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第4話「女子と過ごす放課後」

 ──じゃあ放課後ワック食べに行こう!!


 もうすぐ本日最後の授業が終わるが、(いま)だに小此木の声が頭から離れず、授業の内容など頭に入ってこない。

 俺と平川架純が揉め事一歩手前までいっていた事は事実で、その仲裁に小此木が介入してきて、話が丸く収まったところまでは理解できる。その後、小此木が俺と平川を誘って放課後ワックに行くという流れが理解できなかった。

 どういうつもりだ。

 小此木と平川は友達だから分かるが、何故俺まで一緒なんだ。

 悶々(もんもん)としながら過ごしているうちに、帰りのホームルームも終わった。


「さあ中居くん、行こう」


 それと同時、駆け足で俺のところに来たのは小此木。

 その後ろには気まずそうな顔を浮かべながら、黙って小此木の後を追う平川の姿があった。


「珍しい組み合わせね、どういう風の吹き回しかしら?」


 声の主を見た瞬間、面倒くさいことになりそうだと予感が走った。


「あ、藤村さん」


「藤村、わりーけど絡むんなら後かメッセージにしてくれ」


 平川が気まずそうな手前、俺も気まずい気分になってしまう。藤村からアレコレ言われる精神的な余裕がない。

 藤村に早く帰ってもらいたかったので、俺はしかめっ(つら)で藤村にそう言った。


「え、中居くん、藤村さんの連絡先知ってるの?」


「あ? まあ、聞かれたから……」


「く、クラス委員として聞いただけよ。中居君、クラスグループに入ってくれないから連絡事項がある場合、私が個別でするしかないのよ」


 何故そこで藤村が動揺しているのか分からなかったが、小此木と平川の(いぶか)しむような顔はそれでは()れなかった。


「なんや中居、あんたやっぱ女たらしなんか?」


「人聞きの悪いことを言うな、交換してからまだ業務連絡すらしてねーよ」


「まあまあ、二人がそう言うならそういうことなんだよ。架純、落ち着こう?」


「まあ、うちは中居と藤村さんが仲いい分にはええんやけど」


 勝手に仲良し認定するな、心外だ。


「そうだ!! 私たち、これからワック行くんだけど、藤村さんも一緒にどう!?」


「え、私も?」


「は?」


「え、美咲?」


 小此木の提案には、三人揃って度肝(どぎも)を抜かれた。

 俺に加えて藤村まで誘うとか、一体コイツはどういう意図(いと)で動いているんだ。


「中居くんとは話すみたいだけど、藤村さんとは話したことなかったし、これを()にクラスメイトとして親睦(しんぼく)を深めようよ」


 にこやかに笑って藤村を誘う小此木だが、藤村のほうは小此木の誘いに戸惑っている様子だった。


「……まあ、今日は用事もないわね。いいわよ、ご一緒させてもらうわ」


 しかし藤村は数秒ほど熟考(じゅっこう)した(のち)、小此木の誘いに乗った。


「決まりだね!! じゃあせっかくだから駅前まで行こう!!」


 小此木は拳を振り上げ、張り切った様子で俺たちの先陣を切る。

 完全に小此木のペースに乗せられる形なのだが、今更帰りたいとも言えない状況なので、仕方なく素直に従って小此木の後を追った。


 静岡県、内田市(うちだし)

 人口は約十九万人。古くからこの地域の中心都市として(さか)えていたらしく、海沿いにある温暖なこの(まち)は、水産業とみかん生産が(さか)んらしく、過去にアニメの聖地になったことや(ほか)の観光地が近いことから、年間を通して観光客が多い。

 そのおかげか普段生活するには(こま)らない程度には今でも(にぎ)わい、駅前には映画館や商業施設など、おおかたの店舗(てんぽ)が揃っている。

 俺たちは駅北口の真正面にある、ワクドナルドという全国チェーンのファーストフード店に入った。


「席確保ー!!」


 ちょうど週末の放課後ということもあって、他校の学生も含めて結構な人数の客が店内にいたものの、小此木が席を確保して高らかに声をあげた。


「はしたないで、美咲」


「まあまあ。ちょうど四人席だから、みんな座って座って」


 小此木に(うなが)されるがまま、小此木と平川は壁沿いの席に座って、その正面に向かい合う形で俺と藤村が並んで座った。


 ──マジでこれ、どういう面子(めんつ)だよ。


 藤村とはいつもいがみ合っている関係なので、まさかワックとは言え一緒に食事をするとは主よ無かったし、平川なんか今日(こんにち)まで一度も話した事がなかった相手。

 小此木の謎の行動力がなければ、この面子が揃うことはなかっただろう。


「じゃあえっと、架純は中居くんと藤村さんとは全く絡みなかったよね?」


「え? うん、マトモに話したの今日が初めてやね」


「じゃあまず(あらた)めましてだけど、自己紹介からいってみようか」


 自己紹介と聞いて面倒くさいと思ったが、確かにコイツら全員どういう人間なのか、関係性が薄すぎてわからない部分はある。

 小此木とは友好的だが、話すようになって日が浅い。

 藤村とはいつもいがみ合っているが、所詮はクラスの不良と委員長の間柄(あいだがら)

