてそのまま地面の上で寝入ってしまった。


 次に目覚めたときには布団の上で、悪夢でも見ていたのかと思った。

 しかし、母さんにお仕事をお休みしなさいと言われ、おっかない顔をした兄さんが取り立てに行く借金取りみたいな形相で出勤していくのを見送ったので、あれは夢じゃなかったんだなぁと憂鬱な気持ちに襲われたのであった。



□■□



 一日仕事を休んで、その翌日に職場に出向くと、あの男はいなくなっていた。

 伯父さんが解雇を言い渡したそうである。もともと勤務態度も良くないし、取引先の女の子につきまとうなどの不良行為もあったとのことで、見限る時期を探っていたと言っていたが、多分伯父さんの耳にもあの事が入ってるんだろうなぁ……

 仕方のないことだけど、私に何も言わないのがありがたいというか、居た堪れないというか……。


 ちなみにあの男はこの町からも追放したとかどうとか。二度と近づかないと念書まで書かせて追い出したそうだ。

 そんなこと出来るの…? と疑問に思ったが、スバルさんのお祖父さんの顔の広さと権力を使ったとかで、スバルさんが頭を下げて実現したのだそうだ。

 …スバルさんのお祖父さんは一体何者なのだろうか。



 一日あけて再会したスバルさんはいつもどおりだった。お昼にはあたしがちゃんと食事してるか監督しながら、餌付けも忘れない。いつもどおりで拍子抜けしたくらいである。

 しかし、あたしはそうはいかない。それとなく、「あたしの面倒を見ようとしなくていい」と彼に言うと、スバルさんはなにやらむっとした顔をしていた。


「…面倒とか別に思ってないけど。俺がやりたくてやってるだけだし」

「で、でも…」

「なに?」


 なんだか少し機嫌を悪くさせてしまったみたいだ。こっちを不満そうに睨んでくるスバルさんの目を直視できずに、あたしは視線をさまよわせる。


「あの、えっと…」

「……まさかと思うけど、サツキになにか言われた?」


 スバルさんの指摘にあたしはぎくりとした。

 鋭い。なぜわかったんだ。


「サツキになんか言われたから、あの時逃げたのか?」


 逃げたと言うか……なんかあの場にいちゃいけない気がしたら……あれも逃げたってことに入るのかな。


「スバルさんの婚約者だから、馴れ馴れしくしないでって言われたから…」


 でも訳もなく逃げたわけじゃないのだと説明しようと顔を上げると、スバルさんが見たこともない顔をしていた。


「はぁぁ!? ありえねぇ!」


 スバルさんは両腕をさすって恐怖に震えていた。その顔はお化けにでも出会ったかのように青ざめていた。


「あれはただの従姉妹! 婚約者とかありえないから! サツキのやつ…よりによってキッカの前で嘘八百述べやがって…!」


 よく見たらスバルさんの腕に鳥肌が立っている。そんなに嫌か。…あの人、性格はきつそうだけど、顔は可愛く見えたけどな。


「むしろ小さい頃、しゃれにならねぇ意地悪されてたから、あの女のことは苦手なんだよ」


 小さい頃の話とはいえ、スバルさんにとっては嫌な思い出相手のようである。スバルさんにも苦手なものがあるんだな…。


「多分、俺の爺様がそこそこ権力者だから、玉の輿狙ってんだろ」


 だからスバルさんのお祖父さんは一体何者なんだ。権力者って……何してる人なの?

 そんなすごい人の孫なのにスバルさんはなぜ伯父さんの店で働いてるの? それがものすごく不思議なんだけど。


「気が強い通り越して性格ものすごく悪いからな、あいつ。地元じゃ嫁の貰い手いねぇんだろ」

「じゃあ…あたしは、スバルさんのそばにいても大丈夫ってこと?」


 他に婚約者がいるのなら、遠慮しなきゃいけないと思って、一応再確認で尋ねたのだが、スバルさんの反応は思っていたのと違った。

 彼はあたしの顔を覗くように近づいてくると、柔らかく微笑んだ。


「全然いてくれて構わねぇよ。むしろそばにいて欲しい」


 スバルさんの笑顔がなんだかやけに眩しくて、目の前がチカチカした。 

 彼から特別な言葉を与えられたようで胸の中がポカポカ幸せなぬくもりに満たされたような気がしたのだ。


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