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第56話 アリス vs トマトティアラ(恋愛的な意味で)

 

「………………は?」

「…………何故、貴様が、ジルと?」

「え? 二人は知り合い?」


 ジル達が泊まっている宿の部屋。


 ジルが部屋の扉を開けて、すぐに「町で新しい友達が出来たから紹介するね」と言い、全体に赤くて派手な少女姿の魔族が「お邪魔しまーす!」とアリス達の前に姿を見せた直後だった。

 ケーキとトマトティアラは揃って殺気立ち、意味が分からないというような声を上げた。

 ケーキは理解不能すぎて片言のようになってしまっている。


 ジルは二人の表情や声色から二人があまり仲良くない関係であることを察する。

 ジルはとりあえず喧嘩にならないよう、無理矢理に笑顔を作りながら二人の関係を聞く。


「えっと、二人はどういう関係……?」

「……ジル。そいつは私達を襲撃した勇者パーティーの一員だ……!」

「え?」

「……最悪っ……」


 トマトティアラはケーキやキャンディを見て、標的だった冒険者パーティーであることを察して苦く言葉を零し、いつでも抜けるよう包丁の柄に手をかける。アリスやキャンディの見た目の特徴はセリーヌから伝えられていた。 

 ケーキも同様に戦闘用フォークに手をかけた。


 魔族のトマトティアラの目はジルやケーキ、そしてキャンディが薄く纏っている白い魔力を捉えていた。

 アリスの“それ”だけは捉えられていない。

 『植物の魔族』の樹木擬態がそうであったように、強大な存在であるほどその魔力を隠すのも上手い傾向にある。


「待って、二人とも落ち着いて! そうだ、そういえばティア! 任務は中止になったって言ってたよね!?」

「……そうだねぇ」

「……何故そいつをかばう? ジル、どういうことか説明しろ」


 ケーキは戦闘態勢のまま鋭い目線をジルに向けた。

 ジルは一瞬ひるみながらも、トマトティアラが悪い魔族では無いと行動を共にして知っている為に臆せず出会いから説明を始める。


 何も言わないキャンディはじっとジルとトマトティアラを見ながら話を聞いて状況把握に努めていた。

 アリスも同様であったが、その表情はどこか不安げだった。特に、服が傷んでいたトマトティアラにジルが赤いワンピースを買ってあげた下りでその不安げな表情は強くなった。 

 そうしてジルは、ティアはきっとアリス達とも友達になれると思って連れてきたということも含めて一通りの説明を終える。

 ケーキは鋭い目線を崩さない。


「……まず国から手紙というのが本当にあるなら見せてみろ、貴様一人だけ任務中止などという都合のいい内容のな」

「……ほら」 


 トマトティアラは雑に折りたたんだ手紙をポッケから取り出し、ぶっきらぼうに投げる。

 ケーキは内容を確認する。見る限りでは署名や押印入りの正式なものであるように見えた。


「……ふん。では次の質問だ。貴様の使っていた包丁、血痕が微かに残っていたな? 貴様、人を斬った事があるだろう。バレていないとでも思ったか?」 

「……勇者パーティーに居たら殺しの仕事だってふつーにあるから。分かる? お、し、ご、と! 腕輪付きなんて、国の言う事聞かなきゃいつ処分されてもおかしくないんだから仕方ないよねぇ。貴方の側にいる菓子の魔族がいい例でしょ?」

「む……」


 好き勝手に生活していたキャンディが国から狙われた例を出されてケーキは少し納得してしまい、言葉を詰まらせる。

 が、プライドがそれなりに高いケーキはそこで話を止めず、喧嘩腰で挑発する。


「……ジルやキャンディ様から聞くに、炎剣の勇者は実は女子どもをいたぶって殺すのを楽しむ外道だったらしいな。貴様はいつもそれを止めずに見ていた訳だ。いや、貴様も楽しんでいたのか?」


 瞬間、トマトティアラの脳裏に目の前でミカエルに焼かれる寸前の小さな少女の姿が浮かぶ。


 (やめてっ、たすけてっ……!!)

 (はははっ! おい、ティアも遊ばねえか?)


