第53話 vs 魔族3体
大きくうねるように動くムカデの魔族。その巨大な体はあっという間に地面に潜っていき見えなくなる。
本来ムカデの魔族にこのような速い地面潜航能力は無い。だが泥の魔族による補助により、この辺りの地面一帯は魔界の魔族達のみ自由に潜航できるようになっており、ジル達にとっては不利な戦場となっていた。
トマトティアラは目線をやや離れた距離の右下に向け、そのまま目で追う。
魔族のトマトティアラはムカデの魔族の魔力からその位置を大まかに把握できた。
たがムカデの魔族の動きに合わせ、キュウリボーイがそのきゅうりのような緑色の丸い足でまっすぐ駆けて突撃してくる。地上と地面、二方向からの攻撃。
「ムカデは右から来るよ!」
「了解!」
ジルが応答し、ヴォルフやフォルカーも武器を構える。
そんな中、泥の魔族もいつの間にか地面に溶け込み視認出来なくなっていた。
キュウリボーイは突進を続ける……と見せかけてジル達の間合いの外で急に足を止める。そして丸い両手を前に向けた。
「! 泥みたいな奴も左から来るよ!」
トマトティアラが叫ぶ最中、キュウリボーイがその前に向けた両手から弾丸のようにきゅうりを発生させて撃って来る。
(こんなの食らっても精々痛いぐらい……陽動だ!)
ジルは瞬時にそう直感するが、ジル以外の4人はそれぞれ防御姿勢を取りながら斜め後ろへ回避行動を取る。
ジルは両腕で顔面をガードする構え。その腕にきゅうりの弾丸が次々直撃し痛めつける。
「ジル!!」
「痛っ、他の魔族が来る!」
ジルは弾丸を受けながら叫び、はっとしたトマトティアラは地面越しに感知し続けているムカデの魔族と泥の魔族の動きに反応。すぐに大きく動きを反転させてジルの真後ろ辺りに跳んだ。きゅうりの弾丸はジルが受け止めている為にトマトティアラに当たることは無い。
左の地面に移動していた泥の魔族がその瞬間に地面を大きくめくり上げ、左後ろに下がりながら固まっているヴォルフ達三人に波のように泥状の土を浴びせかける。
土を被るしかない三人。
「きゃっ!」
「ぐっ、目が……!」
ヴォルフとクリスティーナの目に土が入り視界が塞がる。
三人の中では一番右にいたフォルカーはなんとか何とか目に入るのは防いだ。
そして右の地面下にいたムカデの魔族が冒険者達の間合いの外で地面から高速て這い出て来て、すぐにその口から小さなムカデの牙のような何かを数本飛ばして来る。
「くっ……!」
フォルカーは焦りつつも何とか跳んで回避したが、視界を塞がれたヴォルフとクリスティーナは回避のしようがない。その体に牙が浅く刺さる。
フォルカーは姿勢を整えることもせずすぐ反撃に転じる。その両手の短剣をムカデの魔族の巨大な人間のような口元に投擲した。ムカデの魔族の顔面に浅く突き刺さる短剣。だが僅かに痛そうに口を歪めた以外に変化は無く、ムカデの魔族は再度口を開けてまた牙のような何かを飛ばした。
姿勢を崩したまま反撃したフォルカーは今度は回避できず体に牙が浅く突き刺さる。
「っ……これは……毒か……!」
フォルカーは体を震えさせながら倒れ込む。同じ牙が刺さっているヴォルフとクリスティーナも毒により動けなくなっていた。
ムカデの魔族はその顔を振り回して顔面に刺さった短剣を振り飛ばす。
「この短剣、毒が塗ってあるなっ? 人間相手なら効果的だったかもな……」
ムカデの魔族はニタァと笑みを浮かべる。
魔力体である魔族には一部特殊な例を除いて毒の類は効かなかった。ヴォルフ達のパーティーに入る前は対人の仕事ばかりしていたフォルカーの経験不足によるミスである。
いつの間にかキュウリボーイはきゅうりを飛ばすのを止めていた。
魔力の消費を抑える為もあるが、何より始めからただの陽動攻撃だったからだ。
そのキュウリボーイと向かい合うジル。ジルの後ろにはトマトティアラ。
そのトマトティアラの右前に泥の魔族、左前にムカデの魔族。
ジルとトマトティアラは背中合わせで構える。
トマトティアラは思わず舌打ちする。
「……連携の取れた動きだねぇ……」
「きゅきゅきゅっ! 僕ちん達、人間どもとの戦闘は想定済みだったんだよねえ!」
「ギギッ! 数だけ揃えて油断していたなっ! 愚かな人間どもめッ!」
「さて、大人しくしていれば楽に殺してやるが?」
ジル達が冒険者パーティー四組という護衛団の数で安心感を感じてしまっていたのは事実である。
だがもうジルにその心の緩みは無い。
「……ティア。少しだけ後ろ守ってくれる?」
「! 分かった!」
「あ?」
「……きゅ? 何その白い魔力……」
瞬間。
キュウリボーイが言葉を言い終わるのを待たず、ジルはキュウリボーイに向けてまっすぐ突進した。




