プロローグ
毎日18時頃を目途に更新して参ります、よろしくお願いいたします。
この世の中は、歓迎される人と歓迎されない人の二種類に分類される。
俺こと中居祥太が通う内田東高校でも例にもれず、進級と同時に替わった新しいクラスにおいても、歓迎される人は主に男子たちの話題の中心になっていた。
「うちのクラスに小此木さん居るじゃん」
「マジ? やった、華の青春開幕じゃん!!」
「バーカ、小此木さんがお前なんか好きになるわけないじゃん」
「同じクラスなんだからワンチャンあるかもしれないだろ!?」
玄関に張り出された新しいクラス表の前に、大勢の人だかりができている。
それを見た男子生徒たちが、ある女子生徒の話をしていた。
「あ、小此木さんだ」
「やっぱ可愛いよな、あの子……仲良くなりてえ」
男子たちの歓喜の対象が、ちょうど目の前を通り過ぎる。
その子の名前は小此木美咲。基本、他人に興味がない俺だが、珍しい苗字と目立つ髪色、そして可愛いという評判が嫌でも聞こえてくるため、一年の頃のクラスは違ったが、彼女の存在を認知はしていた。
ブリーチをかけているからか、綺麗に桃色に染まったミディアムボブ。背は平均より少し小さいくらいで、学校指定の紺色のブレザーの上からだと、凹凸は控えめに見える。
しかしぱっちりとした栗色の瞳と、長い睫毛、あどけなさのある幼い顔つきで、性格は明るく社交的で友達も多い。
小動物的な可愛らしさを持ち、誰に対しても友好的だからか、男女を問わず人気があるらしい。
「うわ、マジか。中居と鈴木が同じクラスって」
「誰だそれ?」
「知らないの? 中居のほうは一年の頃、煙草吸ってるのバレて停学になった奴」
「あー、それ去年話題になったよな」
「鈴木ってのは中居とつるんでる奴で、どっちもヤバいヤンキーなんだよ」
──全部、聞こえてるんだよクソが。
一方の歓迎されない人とは、俺ともう一人、中学時代からの友達である鈴木直人のことだ。
玄関に差し掛かり、ガラスに反射して自分の姿が映る。
襟足が長めの黒髪オールバック。男子の制服である学ランを改造し、上は短ランで下はボンタン。ボンタンを締めるベルトは白のエナメル製で、左手に持った学生カバンは薄く潰したもの。
見た目からして、どう見ても不良。
それが俺、中居祥太である。
「うお、中居だ……怖ぇ」
「アイツ中学の時、鈴木と並んでツートップで周辺の不良を纏めてたらしいぞ」
「おいバカ、声でけーぞ」
──だから全部丸聞こえだって。
イラっとした俺は、噂話をしている男どもに目を向け、鋭くガンを飛ばした。
すると男子たちは体をビクッと震わせ、そそくさとその場を立ち去っていく。
「……ったく、そんな大層なモンじゃねーよ」
俺はただ、鈴木と好き勝手にバカやってきて、売られた喧嘩は全部買って、誰彼構わずムカついたらぶん殴ってきて、気付いた時には周囲にヤンキーやってる連中が集まり、集まってきた連中と一緒になってバカをやっていただけだ。
番格とか、そういうものにも興味はなかった。
──その結果が現在だ。
噂ばかりが独り歩きして、殆どの奴から恐れられる毎日。
周囲の奴らはみんな、完全に俺を腫れ物扱いしていた。
不良をやっているんだから当然といえば当然であり、今更真面目になろうとも思わない。
二年に上がったからといって、俺の人生は何も変わらない。
これからも退屈に、無気力に、反抗的に、荒れた毎日を送るだけ。
──そう思っていたんだ、あの日までは。