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オークキングの肉が手に入ることになったことでギルマスは機嫌がよくなった。優斗は他のオークの肉も引き取ってほしいと思っていたので話してみる。
「普通のオークの肉も魔核も買い取ってほしいのですが」
「そうかそうか、全部買い取ろう。キングの魔核はぜひとも欲しいと思っていたところだ。感謝する。オークキングを単独で打ち倒して功績は大きい。そこでだ、優斗を私の権限でCランク冒険者にしようと考えている。異存はあるか?」
「全くありません。本当にいいんですか、昨日、冒険者になったばかりの新人ですよ」
「構わん。この冒険者ギルドでオークキングを一人で討伐できるものなどいない。パーティーを組んでいても難しいだろうな。そんなオークキングをお前は一人で倒したんだ。本来ならAランクでもおかしくない。それぐらいの評価になる。だがBランク以上の冒険者は貴族相手に依頼をこなすことがあったり盗賊を殺したりすることがある。まだ、お前は貴族相手の礼儀を知らないし、人を殺したことはないだろ。だからCランクまでしか階級は上げられない」
本当のところ優斗はこの世界に来て直ぐに盗賊まがいの行為をした女たちを殺しているので人殺しの経験はある。貴族相手の礼儀も神様が作った体に魔法の知識と同様に礼儀の知識もあったので貴族の前での立ち振る舞いも完璧にできる。しかし今、そんなことを話してもしょうがないのでギルマスの言うことをそのまま受けることにした。
「その話受けさせてもらいます。正直に言って薬草探しなんて面倒なことをしたくはないし、どぶさらいなんてものもしたくはなかったので助かります。明日からは魔物中心に狩をしていくことにします」
優斗のうれしそうな顔を見てギルマスは満面の笑みを浮かべる。美少年の笑顔はどこの世界でも女性の心をつかんでしまうというものだ。
「納得してくれてよかったよ。売りたいものはマジックバックの中にあるのだな」
「はい、バックの中に入っています」
「しかし、180体以上のオークが入るマジックバックを持っているとは恐れ入る。お前のお爺さんはかなりの高ランク冒険者だったのだろう。その容量のバックだけで貴族の公爵並みの屋敷が立つと思うぞ」
優斗はマジックバックの相場を知らないので今回の件に関してはどうしようもなかった。でも考えてみれば70トンを超える荷物の入るマジックバックが安いはずもないと納得する。
「そうですね。俺が強いのも祖父の教えのたまものだと思います。父も祖父に劣らないくらいに強かったです」
「まあ、そうだろうな。その若さでオークキングを仕留めるくらいだ。辛い修練を欠かさず行った結果だろう。誇るといい」
「ありがとうございます」
「オークの遺体はギルド裏の倉庫で出してもらおう。ついてきてくれ」
ギルマスがそういい席を立つと優斗は後を追う。ギルドのカウンターの横を抜けて裏口を出ると倉庫が立っていた。そこにギルマスは優斗を案内する。そして倉庫に入る。
「さあ。ここに出してくれ」
優斗は言われるままにオークを出していく。普通のオークから出していって最後にオークキングを出す。
「オークキングの肉は話通りに200kgだけでよろしくお願いします」
「分かっている。今日はもう遅いから明日の朝早くに解体をさせておく。明日の午後以降に取りに来てくれるとありがたい」
「分かりました。明日の午後にまた来ます」
優斗がそういうとギルマスは持っていたバッグにオークを入れていく。ギルマスが持っていたバッグもマジックバックだったようだ。
「ギルマスさんも持っていたんですね」
「ああ、これか? これは私個人の物ではないよ。ギルドの持ち物だ。このまま遺体を放置してしまうと腐るからな。解体できない分はマジックバックで保存しているのさ」
そういいギルマスはオークの鑑定をしながらマジックバックに詰めていく。そしてすべて入れ終える。
「オークの鑑定はしてある。明日、支払いを行いたいが異存はないか?」
「大丈夫です。明日でいいですよ」
「そうか、助かるよ。じゃあ、明日来てく買い取りカウンターで代金とオークキングの肉が受け取れるように手配しておく」
「よろしくお願いします」
「ああ、じゃあな」
そう言い残してギルマスはギルドに戻っていった。優斗もギルマスの後を追うようにギルドに入る。ギルドを出ようとしたところで胡蝶乱舞のジェリオンが話しかけてきた。
「おい、お前。本当にオークを倒したようだな。そんな綺麗な顔をしているのに強いんだな」
冒険者ギルドを優斗は見回す。するといかつい体系の女性が多いことに気づいた。この世界では女性が多い。ということは荒事も女性がこなすしかない。そういうわけで冒険者も女性の方が圧倒的に多い。そんな中でも目の前のジェリオンは女性らしい体つきをしている。それに美人でもある。優斗はいかつい女性でなくてよかったと内心思った。
「はい、俺が討伐したのは間違いないですよ。カードを調べてもらいましたからね」
「オークを私たちは狙っていたんだ。当てが外れてしまったよ」
「それは残念ですね。でも獲物は早い者勝ちですよ。俺は悪くないですからね」
「さっきは私の態度が悪かった。すまなかった」
優斗は美人な人に頭を下げさせているのに戸惑いを感じた。確かに出会いはいいものではなかった。ジェリオンとの出会いはいいものではなかった。優斗に高圧的な態度をとっていたし、肩も強くつかまれた。痛みは感じなかったがかなりの握力だった。
「そう気にしないでください。許しますから頭を上げてください」
「そうか、そういってくれるとありがたい。私はジェリオンという。君の名前を教えてほしい」
「俺は優斗と言います。よろしくお願いします」
「優斗、さっそくで悪いんだがお願いがある」
「どんなお願いですか? 俺でかなえられる願いならかなえますよ」
優斗がそういうとジェリオンはほほを赤らめる。そしてもじもじし始めた。
「実はな。優斗の子種が欲しい。結婚してくれとは言わない。歳が釣り合わないのはわかっているからな。子種だけ頂けるとありがたい」
こんなギルドの中で話していいような内容なのか優斗は思った。しかし改めて神様からもらったこの世界の常識を思い起こすと地球とは真逆の貞操観念がはびこる世界だということを思い起こされた。
この世界では女性が男性より多い。なので結婚できない女性もいる。そういう女性は男性から子種だけをもらって女性一人で子供を育てることになる。そして女性はより良い遺伝子を求める。
ジェリオンにとって優斗は優良物件だ。容姿は並外れて整っている。さらに優斗は強い。Aランクの冒険者でも一人で倒すのは困難なオークキングを一人で倒している。その事実を知っているジェリオンは優斗を見逃すはずがなかった。
そんなジェリオンとは正反対に優斗は逆ナンパされたことなど一度もない。しかもこんな美人に公衆の面前での告白だ。優斗の顔が真っ赤になっていく。優斗は長い間非モテ人生を歩んできた。そのためこういうことには奥手なのだ。
この世界の男なら「子種ぐらいならいいよ」と簡単に了承することだっただろう。
「ええと、すみません。心の準備ができていません。とりあえず帰ります」
優斗はそう言い残して冒険者ギルドから逃げていった。その後姿をジェリオンは悲しそうな顔をして見ていた。




