008
冒険者ギルドの依頼表が張られている場所に行くと、オークの生息域調査依頼が張り出されていた。生憎とDランク以上の冒険者でなければ依頼を受けられないのだが、優斗の場合はスキルマップがある。
あくまで優斗の勘でしかないのだが、現状で半径5キロメートル程度の索敵はできそうなのだ。この範囲で害意があるモノの索敵ができるのは、不意打ちを避けられるので非常に便利なのだ。
要すれば、ライフルもどきで遠距離からの攻撃も出来るだろう。そのライフルの射程距離の見極めのためにも、優斗はフィールドでの仕事を引き受けることにした。
仮登録に過ぎないGランクの優斗に受けられる依頼は、街の中の掃除や修理などの雑用か薬草探しと相場が決まっている。で、優斗が選んだのは薬草探しだ。各種初級ポーションを造るための素材である薬草が常時依頼の形で張り出されているのである。
魔力回復ポーションの素材として、ネグルマ草の葉肉とダリチンゲン草の花弁
体力回復ポーションの素材として、ワイオンヌの根及び茎、サビカラタチ草
治療ポーションの素材として、ボルゼンの実、ヴィットリアレンゲソウが挙げられている。
これらはいずれも道端に生えているような薬草であり、本来は採って来るのも左程難しくはないのだが、冒険者たちが街の外に出たついでに得物が無いときなどは小遣い銭稼ぎで採取してしまう嫌いがある。
従って、街の近くにはこれらの薬草が余り無いこともあり、低ランクでありながらやや危険な地域である街から離れた場所に赴かねばならないこともあって、実のところ低ランク冒険者からは余り引き受け手がないのだ。
もう少し上級者が低級ランクの者に気遣ってくれればそんなことはないのだろうが、初級ランクであるG・Fクラスから這い上がったE・Dクラスの中級冒険者の走りにそのような者が多いらしい。冒険者ギルドのレイナ嬢がそう言ってぼやいていた。
そうして、優斗がギルドを出る前に、レイナ嬢が、
「薬草採取は結構危険が伴うから余り街から遠く離れないようにしてね。」
と優しい言葉をかけてくれた。
まぁ、そんなわけで、優斗は街の西門から出て、西の原野に向かっている。優斗はそれら冒険者が未だ目を付けていない西側領域を歩いているのだが、最初に、対象の薬草を特定すると後は実に簡単な作業だった。
それら薬草を思念で意識すると、途端にマップ上にその存在位置が示されるのである。根こそぎ採っちゃうと、後々困るので、概ね全体の2割程度の採取にとどめているのだが、午前中だけでもかなりの数を採取していた。お昼は、創造魔法で創り出した天丼を準備した。飲み物は昼からビールを飲むことにした。
命がけの仕事をしているとはいえ優斗の新しい体はアルコールにめっぽう強く酔うことがない。魔物が徘徊する平原でも安心してビールを飲むことができる。この世界に来てかなり贅沢な暮らしを優斗はしている。
朽ちて倒れた枯れ木の幹に腰を降ろして絶賛昼飯中なのであるが、その最中にも害意あるモノを見つけてしまった。悪意の表示である赤い色の印である、今のところ優斗に敵意を抱いているわけではない。
向こうが優斗の存在に気づいていないのだから当然でもある。これが優斗に気づいて奴らに襲撃の意思が生ずれば、紫色に印の色が変わるはずだ。方向は、マップで見る限り、現在位置から西南西約5キロを超えるあたりか。
原野だから道もない。一応確認のためにそちらに向かうつもりだが、その前に念のため、ライフルモドキの射程距離を確認することにした。空気の筒をイメージして中に石でできた弾丸を詰めるようにしてその石を発射する。
弾丸は1000mほど飛んで行った。優斗の目も優れていて1000m先にある10円玉ほどの的もライフル魔法で打ち抜くことができるくらいの視力がある。準備が整ったので、隠ぺい術と隠密術を駆使しながら、目標と思しき集団に向かった。
