001
南雲優斗は都会のビルの立つ東京の渋谷を歩いていたら突然次の瞬間には平原に立っていた。しかも素っ裸だ。
「何がどうなっているんだ? なんで何も着ていないんだ?」
見渡す限り地平線が広がっていて山や海も見えない。視界に入る限り野原が広がっていた。
「さっきまで渋谷にいたはずなのに・・・」
いくら考えても今の状況が理解できない。ついさっきまでの記憶はある。ドッキリの類ではないと思っている。どうなったら都会から平原に移動できるのか理解ができないだけだ。
「これって、異世界転移ってやつなのかな?」
そう考えた瞬間目の前に白髪で白いひげを長くはやしている老人がポンと音が出るかの勢いで現れた。
「どうやら困っているみたいじゃの?」
優斗は突然現れた老人がこの状況にかかわっていると思った。そうでなければこのタイミングで登場するわけがない。いったいこの老人は何者なのかということが問題だ。
「そうなんです。困っています」
「そうじゃろうの。すまんのぉ~。お主がこの世界ラウラに来てしまったのは儂のせいなんじゃ」
「そうなのですか? どういうことなんでしょう?」
老人は困った表情をして優斗に頭を下げた。
「本当にすまん。神々の宴会ではしゃぎすぎてカイザンという神と喧嘩になってのぉ。ついつい神力をぶっ放したわけじゃ。その時にカイザンが神力を受け止めていればよかったのじゃが右腕一本ではじいての。その影響で地球とラウラに次元の亀裂が生まれてお主が巻き込まれたわけじゃ」
「私は神様の喧嘩に巻き込まれて異世界に飛ばされたのですか?」
老人は申し訳なさそうな顔をする。優斗は異世界でこの先どのように生きていくか考えがグルグル頭の中を駆け巡り胃が痛くなってくる。
「そういうことじゃな」
「俺はこの先どうなるのでしょうか?」
「とりあえず、元のお主の体ではラウラで生きられぬため。新しい体を儂の神力で作った。歳は15歳くらいにしてある。15歳といえばこの世界では成人とみなされる」
優斗は45歳のサラリーマンだった。30歳若返ったことになる。若返ったこと良いにしても知らない土地でどうやって生計を立てていけばいいかわからない。
「お主の体は儂の神力で作った特別性だ。力強く死ににくい。病気にもならないだろう。首を落とされたり心臓をえぐり取られたりしても再生して復活するほどだ。石や土を食べても生きることができるぞ。寿命もないようなものだ。このラウラでは新種の種族になる。うれしかろう」
老人の言うことはでたらめで自分が生まれ変わったことすら今気づいたくらいだ。石や土を食べて生きられると言われても食べる気はしない。
「石などを食べる気はありません。神様なら地球の食材を呼び寄せられるようなスキルを下さい」
老人は考えたそぶりをした。優斗は願いがかなえられないと思った。
「よかろう。お主には膨大な魔力を与えてある。ラウラにある魔法は全て使える。魔力があれば物を作る創造魔法で食べ物や物を生み出せるであろう。創造魔法のスキルを与える。武芸も直ぐに使えるようにしてやる」
「ありがとうございます。それに着るものとお金を下さい。裸ではどこに行くこともできません」
「そうじゃの。お主の亜空間倉庫に服と金を入れておこう。金はこの大陸の共通通貨じゃ。この大陸内であればどこの国でも使える。服は今いるこの場所のロシアーナ帝国の服を100セット用意しよう」
気前の良い神様で助かったと優斗は思った。特に創造魔法は優斗の常識の範囲を超えている。地球では衣食住揃えばどうにかなると言われている。着るものがあり、食べ物は創造魔法で作り出せる。あとは住むところさえあればいうことはない。
「ありがとうございます。これでこの世界でもどうにか生きて行けそうです」
「そうであろう。至れり尽くせりなはずじゃ。あとはお主がこの世界の新種の人類ということになる。血族を増やして子孫を残さねばなるまい。お主が性行為を異性とおこなえばそのものも血族へと転化する。お主の子孫も性行為をすれば相手は転化する。そういう風にして血族を増やしていけばよい。血族も長寿であることや病気になりにくいこと、死ににくいことなどが受け継がれる。力強いことも魔力が多いことも受け継がれる。お主はその血族の始祖となるのじゃ。子孫を多く残すことが求められる。頑張るのじゃ」
「私は何という種族なのでしょうか?」
「そうじゃのぉ~。シュバルというのはどうじゃ。なかなか良い名前じゃろ。古の言葉で子孫繁栄の願いが込められている。まあ、余計なトラブルを避けるためにも素性は隠しておいた方がいいだろう」
「分かりました。しばらくは地元の人類と同じ種族としてやっていきます」
「そうじゃ。言い忘れておった。このラウラは男女比が1:3じゃ。女性が男性の三倍いる。一夫多妻制度がどこの国でも採用されている。地球でよくあるラノベ小説の貞操逆転世界でもある。女には気をつけるのじゃぞ」
「はぁーーーーー!?」
「それじゃ。儂は行く。何か聞きたいことがあれば教会で祈ってくれ。相談には乗ってやるぞ」
そう言い残して老人は消えていなくなった。優斗は老人の情報から人族が住んでいることを知り安心した。
「先ずは。魔法だ。ファイヤーボール」
右手を伸ばし魔法名を唱える。優斗は知らなかったが詠唱破棄を行って魔法を行使していた。それでも神様が作った体は特別で魔法は発動する。そして火の玉が500mほど先まで飛んで行った。
その距離も実は非常識だった。通常の魔術師のファイヤボールは100mが飛んでいく限界の距離とされていた。神様からこの世界の常識程度の知識は得ているようだが、優斗はこの世界の細かな常識を知らない。ことがこの後様々な問題を引き起こすことを知らない。
「魔法は普通に使えるな。魔法のことを考えるといくつも魔法名が浮かんでくる。神様が言っていたこの世界の魔法全てが使えるということなのだろう。次に容姿の確認だな」
優斗は創造魔法で手鏡を作り出した。そして自分の顔を確認する。
「とんでもないいい男だぞ」
優斗の顔は中世的でとても魅力的だった。ハリウッドスター以上に綺麗な顔をしていた。
「この世界は女性が多いって神様が言っていたな。この顔だったらモテモテになりそうだ」
優斗は日本で45年過ごしていたがモテモテになった記憶がない。彼女はいたが多くの女性と付き合ったことなどない。
「あっ。貞操逆転した世界だと言っていたぞ。女性に襲われる危険性があるかも」
優斗は早速、神様がくれた服を亜空間倉庫から取り出そうとする。すると亜空間倉庫にある服の種類が頭に浮かぶ。その中から優斗の好みの服を選んで出す。勿論、下着もある。それらを着て最後にフード付きのマントを羽織、顔を隠す。
「スキルマップを使えば町の位置がわかるな」
スキルなどの知識もすでに頭の中にある。マップで北西に行けばホゾマという町につくことが分かった。優斗は北西に向けて歩き出した。
「異世界で何かおころか楽しみだ」