表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/20

出会い

太陽が昇ると、キャンピングカーの屋根に並ぶソーラーパネルが静かにエネルギーを吸収し始める。20歳の青年・れんは、車内のベッドからゆっくりと起き上がった。外は静寂に包まれていた。ゾンビが徘徊する世界では、静けさこそが安全の証だった。


蓮の愛車は、電気で動くキャンピングカー。ガソリンの供給が途絶えたこの世界では、太陽だけが彼の旅を支えてくれる。車体には、ゾンビが嫌う特殊な臭いの塗料が塗られており、ゆっくりと走る限り、ゾンビが近づいてくることはない。まるで彼の存在を無視するかのように、ゾンビたちはその匂いを避けて彷徨っていた。


車内には、かつて廃墟となったスーパーから集めた食材がぎっしりと詰まっている。生き延びるためには、まず腹を満たすことが最優先だ。


「今日も、静かに進もう」


蓮は運転席に座り、ゆっくりとアクセルを踏んだ。キャンピングカーは音もなく滑るように動き出す。目的地はない。ただ、ゾンビのいない場所を求めて、太陽の下を走り続けるだけだった。

蓮がキャンピングカーを止めたのは、かつてキャンプ場だった場所。見渡しもよく、うっかりゾンビが隠れていた、なんていうこともないだだっ広い平地だ。ゾンビの気配もないため、久しぶりに外で夕食を取りたくなった。車体にはゾンビ避けの臭いがついているから、遠くに行かなければ危険性は低いはず。たぶん。

夕食の準備で缶詰のコーンスープを温めながら、静かな夜に耳を澄ませる。

鈴虫の音が聞こえる。そろそろ秋か。


「久しぶりに焼き芋が食べたい…。無理だけど」

ホクホクの、割ったら湯気が出る焼き芋を想像する。ゾンビがこの世に出る前に戻れたら、焼き芋の缶詰を開発したい。


キャンピングカーにはいろんな食材を保管しているが缶詰や乾麺がメインになる。

生きるうえで問題はないが、食べたい物を食べたい時に、という生活は幻想となってしまった。


そのとき、かすかな足音が聞こえた。


「誰かいるのか?」


蓮はすぐに車内に戻り、窓から様子をうかがった。すると、木陰から一人の少女が姿を現した。18歳くらいだろうか。肩までの黒髪、汚れたリュック、そして鋭い目つき。


「変なことしないで。武器は持ってないけど、叫ぶわよ」


「それは困る。夕食を邪魔しないでくれ」


少女の名前はつむぎ。数日前に家族を失い、一人で移動していたという。蓮は彼女を車内に招き入れるか迷ったが、結局、キャンピングカーの外で食事を分けることにした。


二人は焚き火を囲みながら、言葉少なに食事をとった。


「この車、変な匂いがする…」


「自作。効果はあるみたいだ。今のところは」


紬は蓮をじっと見つめた。警戒心は強いが、どこか安心したような表情も見せる。


「父と母と家に籠もって隠れてたんだけど、どうしても食料がなくて。父だけ外に出たの。でも帰ってこなかった。


私と母も不安と空腹のまま一緒にいて、喧嘩が止まらなくなって。このままの関係で餓死したくないって、二人で近くのスーパーを目指した」


コーンスープをすすりながら、心を落ち着かせようとしていた。


「もし君が辛いなら、無理に話さなくてもいいよ」


「ありがとう。でも、経緯を言っていた方が警戒を取れるかなと思って」


それはもちろんその通りだけど。紬は何度か詰まりながら、続きを話した。


「スーパーの手前で、お父さん死んでた。ゾンビじゃなかった。人間として死んでたのがまだマシかな。たぶん、お父さんを殺したのも人間だけど。


それで、スーパーにはあんまり食料残って無かったんだ。お酒もね。みんな酔って、その間だけでも現実を忘れたいのかな」


アハハッと乾いた笑いをした。


「途中でゾンビに見つかっちゃって。二人で走ってたんだけど、紬は逃げなさいって言って、お母さんがゾンビと格闘し始めて。私の娘に手を出すなー!って言いながら」


ボロボロと涙を流す紬。


「それは大変だったね…」


「それで生き延びたけど、結局その時だけでどうすれば良いかわからなくて。

途中でこの車を見つけて、後を付けてた。ゆっくり運転してくれるから、ゾンビに隠れながら」


勝手に付いてきてごめんなさい、と頭を下げた。


「そうなんだ。急に現れたから驚いたけど…。

うん。そろそろ夕食を終えて、車に乗ろうか」


彼女に夕食を振る舞ったのは、時間稼ぎもある。

ゾンビになるには大きな傷なら短時間だが、小さな切り傷なら脳が汚染されるまで時間がかかる。

もう1時間程度は話したので、恐らく彼女は真の人間だろう。


「受け入れてくれるの?助かる」


「あぁ。運転免許はある?無免許?ちょっと練習すればすぐ慣れるよ。向こうが避けてくれるからね」


ニヒヒッと笑う俺に、紬も泣いた後の顔で、つられて笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