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森永

森永が目を覚ましたとき、鼻を突く焦げた肉の匂いと腐敗臭、肌にまとわりつく異様な灰に思わず咳き込んだ。


視界がぼやける。目をこすりながら体を起こすと、自分が横たわっていたのは、無数のゾンビの死体の上だった。腐敗した皮膚、空虚な瞳、引き裂かれた服。

ゾンビ収集車で集められたが、物資として不合格だった「ゴミ」だ。


ここは、基準を満たさなかったゾンビを処理する場所――焼却炉だった。


1日に数回、全てを灰になるまで燃やしている。


眠っている間に、こんな所へ連れてこられたらしい。

窮地に陥ったのはわかるが、対応策はある。


焼却炉は、生きたゾンビがいても外へ出ないよう下に扉はない。出口は真上で、およそ200メートルほどある。

ゾンビを積み上げていき、塔にして出ればいい。時間もたっぷりある。


「あいつら、俺を舐めてるのか。後悔させてやる」

物資として歩かせるだけでは足りない。生きていることさえ苦しむほど、地獄へ落としてやる。



森永は、死体の山から立ち上がった。ゾンビの体は腐敗でブヨブヨして足元が滑るが、さほど問題はない。


さて、積み上げていくか、――その時



出口に影がみえる。誰かが助けに来た?

そう目を凝らしたら、上から数体のゾンビが落ちてきた。

物資として不合格になったゾンビ死体が、また増えた。


定期的に上から降ってくる。上を見ながら作業しないとな。


降ってくる死体を避けながら、少しづつゾンビを積み重ね、上の出口へと近づいていた。

バサッ、また数体が降ってきた。


森永は今落ちてきたゾンビのなかに、人間が一人紛れていることに気付いた。


「何だ、このお婆さんは」


腐敗は進んでいるが、明らかに人間の高齢者だった。

ゾンビ収集車に間違って乗せられたか…。死んでいるから良かったが、何かの間違いで生きた人間がここまでたどり着けば、情報が漏れる可能性もある。


まったく、どいつもこいつも頭の悪い。


…しかしこのお婆さん、手に包丁を握っている。

死んでいるにも関わらず、まるで手に貼り付いているかのように。何か怨念でもあるのだろうか。


「ま、日本人だしな。火葬ってことで、成仏してくれや」


そう言ってまた作業を進めようとした時―――


上から焼却炉を埋める程の、大量のゾンビ死体が塊で降ってきた。



森永の姿は、ゾンビ死体が全て隠し、あとは焼却炉で燃やされるのを待つだけとなった。








蓮は、少し離れたところから焼却炉を眺めていた。

炎が唸りを上げ、煙が天井の排気口へと吸い込まれていく。


森永は、ゾンビたちと一緒に灰となるはずだ。


紬と智春もいるが、森永があそこにいることは伝えていない。

ただ、ゾンビの最後を見たいと行って連れてきた。



「俺のばあちゃんも、ゾンビになってここにいたりして…」


智春が、出ていったとされているおばあさんの行く末を思っていた。


「いや…、智春のおばあさんだ。きっと人間のままだよ」



「そっか…。でもさ、なんかもう死んでる気がするんだ。人間かゾンビかわからないけど、ばあちゃん、きっと俺のこと見守ってくれてると思う」


喉の奥で言葉が詰まる。

蓮は知っている。人間として生きたまま、ゾンビ収集車に連れて行かれたことを。そして、きっとこの焼却炉で灰になっている。


紬は、蓮の肩に手を置いた。

「蓮、この施設をぶっ潰しちゃおう。せめてこれ以上は、こんな思いを誰にもしてほしくない」


紬の言葉に、智春も頷いた。

「もし俺がゾンビになって、こんな所で物資にされたらたまんないよ…」


蓮は少し笑った。

「確かに、良いエネルギーを発生させそうだ。A級だぞ」


だから、嫌なんだって!と智春は文句を言ってる。


「…さ、もうひと仕事だ。ぶっ潰すぞ」

紬は頷き、智春も親指を立てた。

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