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太陽のデイジー ~私、組織に縛られない魔術師を目指してるので。~  作者: スズキアカネ
Day‘s Eye 魔術師になったデイジー

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女神の予言


「デイジー様、ようこそいらっしゃいました」


 サンドラ様直々のお出迎えを受けた私の凝り固まっていた表情筋と肩の力が緩んだ。

 彼女は本当に不思議な人だ。普通の人にはない雰囲気がある。


「こんにちは、サンドラ様」


 私が挨拶すると、彼女は目元を緩めて嬉しそうに笑っていた。

 あの曲者ラウル殿下は、サンドラ様の笑顔を見たいのに中々見れないと私に愚痴っていたが、そんなことはない。彼女はよく笑う。

 大巫女という重責を背負ったすごい人なのに、私と2人で話している時は年頃の少女のように笑うのだ。今の私が貴族の仮面を被っているように、彼女も大巫女の仮面を被っているのだろう。

 性格が全くの正反対だけど、何かを抱えている私達だからこんなにも惹かれ合い、親しくなれた。


 月イチの行事となっている神殿参りの日には決まってサンドラ様がお出迎えしてくれる。

 彼女はシュバルツ王国の最高神職者の大巫女。日々多忙を極めており、暇というわけじゃないのに、時間を作って私をお茶に誘ってくれる。

 不思議と、彼女の前では本音を吐き出せた。その時間が今の私の癒しになっていた。


 サンドラ様の案内で神殿の祈りの間に行くと、女神への供物を供えてお祈りする。

 祈りの間にある泉の奥には女神像があって、大巫女はこの泉に浸かって女神と交信するのだそうだ。……この泉には清らかな乙女しか入れないのだという。


 私は女神像を仰ぎ見た後に、手を組んで祈った。

 大切な人たちの幸せを。遠い空の向こうにいる彼らの健康と平和を。もう帰れない場所へ思いを馳せながら、女神に祈った。

 ──その、直後であった。


 ふわっと水の元素達が暴れだす気配を感じた。どこからか強大な力が作用して水が動き出したのだ。

 ぱっと顔を上げると、目の前に水で出来た大きな手のようなものが私に向かっていたのだ。


「…!?」

「デイジー様!?」


 抵抗する間もなく、伸びてきた水の腕によって私は水の中に引き込まれた。

 目を白黒させながらもがくが、しばらくして気づいた。……水の中なのに苦しくないのだ。私はどんどん深いところまで引き寄せられる。──泉の底は光の差さない暗い場所なのだと思っていたが、そこは光で溢れていた。

 光を発している場所をじっくり観察すると、泉の底に何かの映像が映し出された。まるで投影術のようである。


 私は自分の目を疑った。

 そこに映し出されていたのは、私の故郷が火の海になり、知った顔の人たちが何者かによって残虐に殺戮されていく光景であった。


「!?」


 最後まで力の限り抵抗した村人や幼い子どもたちが死体の残骸となって地面に転がり、若い女性たちは押さえつけられて、見知らぬ男たちに乱暴を受けて泣き叫んでいる。


 私の家族は血の海に沈み込み、幼い甥っ子2人も情け容赦なく切り刻まれていた。村のあちこちで死体が転がり、地獄のような光景が広がっている。

 燃える町の真ん中にある樹齢200年の大樹の枝にいくつもの影がぶら下がっていた。

 ……首にロープを括り付けられた村人だ。 

 その中には、白銀の毛色を持ったあいつも映し出されていたが、彼も力なくクッタリとして木の上に吊るされていた。


 私はそれらを見て悲鳴すら出せなかった。衝撃を受けすぎて喉の筋肉が引きつってしまって、ブルブル恐怖で震えるしか出来ない。

 これは、なんだ。

 なんでこんな……獣人だよ? 戦闘訓練を受けているわけじゃない、普通の村人だけど、彼らは獣人だ。決して弱くない。力は強く、すばしっこい。身体能力に優れた種族なのに、なぜ…


 気難しくて有名な竜人の彼が同胞たちと共に生け捕りにされた。

 村にやってきた侵略者たちは竜人だけを集めて、転送術の魔法陣を使ってまとめてどこかへと転送させていた。……手を貸している魔術師がいるのだ。

 それらしき男の姿があった。マントのフードを被っているため顔は見えない。その魔術師が動くとその拍子に、胸元のペンダントが覗き見えた。瑪瑙石のペンダント。

 ……よく見たら、侵略者たちの持っている旗はハルベリオンの国旗に見えなくもない。


 ……ハルベリオン。

 彼の国が、私の故郷を襲っている。

 これは今起きていることなのか、過去に起きたことなのか、

 ──それとも、予言か。

 抑えきれない怒りで自分の身体が震えた。


 私の動揺を無視するかのように、パッと違う映像に切り替わる。

 今度は見覚えのない村に移り変わった。村は村だけど、随分と生活水準の低い村だ。そこでも住人である獣人が捕らわれ、無慈悲に殺されていく。

 ……生け捕りにされているのは皆、竜人だ。彼らは転送術の魔法陣でどこかへと転送され、城塞のような飾り気のない建物内に連れてこられていた。

 そこで見たもの。

 私は一瞬理解が追いつかなかった。


(……たべ、てる?)