「勇者に歯向かえる訳ねえだろクソメイドッッ!!!! 表出ろ、今度こそぶっ殺してやる……ッッ!!!」 

「望む所だ生ゴミ」


 トマトティアラは激しい怒りの口調と表情で包丁を抜いた。ケーキも冷酷な表情で戦闘用フォークを抜く。


「二人ともやめて!!!!」


 ジルが地面に吐き出すように叫ぶ。


「友達が殺し合う所なんか見たくない!!! もうこの話は終わり!! 許せない気持ちなら僕にぶつけて!!」

「ジル……!」


 トマトティアラはハッとした表情でジルを見る。

 そして、ここまで黙っていたキャンディが口を開いた。


「……そうね。ケーキ、武器を収めなさい」

「キャンディ様、しかし」

「命令」

「っ……はい……」


 キャンディはケーキやトマトティアラが冷静さを失っている様子を見て、逆に冷静なままでいることができた。

 ミカエルに消し飛ばされたキャンディの左腕は、休息とアリスが買ってきたお菓子を食べることにより現時点で手首までは再生している。

 キャンディは有無を言わさぬ表情で命令し、ケーキは苦々しく武器を収めた。

 それを見たトマトティアラも冷静さを取り戻し、包丁をホルダーに収める。


「……まぁ任務が中止になった以上はあなた達と戦う理由は無いしね〜」

「……ジル。こいつの行動が演技等だったとしたらどうするつもりだ?」

「それは……でも僕はティアが悪い人、いや魔族とは思えない」

「ま……ジルが友達って言う子ならいいんじゃない」

「え、キャンディ……!」


 ジルは少し驚く。 

 これまで行動を共にし、なんだかんだでキャンディはジルへの信頼を深めていた。


「それにまぁトマトは野菜の中ではマシな味だし、あたしは友達になるのもやぶさかではないわ」

「……へ〜! あなた聞いてた話よりいい魔族っぽいね〜! 国に帰ったらそれとなく暗殺中止を進言してあげる!」


 ようやくトマトティアラに普段の笑顔が戻り、ジルもほっと一息をついた。

 そして明るい笑顔で空気を切り替えるように言う。


「それじゃあさ、いい時間だし皆でご飯にしようよ! ティアに僕だけじゃなく皆の友達になって欲しいし、任務の事も聞きたいし」

「そうね、あたしももう少し食べれば左手再生できそうだし」

「……友達……」

「ティア?」


 トマトティアラはボソッと違和感を感じたように呟いた後、よしっと気持ちを切り替えるような表情をし、そして宣言するようにはっきりと言った。


「うん、この際だから言っとこうかな!! アタシそのうちジルの彼女になるからよろしく!!」

「えっ」

「……え?」


 ジルだけでなく、ここまで会話に参加していなかったアリスからも思わずといった感じで声が漏れた。

 ちなみに数少ない恋愛感情が欠落していない魔族は、サンプルは少ないものの例えば人間の女の子のような姿なら人間の女の子のように男の子を異性として認識する傾向が強い。


 トマトティアラは恥ずかしげもなく続ける。


「アタシ今日出会ったばかりだけどジルのこといいなって思ってるんだよね〜! ジルって魔族に偏見とか無いっぽいし! だからジルの仲間とも仲良くしたいな! クソメイド以外!」 


