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009

冒険者ギルド受付のレイナ嬢の前は特に多数の人が並んでいたので、優斗は、少し待ってもできるだけ空いていそうな受付嬢を狙って、列に並んだのだ。年増で左程の綺麗処ではないご婦人(お嬢さんかどうかは不明)の前は、どうしても列が少ない様だ。


差別ではないのだが、やはり相手をしてもらうのは綺麗なお嬢さんがいいのだろう。と言いつつも、冒険者は男ばかりじゃない。この世界では女性が多いのだ。必然的に女性冒険者の数が多い。優斗の直前に居る人が女性冒険者だ。


聞くともなしに耳に入って来た話では、「胡蝶乱舞」という女性冒険者だけのパーティで、前に並んでいたお姉さんはそのリーダーであるようだ。鑑定をかけると、お名前はジェリオン・イスタ、21歳、冒険者のランクもCランクと中堅どころである。


Bランクにまで達すると上級冒険者と呼ばれるらしい。優斗が素直に冒険者を続けていればSSSランクになるのも夢じゃないだろう。


その報告をしながら、ああでもないこうでもないと受付のご婦人と長話をしている。隣のカウンターでは既に四人も人が入れ替わっていると言うのに、或いはこのカウンターに並んだのは間違いだったかと後悔し始めた頃ようやく話が終わったようだ。ジェリオンと受付のご婦人はオークの件で話をしていたらしい。


「お次の方ご用件をどうぞ」


始めて会っただろう冒険者に自己紹介もなしにいきなり仕事モードで始まった。まぁ、この辺も煙たがられる理由の一つかなと思いながら、ため息をついて優斗が用件を伝える。


「薬草採取の依頼をしてきました。どちらに行けば宜しいですかね?」


目の前の年増のご婦人、何とも言えない渋い顔で言いましたよ。


「右の隅に、買取カウンターがあるから、そちらに行って頂戴ね。初心者はこれだから困る」


最後にぶすっと小さな声で付け加えたのを聞いて、優斗はちょっと切れた。


「わかりました。後、薬草採取をしているうちにオークの集団を見つけたけれど、その件はどちらに報告すればいいのかな?」


年増のご婦人びっくりした顔で、若干顔が引きつりながら甲高い声で言った。


「あんた、何でそれを早く言わないの。一体何処でオークを見つけたの?」


その声で一瞬、ギルドの受付カウンターの周辺が静まり返った。そうして背後からがっしりと肩を掴まれた。首をギギギと回すと先ほどまで優斗の前に居た胡蝶乱舞のジェリオンだった。


「何処で観た。言え」


結構な強面の脅迫言動に近いですよね。比較的若い女性に脅されている優斗ってちょっと情けない。年上だけどそれなりに美人だから許す。半身で優斗は言った。


「西門から西南西方向に、凡そ12kmほどのなだらかな森の中だった。全部で187匹いましいた」


すると、ジェリオンさんが吐き出すように言う。


「まさか、・・・。デマか? 何で、そんなに正確なオークの生息数がわかる?」


「その場で数えたから間違いないです」


益々、渋い顔をしながらジェリオンが言った。


「お前、阿保か。オークが百匹以上も集まりゃ、ジェネラルか或いはキングが率いている。見張りに見つからずに全部が数えられるわけがないだろう」


「そりゃぁ、まぁ、普通はそうですね。でも討伐してから数えたら187匹だったから間違いないです」


呆気にとられたようにジェリオンが言った。


「お前、何処のパーティだ。単独でオークの群れを討伐できるようなパーティはここらにはいなかった筈だ」


「パーティですか?俺は何処にも入ってないよ。ソロですから」


「まさか一人で?嘘だろう?」


まぁ止むを得ないけれど、優斗の言葉を疑って信じてもらえないジュリオンは、この際放置して、受付の年増ご婦人に尋ねることにする。


「受付のお姉さん、教えてくれる? 討伐部位も買い取りの処?それともこちら?」


それこそ、恐る恐る年増の御婦人が聞いてきた。


「あんた、本当に187匹分の右耳持ってるの?」


優斗が頷くと、若干青くなりながら言った。


「ちょっと待ってて、オークの件はギルマスへの最優先報告事項なんで、それをしてから指示するから。絶対にここから動いちゃだめよ。いいわね」


そう言い置いて年増のご婦人はバタバタと音を立てて奥の方へ駆けて行った。残された優斗はそこで待つしかないことになった。ジェリオンが話しかけて来た。


「私は、パーティ胡蝶乱舞のリーダーをやっているジェリオン、Cランクだ。君の名を教えてくれるかい?」


「俺は、優斗、ソロでやっている駆け出しのGランクです」


「Gランク? 何で、それでオークの討伐ができる?」


「普通はできないんでしょうね? でも、できたんだから仕方がないですよ。今回は薬草採取のために出張ったところで、オークの集落にぶつかってしまい、仕方がないので討伐して来たんです」


「仕方がないって・・・。そんな簡単に討伐できるもんじゃないぞ。特にジェネラルや、キングともなれば、Aランク冒険者でもてこずる筈だ。それを何でGランクのお前ができるんだ?」