 泣きわめく竜人の首を、手入れされていない錆びた斧で切り落としたかと思えば、その肉を調理して食べていた。

 獣人の半分は獣だが、もう半分は人である。耳や尻尾、性質などの違いが多少あったとしても、人間と同じ形をしたそれを食べる。…狂気の沙汰である。


 食べている人間はどこの誰だかわからないが、ガリガリにやせ細っているのにお腹だけは妊婦のようにぽっこり膨れていた。

 シワだらけの身体のあちこちに変な痣がある。老人のように見えるが、年齢はもっと若いのかもしれない。おそらく病気か何かだろう、ものすごく悪そうだ。

 ……この人は何故、竜人を食べているのか。

 先日、辺境伯が得たグラナーダの獣人狩りの話となにか関係があるのだろうか…


『──これは、過去に起きたグラナーダ襲撃の様子です』


 隣に誰かの気配を感じ取った私は、そちらへ視線を向ける。

 いつの間にか誰かが私の隣に立っていたようだ。地面につくくらい長い、銀色に輝く髪を持つ女性。年齢は若く見えるが、見方によれば老婆にも見えた。……その姿は、先程見た女神像そっくりの容姿をしていた。


『自分たちの身勝手な理由から好き勝手に乱獲したせいでドラゴンは絶滅の危機に瀕していると言うのに……人間は愚かにも生にしがみつく……』


 彼女は淡々と他人事のように語る。人間たちのことなど興味ないとばかりに、その目は凪いでいた。


『これと同じことが、あなたの育った村でもこれから起きるでしょう』


 その言葉に私はぐっと唇を噛み締めた。

 予言だ。女神フローラは私に直接予言を下そうとしているのだ。


『あなたはどう動きますか、アステリア・デイジー・フォルクヴァルツ。奇妙な運命の糸に絡まったあなたはどうしますか? これから起きる悲劇にどう立ち向かいますか?』


 まるで挑んでくるような言い方であった。

 女神フローラは慈悲深く、残酷で、気まぐれな御方。彼女の言うことに色々思うところはあるが、考えている時間はないみたいだ。

 心が決まった私は動き出す。彼女の問いかけに返答することなく、泉の底を蹴って水面に向かって浮上する。


「デイジー様! 大丈夫ですか!?」


 ずぶ濡れ姿で私が泉から出てくると、慌てた様子でサンドラ様が駆け寄ってきた。私は彼女が差し出すタオルを受け取らずに単刀直入に伝えた。


「ハルベリオンがエスメラルダに攻め入るとの予言を受けました。私の故郷である、辺境の獣人村が目的です。…なので私は帰ります」

「えっ、ハルベリオンが…?」

「御前、失礼いたします」


 行かなくては。

 私が守らなくては。

 大切な人をここで見捨てたら、私は一生後悔する。

 私は彼らに命を救われた。私は恩返しをしなければならない。自分に与えられた力で大切な人たちを守るんだ…!


 私は濡れ鼠のまま、その場で転送術を使ったが、何度も結界に阻まれてなかなか先に進めなかった。だけど馬車やルルの飛行じゃ間に合わない。転送術が一番早い移動手段なのだ。


 きっとすぐに事は起きる。

 ハルベリオンは私の故郷に狙いを定めてやってくる。


 祖先による乱獲、ドラゴンの減少。

 ドラゴンの密猟を企てるも、老ドラゴンの返り討ちでドラゴンの妙薬が手に入らなかった。

 ──ハルベリオンは妙薬を欲している。どんな卑怯な手段を使ってでも、生きたいと思っている人がいる。


 手始めにエスメラルダ辺境にある獣人村を狙うつもりなのだ。

 以前にも増して厳重な守りになったシュバルツ王国を狙うよりも、エスメラルダのほうが容易いだろうから。あわよくば金目のものや女性たちを奪おうと目論んでいるのであろう。


 人の命を外敵から守るための結界が今はただ邪魔な防壁にしか感じられなかった。

 私は行かなくてはならないのに。


 血に濡れた地面に転がり、目の光を失った家族の姿が頭をよぎる。見せしめに吊るされたあいつの姿が目に焼き付いて離れない……


 そんなの嫌だ、絶対に嫌だ!


 じわりと視界がゆがむ。

 駄目だ。今は泣くんじゃない。まだ間に合う。


「時空を司る元素たちよ、我が故郷まで送り届け給え!」


 私の唱える呪文は情けなく震えていたが、まわりの元素たちは私の意志を汲み取ってくれた。


 別離を誓ったのに、心の奥底では帰りたくて仕方なかった故郷に私は飛んで帰ったのである。


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