 トマトティアラの発言の後、部屋全体に小さな間ができる。


 ジルは申し訳なさげかつ気まずそうに口を開いた。


「……えと……ごめん。僕、彼女いるんだ」 

「……え? 誰? どんな子?」

「あの……そこの銀髪の子。アリス」

「そ、そうだよ!! ジルの彼女は私だからダメ!!」

「…………はあああっ!?!?」


 トマトティアラは一瞬の間の後、信じられないという表情で大声を出す。

 その後アリスの方を向いて敵意剥き出しでまくし立て始めた。


「あなた!! 顔がちょっといい以外でどんないいとこある子なの!! 言っとくけどアタシは美味しいトマト出せるしジルの隣で戦えるから!!」

「わ、私だって料理ちょっとできるし戦えるもん!!」

「嘘は良くないねぇ!! そのひょろひょろの体で剣も杖も持ってないくせに!!!」

「嘘じゃないもん!!!」

「ふ、ふたりとも落ち着」

「じゃああなたジルと一緒に戦った事あるの!?!?」

「え、そ、それは」

「ほらみろ!!!!」

「でもトマちゃんだって一回ジルと一緒にクエスト請けただけだよね!?!?」

「一回も無い奴よりマシだよねえ!! あとそのクソださい呼び名やめろ!!!」


 ジルは口を挟もうとしたが一瞬でかき消された。

 なおも二人は捲し立てあう。


「冒険者の彼女のくせにあり得ない!! どう考えてもアタシの方が彼女にふさわしいよねぇ!!」

「戦えるもん!! 私がその気になればトマちゃんなんて空の彼方まで吹き飛ばせるんだから!!!」

「だからトマちゃんやめろ!!!!」

「……急に会話が馬鹿みたいになったわね……」

「……私、生ゴミがただの馬鹿であることが分かってきました。まあジルの言う通り邪悪では無さそうですね」


 急に会話のレベルが下がって速度は子どもの喧嘩のように上がり、キャンディとケーキは部屋の隅でボソッと呟き合った。


「じゃあ聞くけどベスターメルンの帝都闘技祭!! どーせあなた出ないでしょ! てか出れないよねぇ!!」

「え!? な、なにそれ……?!」

「あっ! そうだ闘技祭! 僕が説明するよ!」


 ジルは言われて帝都の闘技祭のことを思い出し、説明を始める。

 その闘技祭での優勝者には可能な限りの望むものが与えられること、出場して優勝し、キャンディとケーキをベスターメルン帝国の腕輪付きにしてもらうことを考えていること、タッグ戦の為にパートナーが必要であることを話した。


「……っていう訳なんだ」

「ふーん……確かに腕輪の無いあたしとケーキは出れないわね」

「……成程。となるとジルとタッグを組むのは……認めたくないが消去法で……」

「でしょ!! アタシしかいないよねぇ!!!」

「……嫌っっ!!!」


 アリスは空気をぶった切り、強く宣言した。


「私がジルのパートナーとして闘技祭に出るっっ!! ジルにふさわしい彼女は私なんだから!!!」

「はああああ?!!!?? じゃあアタシも誰かと闘技祭に出るっっ!!! アタシが優勝したらジルの彼女はアタシ!! あなたはその他大勢!!!」

「えっちょっと待っ」

「望むところよ!!!!」


 あまりにうるさい二人の声は部屋の外まで響き渡っていた。


 その痴話喧嘩に聞き耳を立てる魔族が三体。

 アリスやトマトティアラがぎゃーぎゃー騒いでいるのは宿の二階。

 そして宿の玄関前にその魔族達は居た。


 前ボタン付きの水色ワンピースを着て10歳くらいの顔立ちと身長の美少女の姿をし、キャベツの葉のような平べったいセミロングの黄緑髪と黄緑色の瞳のジト目をしたキャベツの魔族・キャベツエリカ。


 キャベツエリカが持っている、取っ手に黒い腕輪が通されている藁編みの籠の中。

 新鮮な野菜達、その中の一つ、みずみずしいニンジンに人間の口のようなものを生やして喋っている野菜の魔族・ベジィ。 


 そして、レタスの魔族・レタスラッシュ。


 その魔族は二十代後半の男性のような姿をしていた。

 その髪の毛はレタスのような黄緑色のオールバックのドレッドヘアーで、全身の肌は土のように茶色い。

 身長は180cmくらいのガッシリとした体型で、白のポロシャツに黒の長ズボンというラフな格好だった。魔族は人間と違いファッションにあまり興味が無い事が多い。


 そして好意的な感情から生まれた魔族の例に漏れず、その顔立ちは濃い系ながらも整っていてイケメンと言えた。危険度レベルは3。


 

 トマトの魔族をフラーシア王国に連れ帰る任務を与えられた彼らは馬車を使わず、野菜の魔族・ベジィの能力を応用した高速移動によってトマトティアラの右手首に嵌められている腕輪の反応地点のこの場所まで半日足らずで辿り着いていた。


「……ベジィ様……私帰っていい……?」

「……これは予想外の展開だなァ……」

「くくく……笑えるぜ……どうしますかベジィ様」


 アリス達の痴話喧嘩を聞いてキャベツエリカは早く家に帰りたそうな子どものように呟くが、ベジィとレタスラッシュは実に面白そうにしていた。


「……確か今度の帝都闘技祭はタッグ戦だったよなァ……ティアを連れ帰るのはそれが終わってからでも問題ねえかァ」

「! まさかベジィ様!」

「ティアとタッグを組む奴が必要だしオレも出場するかァ。てめェらもタッグ組んでついでに出ろ」

「実に面白い。了解です、ベジィ様」

「えぇー……」

「エリカ、闘技祭の優勝タッグには可能な限りの望む物が与えられるらしいぞォ? 例えば大量のキャベツとかその畑とかよォ」

「早く帝都行こ。何してるの? ベジィ様もラッシュも早くっ」

「……こいつ……」

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