ハンコ先生の方がたるんどるぅ!
小学三年生の頃の担任は、気に入らないことがあると教え子の体にハンコを押す先生だった。ここでは先生の事を「ハンコ先生」と呼ぶことにする。このハンコ先生はかねてから上級生たちが「ハンコ先生に逆らうと、オデコにハンコを押されます。」と言われていたほどの鬼教師で、はっきり言って私にとっては厄介な鬼教師が担任になってしまったと思う。
宿題を忘れたらハンコ一つ押され、雑巾がけを強制。それなら仕方ないとは思うが、授業以外で図書室へ行ったら「たるんどるぅ」のハンコ、歯磨きの時間を先生と同じ10分にしなかったら「たるんどるぅ」ハンコ…まさに自分が一番正しいと過信しすぎている先生なのである。そもそも、私は後者で歯磨き時間中何度も歯茎を切った。私だけではない。他のクラスメイトで、10分の歯磨き時間中に歯茎を切って、歯医者で注意された子もいた。よっぽど、教え子のちょうどいい歯磨き時間を認識したくなかったのだろう。
要は自分が気に入らないことをする教え子は全員「たるんどるぅ!」と思っていたのだろう。ハンコ先生の中ではの話だが。
そんなハンコ先生に会いたくないのか、当時の私は体調を崩しがちになり、通学班に置いて行かれることがしょっちゅうあった。今なら「体調悪いなら無理せず休め」とか言われるだろうが、親に無理矢理学校に連れて行かされる事が多かった。そんな私はハンコ先生にとっては「たるんどるぅ!」と思われただろうが、私から見れば教え子に自分のエゴを押し付けるハンコ先生の態度が一番「たるんどるぅ!」と思うのですがね。
令和の現在ならハンコ先生の行為もPTAから「たるんどるぅ!」と言わんばかりの物言いが来るでしょう。下手したら「児童の身体にハンコを押す行為は体罰」だと罵る人も出るかもしれません。令和の今ではの話ですけど。
そんなハンコ先生も、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件の後、日立市の中学校へ異動となった。それを知った時、私は本当に嬉しく、頭の中で万歳三唱したくらいだ。もう身体にハンコを押される心配がなくなり、歯磨きも10分やらなくていいし、4年生からは図書室で昼休みを過ごしていいんだ…それがただ嬉しかったのである。
そんなハンコ先生の消息は現在も掴めていない。そもそも、ハンコ先生には同姓同名が多く、苗字も全国114位と人数が多い名前な上に、ハンコ先生の下の名前にどの漢字が使われていたのか忘れてしまったからだ。さすがに定年で退職されてはいるだろうが、私のようなハンコを押されまくった教え子からの評価が「たるんどるぅ!」扱いだとはさすがに思ってはいないだろう。