 平川に(いた)っては、マジで誰だかわからないレベルだ。


「小此木美咲です!! 生まれも育ちも内田。趣味は色々あって、漫画読むでしょ、あとカンフー映画好きでしょ、あと最近昭和のレトロなもの興味あるでしょ、後はえーっと……」


 趣味多いな、こいつ。

 ていうかカンフー映画は俺も好きだし、漫画は何を読むんだか知らないが、昭和レトロに関しては俺もビーバップなファッションを(この)んで昭和の不良みたいな服装をしているので、意外と趣味は合うのかもしれない。


「まあ色々あります!! 特技は家で家事やってるから、料理とか編み物とか結構できたりします!! とにかくノリと勢いで生きてますんで、みんなよろしくね!!」


 小此木がぺこりと頭を下げると、平川が拍手をする。

 それに合わせて藤村も拍手をし始めたので、一人だけしないのも空気が読めないから俺も軽く拍手をした。


「じゃあ次、架純よろ」


「え、うち……えっと。押忍(おす)、平川架純です」


 今度は平川が起立し、何故か拳を握って空手の押忍(おす)から自己紹介をし始めた。


「親の転勤で、大阪の寝屋川(ねやがわ)から中三の時に引っ越してきました。未だに関西訛りが抜けません。五歳の頃から空手やってます、今でも道場通ってます。趣味はお洒落と体を鍛えることですね」


 絵に描いたような脳筋(のうきん)だな、あれだけの突きが()てる理由がわかった。


「美咲とは去年クラス一緒になってから、友達です。昔から周りに短気や言われますけど、ちゃいますねん。関西のノリ抜けへんだけや。普通にうちみんなと仲良くやっていきたいんで、よろしくお願いします」


 平川が言い終えると、今度は小此木が拍手をし始めたので、俺と藤村も便乗する形で拍手を(おく)った。

 平川は全員に礼をしてから着席する。

 流石、武道やっているだけあって礼儀は正しい。


「このまま反時計回りでいこうかな、じゃあ次は藤村さんだね」


 小此木に(うなが)され、藤村がすーっと静かに立ち上がった。


「藤村詩歩です。私も内田生まれ、内田育ちです。三組のクラス委員を務めさせていただいております。趣味はお笑いを見ること、あとは野球が好きで好きな球団は横浜ベイスターズです」


 本でも読んでいそうな印象だったが、意外と普通の趣味であることに驚いた。

 そういえば小学生の頃、仲良かった女の子にお笑い好きだった子がいた。

 藤村とは関係ないだろうが、何故かその子のことを思い出した。


「クラスでは鬼の委員長なんて呼ばれていますが、全然鬼じゃないです。私が手厳しいのは中居君を筆頭(ひっとう)に問題児だけです」


「オイてめえ」


「同じクラスになれたのは何かの縁。仲良くしましょう、よろしくお願いします」


 藤村がぺこりと頭を下げると、小此木と平川から拍手が沸き起こった。

 謎に俺だけ槍玉に()げられたが、気持ちを(おさ)えて俺も一応拍手を(おく)った。


「じゃあ最後は中居くんだね」


 反時計回りに自己紹介をしてきて、(つい)に俺の出番が回ってきた。

 自己紹介なんて反吐(へど)が出るほど苦手だが、この流れで俺だけ拒否するのは流石に空気が読めないので、ポケットに手を突っ込んで(だる)いアピールをしなから立った。

 女子三人がやり切ったのだ、ここでビシッとキメなければ男じゃない。


「東高二年、中居祥太」


「ここにおるの全員二年やん」


 平川から関西風の鋭いツッコミを受けたが、ぐっと(こら)えて自己紹介を続ける。


「生まれは内田、育ちも内田。趣味は……まあ、車とバイク。今は原チャしかないけど、十八なったら速攻免許取る予定。あと割と漫画読むし、映画も見ます」


「イメージ通りやな」


「確かに不良らしいわね」


 なんで俺の時だけツッコミが入るんだ。


「まあ、俺こんな風貌(ナリ)だし、全然真面目じゃねーんだけどよ、友達(ダチ)になった奴にはキッチリ筋通すんで……夜露死苦(よろしく)


