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第59話 九滅竜


 ジル達5人は途中の村や町でクエストをこなしたり魔物と戦ったり、アリスの家族を探す依頼をギルドに出したりしつつも、帝都闘技祭の出場登録に間に合わせる為に馬車等も利用してそこそこ急ぎ目に帝都を目指していて、遂にその城壁の姿を捉えていた。


「あれが帝都ヴェストハルト……!」

「すごい城壁だね! あっジルっ、壁の上! 大砲があるよ!」

「わ、ほんとだ! 大砲なんて初めて見た……!」

「あれは魔導砲ですね。まあ聖帝国から買った旧式でしょうが……」

「外からだけど、なんかフラーシアの王都よりもゴツゴツしてて綺麗じゃないっていうか、要塞っぽいわね」

「ま、三年前に事実上の戦争を経験したトコだからねぇ」


 魔導砲とは、火薬の他に魔力も使い威力を上げたり魔法効果を付与した大砲の事である。

 割と田舎な地域で育ったジルが目にするのは初めてで、大砲との区別すらつかなかった。


 遠くから見渡すと、城壁の外には農地や家、それから大型の鍛冶屋のような施設が点々としている。

 道中のように瓦礫等が散乱したりはしておらず、さすがに帝都付近ともなると三年前の傷跡は薄くなっているようだった。人の往来も多い。


 ジル達は城壁外の安い宿を取った後に城門を通過し、ジル、アリス、トマトティアラの3人で帝都ギルドへ向かう。アリスの家族の人探しの依頼を出すのと、ジルの両親から手紙等が届いていないか確認するため、そして帝都闘技祭の出場登録のためだ。