「うーんそれは内緒です。俺のスキルに関することだから、他人には簡単に教えられないですよ」


「ン?うん、・・・・。まぁ、そうだろうな。それにしても討伐部位だけで187だ。集めるだけでも大変だし、どっかで拾ってきたにしては多すぎるな。それにカードには討伐記録が残るから出まかせを言ってもすぐにばれる」


「そうなんですよね。本当はあまり騒がれたくもないのだけど、記録が残るから、逆に仕方がないんです。ギルドには報告するしかないんです」


そんなことを話している間に、件の年増のご婦人が息せき切って戻って来た。


「ギルマスのところに行くから一緒に来て。で、その前に、あんたのカードを貸して」


優斗がカードを出すと、ひったくるようにして手に取り、そのカードを机の上の白い石板に押し当てる。そうして呟いた。


「あんれまぁ、ほんとうだわ。キング以下187匹を討伐してる。って、あんたGランクなの?」


そう言って呆れたような表情を見せながら改めて優斗の顔をまじまじと見ている年上の受付嬢である。


「まぁ、いいわ。いらっしゃい」


そうして彼女は速足で優斗の手を引きながら奥の階段を上り、二階のとある一室の前に立った。それからドアを軽く二度叩いて言った。


「マスター、討伐は本物でしたので、彼を連れてきました」


「入ってくれ」


そう言う高圧的ではあるけどかぼそい声が聞こえた。未だ名前も知らない年増のご婦人の後をついて室内に入った優斗である。大きな机を前に座っているガタイの大きな女性がギルドマスター、略してギルマスだろう。


「わざわざ、此処まで来てもらってすまんな。私はホゾマ冒険者ギルド支部のギルマスをやっているアリアーナ・レンコフだ。見かけない顔だが、ランクと名前を教えてくれんか?」


「名前は、ユウト・ナグモ、今日冒険者になったばかりのGランクですよ」


優斗がそう言うと、傍で年増のご婦人がフォローする。


「この子。今日に登録したばかりです。受け付け担当は、レイナでした」


アリアーナは机の上の石板を弄ってデータを読んでいるようだった。


「なるほど、確かに今日に登録したばかりのGランクだし、カードの討伐記録には間違いなくオーク187匹がカウントされているな。で、Gランクの力量でどうして討伐できるんだ? そもそもオークはDランク以上でなければ討伐依頼は受けられないはずだ」


「登録をした時にレイナさんから色々と注意事項を受けたので知っています。今回、俺が西方面に向かったのも、薬草採取が目的であって、最初からオークの調査や討伐に向かったわけではないですよ。朝出かける時には、レイナさんにその旨言ってあります」


「オークの群れを見つけた時点で報告するのが下級冒険者の義務だろう。それを怠って無茶をすれば届くべき報告がないために被害が増大する恐れがある」


「はい、それも重々承知です。ただ、オークの集落に近い場所、多分1kmほどかと思うが、街道が伸びていた。放置すれば行き交う人が襲撃される可能性も高いですよね。ですから、やむを得ない緊急の措置としてオークの討伐を行いました。その判断が誤っていると言うならば処罰は甘んじて受けますよ」


「ほう、ではギルバート隊長から書面で報告にあった優斗なる人物は君のことだったのだな?何でも凄い魔法の使い手で、剣の腕もあると書いてあった。そんな綺麗な顔をしているのに強いんだな。皇女殿下並びに子爵令嬢のお二人がご無事であったのは偏ひとえに君が危ういところで支援をしてくれたからだと聞いている。なるほど、それが君なのであれば、100匹以上のオーク殲滅せんめつも頷うなずけるか・・・」


「そういうことです。俺は結構強いんですよ」


「ふーん、君が討伐できる実力があるのはわかった。それで討伐部位はどこにあるんだ?」


「マジックバックに入っています」


優斗は亜空間倉庫(イベントリ)の存在を隠すために鞄を持っていた。それをマジックバックと言い張る。


「普通は中々に手に入らんものだし、非常に高価なものだが、・・・。何処で入手した?」


「父からもらった。俺の曾爺さんの形見だったらしいです」


「そうか、曾お爺さんはきっと名のある人物だったのだろうな。ところで、マジックバッグ持ちならひょっとしてオーク・キングや、オーク・ジェネラルの肉を持ち帰っているんじゃないのか?もしあるのなら分けてくれるとありがたい。帝都やホゾマ周辺に領地がある貴族連中からも、もし入手できればという注文が山ほど来ているんでね。本当は、魔核もあれば供出してほしいところなんだが、まぁ、今回はそこまでは言わない」


ギルドマスターにお願いされた以上断るわけには行かない。さてどこまで出すかが問題だが、そもそもギルドに全く降ろさないというわけには行かないだろう。そこで、こちらから提供する代わりに条件を付けた。


「いいですよ。キングの肉とジェネラルの肉、それぞれ200kgほどなら融通できます。 但し、優斗がマジックバッグ持ちと言うのは内緒にしてもらえますかね。それが高じて命まで狙われてはかなわないですから」


にやりと笑いながらギルマスが頷いた。キングの体重は凡そ600kgほどだが、そのうち所謂肉は360kgほどになる。


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