「よく言い切った、中居くん!!」


 小此木が盛大に拍手をし始めたのを皮切りに、藤村と平川も拍手してきた。

 クソ恥ずかしい。

 着席すると同時、頬杖(ほおづえ)をついて三人から顔を()らした。


「にしても変なメンバーやな。うちと美咲はともかく、優等生の委員長とヤンキーもいるし」


「優等生なんて、私はそれほど上等なものじゃないわよ」


「えー、でも藤村さん頭もいいし、委員長として中居くんにも(おく)さない姿はカッコいいと思うよ!!」


「そんなことないわ……」


 藤村の顔が少し赤くなっているような気がした。

 藤村でも()れることはあるんだな。


「私は小此木さんと平川さんほど社交的ではないから、二人のように誰とでも打ち()けられる事のほうが凄いと思うわ」


「そんなことないよー、ノリと勢いだよ」


「せやな、勢いは大事やで」


「あと私のことは美咲でいいよ。気軽に行こ、私も詩歩ちゃんって呼ぶから」


「うちも架純でええで」


「そう。ならお言葉に甘えて、美咲に架純……そう呼ばせていただくわ」


「お待たせしました、ビッグワックセットご注文のお客様──」


 女子は打ち解けるのが本当に早い。

 最早ただの女子会と化し、俺は完全に空気化してしていた。

 ちょうど提供されたビッグワックセットのポテトを()まみ、女子三人が談笑している(わき)で一人だけ食が進む。

 思った、俺ここに来た意味ないのでは。


「こーら、中居くんも黙ってないで何か喋りなよー」


「ポテト貰うで」


「あ、コラてめえ!!」


 小此木に声をかけられたと同時、俺のポテトを盗み食いする平川に怒鳴る。


「別にいいやん、一本くらい。代わりにナゲットあげるから」


「……ああ」


 平川から差し出されたナゲットを受け取り、それを口に(ふく)んだ。


「この男は質問攻めにしてやるくらいでないと、恐らく何も喋らないわ」


「お、流石詩歩ちゃん。中居くんの扱いに慣れているね」


「伊達に毎日言い合いしてへんな」


「コイツが一方的に俺にあーだこーだ言ってくるだけだろ……」


「あら、あなたが問題行動ばかり起こすからよ」


 確かにそうかもしれないが、そう言う藤村の得意げな顔を見ているとムカつく。

 それに結局、この会は何を目的にしているのか理解できなかった。


「なあ小此木、俺別にいなくてもよかったんじゃね?」


「え、なんで?」


「いやだって三人仲良く女子会のほうが話盛り上がらん? こんな不良(ワル)の男がいてもよ、仕方なくね?」


 先ほどから居辛(いづら)さを覚えていたので、あえて本音をぶつけてみる。

 すると小此木は真顔になって、俺の目を一直線に見つめてくる。


「そんなことないよ」


 そして至って真面目な声のトーンで、俺の()いを否定してきた。


「だって中居くん、鈴木君と詩歩ちゃん以外とは誰とも話さないから、見てると()しそうに見えたし」


「別に寂しくねーよ」


「美咲の言う事わかるわ、そもそも誰とも関わろうとしてへんもんな」


「そうね。この男はグレるキッカケがなければ、教室で寝たふりをしているタイプの人になっていたと思うわ」


 小此木の発言を拒否した結果、特に藤村からはボロクソに言われてしまった。

 教室で寝たふりをしているタイプの人とか、最早ぼっちだと言われているようなもので、ただの悪口でしかない。

 とはいえ今までの人生を振り返ると、そうなっていた可能性も否定はできない。


「私、中居くんには恩義があるから、だから中居くんを放っておけないんだよね」


「それなら弁当の(けん)で十分果たされてるだろ」


「そうかもしれないけど、でもそれとこれとは話別だよ!!」


「諦めな、中居。こうなると美咲、人の話聞かへんからな」


「そうね、あなたは人の厚意(こうい)を素直に受け取ることを覚えた方がいいわね」


「てめえら……」


 余計なお世話だと言ってやりたいが、小此木の真剣な表情と、俺に突っかかってきた二人まで小此木に同調していて、三人は悪意ではなく善意で動いていることが十分に伝わってくる。

 それ(ゆえ)に否定しにくくて、俺は大きなため息を()くことしかできなかった。


「……好きにしろよ」


 一言、そう言うと小此木が満面の笑みを浮かべる。


「じゃあ今から中居くんに質問攻め大会だね!!」


「は? ちょ、勝手なこと抜かしてんじゃねーよ」


「おもろそうやな。このどヤンキーの生態、(あば)いたるか」


「生態ってなんだよ、俺は普通にヒューマンだが?」


「それは私も興味あるわね、丸裸にしてあげましょう」


「テメーまで悪乗りすんじゃねーよ!!」


 こうして俺は、女子三人から何故令和の今、昭和のヤンキーなファッションをしているのかとか、出身校の話とか、直人の話とか、色々な事を質問攻めにされた。

 小学校の話とか、家族の話とか、話したくないことは適当に誤魔化したが、色々な事を喋らされて気疲(きづか)れしてしまった。

 ただまあ。


 ──直人以外の奴とこれだけたくさん喋ったのは、久しぶりだった。


 そういう意味では新鮮で、不覚にも少し楽しいと思ってしまった。

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