 キャンディとケーキは宿に留まっている。二人が腕輪を着けていない魔族だと知られるとどんな面倒事になるか分からないため、二人はできるだけ人目を避ける方針だった。


 そうして人の往来が多い中を歩き、到着した帝都ギルド。

 ジルがよく利用していたフラーシア王国の町、オレトのギルドと比べて明らかに広く、利用者も多い。


 ジルはふと壁に貼られている紙に気づく。


「あ、危険度レベル表……レベル10まで書いてあるの珍しいな」

「フラーシアでも王都ギルドとかにしか貼られてないもんね〜」


 魔物や魔族の危険度レベルと、その基準になる魔物、強さが書かれた表。

 中小規模の町の冒険者ギルドではレベル5の脅威までしか対応できないため、レベル10まで記載されたものは珍しかった。

 討伐料金等を割愛すると、それにはこのように記載されている。


 レベル1スライム 人間の子ども未満の脅威。


 レベル2ゴブリン 大人が武器を持っていれば問題なし。


 レベル3オーク 訓練された兵士や中堅冒険者と同程度。


 レベル4オーガ 冒険者パーティ1組がかりでも危ない。


 レベル5クラーケン 冒険者パーティができれば10組は必要。


 レベル6ドラゴン 帝都ギルドが大規模クエストを発令したり、国が勇者や大型兵器を持ち出して討伐作戦を組まなければならない。


 レベル7エルダーデーモン ベスターメルン帝国の軍、冒険者に軍事招集がかかり、小さな戦争となる。


 レベル8九滅竜 西側諸国の全戦力を持ってしても討伐は困難。


 レベル9魔王 『聖帝国ガルガルシア』や『空中浮遊都市ソラリス』の軍事行動が必要。


 レベル10命の魔族 仮定上の存在。公式にレベル10と認められた個体は確認されていない。




 アリスが頭の上にハテナマークを浮かべてジルに聞く。


「? レベル8のこれ、なんて読むの?」

「ああ、『くめつりゅう』だね。魔物なのに、大半の魔族や勇者より強いとされてる最強のドラゴン9体だよ」

「九滅竜も知らないとか世間知らずすぎだよね〜!」

「むっ! 知らないものは知らないもん!!」

「もー喧嘩しないの!!」


 フラーシア王国だけでなくベスターメルン帝国やその他各国でも、かなり昔に異世界人がこの世界に持ち込んだという言語が使われていて、このように漢字も使われていた。


 九滅竜や魔王の情報は、それらとの交戦経験がある聖帝国ガルガルシアから西側諸国に提供されたものである。

 危険度レベルの基準となっていることもあり、実際に遭遇したことは無くとも冒険者なら誰でも知っていた。


 そして、ジル達の後ろから声をかける一体の魔族。


「おい、ティア」

「! ラッシュ!! なんでここに!?」


 トマトティアラは驚きの表情。


 オールバックのドレッドヘアーの黄緑色の髪。

 全身の肌が土のように茶色い、二十代後半の男性のような姿。

 白のポロシャツに黒の長ズボン。


 レタスの魔族・レタスラッシュだった。


「えっ、ティアの仲間?!」

「あー、キミらの事情はなんとなく把握してるがオレ達に敵意はない。まあ詳しい話は後でな。坊や、とりあえずティアを借りるぜ」

「えっ、はい」

「ちょっとラッシュ!?」


 トマトティアラが連れて行かれた方を見ると、前ボタン付きの水色ワンピースを着ていてキャベツの葉のような平べったい黄緑髪をした10歳ぐらいの美少女の見た目の魔族に、野菜が沢山入った藁籠の中から喋る野菜そっくりの魔族もいた。


「ねえジル、なすびみたいな魔族が喋ってるよ……!」

「野菜の魔族さんだね、僕も見るの初めて……びっくりした……」


 野菜の魔族・ベジィはあらゆる野菜の姿に自身の形を変えることができ、今日はなすびの姿で喋っている。


 

 そうしてジル達が立ち止まって話している間に、一人の少女がギルドに入って来ていた。


 その姿は黒髪ハーフアップに巫女服。


 彼女はジル達の横で危険度レベル表に気付き、立ち止まっていた。


「……へぇ、この国だとこういう書かれ方なのね。ねえキミ、ちょっといいかしら?」

「え?」


 ジルは世間話をするように話しかけて来た黒髪の少女の方を見る。


 ジルが見たことのないデザインの白い服と赤く長いスカート。

 ぱっと見では、15歳のジルより数歳だけ年上の外国の女の子という印象を持った。


 もちろん彼女は、帝都闘技祭への出場登録に来たサクラ・キサラギである。

 サクラが鎌鼬と呼んでいた真っ黒なイタチのような何かは、今はその肩には乗っていない。


「これって、レベル8以上が一匹でも攻めて来たら西側諸国は終わりってこと?」 

「えっと、そう言われてますね。だから西側諸国がまだ滅んでないのはただの奇跡だとか色々言われてます」

「ふ〜ん……じゃあやっぱりレベル8以上のヤツに対抗できるのは聖帝国とソラリスだけ……私が教えてもらった通りの状況だわ」

「あの、あなたは……?」

「あ、私一人で旅行に来ててね! 闘技祭にも出ようと思って!」

「旅行者の方なんですね! でもお一人だと……今回の闘技祭ってタッグ戦らしいんですけど大丈夫ですか?」

「え゛っマジ……?」

「あ、でも他にもタッグ探してる人いると思いますよ! ここ冒険者ギルドですし!」

「うーん、足手まといは要らないんだけど……できれば鎌鼬……もしくは牛鬼か雪女と…………あ! 教えてくれてありがとね! ちょっと大会の人に相談してみる!」

「はい! もし対戦することになったらよろしくお願いします」

「え、キミも出るんだ!? じゃあもし当たったら手加減してあげる!」

「あはは、お手柔らかにお願いします」

「ふふっ! それじゃまたね〜!」


 サクラは足速にギルドの受付の方に歩いていき、ジルとアリスがその後ろ姿を見送る。


「旅行で来た人とかも出るんだね。どこの人だろ?」

「……あの人」

「ん?」

「多分、かなり強いかも……」

「え、どうしてそう思うの?」

「……なんとなく」

「そう?」


 ジルは不思議そうにしているが、アリスは警戒色の強い表情を崩さなかった。

 

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