動き始めてから森に入り10分経過後、見えた。木陰越しながらオークどもの集落。優斗の知っている範囲ではオークは繁殖力が強い魔物で、撃ち漏らすと一年も経たずに大集落ができちゃうので殲滅を期すことが必要。念のため、数を数えてみました。
マップ上で数えていたら急にデジタル表示がマップ枠外に出て来た。
「なんだ。これは!?」
察するにどうやらマップ内に存在するオークの数らしい。赤い色と黒っぽい灰色のマークが枠外に表示され、赤い色のマークには187、黒っぽい灰色のマークには今のところ0の数値が表示されている。
何を意味しているかというと、多分優斗がこれからオークを殺戮することを予想して、死んだ奴の数を表示するためのモノではないかと優斗は考えた、或いは間違っているかもしれない。
「それはともかく、殺戮ショーを始めるとしよっかな」
因みに射程距離を確認している間にも、ステータスをちょこっと確認したなら射撃というスキルが発生していた。訓練でさえスキル獲得できるんなら実戦で撃ったらレベルが上がるんだろうなと思う優斗だった。
距離は約千m、木陰に隠れ空気でできた筒に銃弾を込める。隠ぺい術を行使しているから多分オークどもの視界内に入っても、優斗の姿は見えないはずだ。そうして射撃を開始した。
3秒に一発程度の発射が徐々に早くなってきて、終わりころには1秒半に一発程度の発射だった。しかも全弾命中。肉が美味いらしいので、今回は遺骸も回収する予定。因みに今回は同じ頭部でも頸部に照準を当てて狙った。頭の中心を狙って吹き飛ばすと、討伐の証である耳が採れなくなる可能性が高い。
首を狙って正解だった。首がちぎれて頭も跳ぶが、少なくとも内部からはじけたメロンやスイカのような酷いことにはならなかった。実際、強力な弾丸を頭部にぶち込むと、射入口はさほど大きくはならずとも、射出口では大きく広がってザクロが弾けるように頭蓋骨が粉砕されて飛び散ってしまうらしい。
何れにしろ、撃ち始めてから10分とかからずに殲滅が終了した。その後は、ひたすら優斗はお肉の回収と耳剥ぎである。耳は、右の耳だけで良いらしい。射撃よりも耳剥ぎに多大な時間を要した。
マップには黒っぽい灰色パターンで表示されるので、大きな首なし遺骸は直ぐに見つかるのだが、頭部が転がって茂みの中に有ったりするとマップ表示もないために中々に見つからないのでちょこっと優斗は苦労した。
それでも夕暮れ近くには何とか作業を終えて、帰途に就くことができた。因みに亜空間倉庫の収容能力が凄い。
体高2.5m~3m、体重300キロから600キロのオーク、頭部が無いとは言え187体全部を収容できた。平均重量400キロにしても軽く70トンを超えてる筈だけど、優斗の亜空間倉庫にはまだまだいっぱいの物資が入りそうだった。
時間が無くなりそうだったので懸命にマラソンをした優斗は日没ちょうどぐらいに街の西門に駆け込んだ。実は、街の門は、日没から30分程度で閉められてしまう。今のところ優斗は野宿をするつもりはないが、いずれその準備もせざるを得まいと思っている。
優斗は野宿のためにログハウスを作って亜空間倉庫に収納してもいいなと考えた。
優斗は、宵の時間ではあったが、冒険者ギルドに行って、Gランク冒険者としては正規の依頼分である薬草を買い取ってもらうようレイナ嬢ではない別のお姉さんにお願いすることにした。
冒険者ギルドは、日没前から1時間ほどは結構混雑する時間なのだ。朝は、7時から8時の間の1時間ぐらいがやはり混雑する様だ。従ってその混雑時期を外せば待機時間を少なくできる。
だが、討伐部位や生の肉なんぞを持って帰って来た冒険者は、待っている間にも鮮度が落ちると困る者もいるようで我勝ちに先を争い、時折喧嘩になる場合もあるようだ。肉ってのは、血抜きをしてから結構な時間を置かないと熟成しない筈なんだが、こっちの世界の冒険者たちは死んで直ぐのが一番美味いとちょっと誤解しているようだ。




