第50話 「国境付近に大きな戦闘の痕跡……!」
ベスターメルン帝国の西の町、メルスハイムの冒険者ギルドに入ったジルとトマトティアラ。
中規模の町のギルドのため、魔物や魔族の討伐に関しては危険度レベル5までしか扱っていないようだ。
高い危険度レベルの魔物や魔族の討伐は命の危険もある為その分報酬も高くなっている。
「お、腕輪付きだ」
「可愛い魔族じゃん」
「魔族って可愛いの多いよな〜」
遠巻きにトマトティアラを眺める冒険者達。
ジルとトマトティアラは気にせず依頼内容が書かれた紙が大量に貼ってある壁を一緒に眺める。
「うーん、やっぱりお金になるのは魔物討伐かな……」
「この町も討伐クエストはレベル5までなんだねぇ! ま、アタシ怪我してるから討伐はやめとこっと!」
「え、ティアもクエスト請けるの?」
「うん! 仲間来るまでヒマだし、ジルに早くお金返したいし〜!」
トマトティアラはそう言ってはにかむ。
(素敵な子だな……アリス達とも仲良くなれそう。僕がキッカケか何か作れないかな)
アリスやキャンディと仲良く喋るトマトティアラを想像していると、ふと他と比べて大きな依頼書が何枚か目に付く。
「ん、そのへんの依頼書なんか大きくない?」
「ん? あ〜これ町からの急ぎの依頼書だねぇ」
その依頼書数枚は同じ物のようだった。複数の冒険者パーティーを雇う場合はこのように何枚も同じ依頼書を出すことになっている。
近づいてそれらの依頼書を見てみると、その内容に二人は目が吸い付けられる。
「国境付近に大きな戦闘の痕跡……!」
「!」
──今朝、フラーシア王国との国境付近に大きな戦闘の痕跡を発見したとの報告有り。
直ちにこの町から臨時調査団を派遣する。
道中や調査中の護衛を募集。
ざっとこのような内容だった。
ジルは間違いなく自分達と勇者パーティーの戦闘跡だと確信する。
「ねぇジルこれにしない!? 報酬はまあそこそこだけど護衛任務だから楽そうだし!」
「こらこら、楽そうって言っちゃダメだよ」
ジルは苦笑する。
護衛任務は真面目にやるとずっと気を張って精神的には疲弊するが、魔物や賊さえ現れなければ肉体的には楽なのは事実である。
そしてトマトティアラはどう見てもそんな真面目に気を張るタイプではない。
「というかティアは今怪我してるんでしょ? 護衛クエストなんてダメだよ」
「バレなきゃ大丈夫〜! 募集人数的に他の冒険者もいるだろうし、もし魔物とか出たらアタシは遠くから包丁投げとくから!」
「えええ……でも確かに出発時間的にはちょうどいいかも」
「だよね! けって〜い!」
ジルは自分達の戦闘跡の調査ということで単純に気になった。
炎剣の勇者はただの焼け野原と化したあの場にまだ留まっているとは思えない。
万が一、炎剣の勇者と遭遇してもベスターメルンの勇者を名乗る者の横槍が入った今となっては前のように派手なやり方で自分を襲うことは出来ないだろうと考える。しかも今回は調査団や他の護衛冒険者達が居る前だ。
フラーシア王国から新たにキャンディに差し向けられると考えられる刺客に遭遇したとしても、腕輪も無い自分をキャンディが同行する冒険者パーティーの一員だとは気づけないだろう。
それにもしかしたら、あの時助けてくれたベスターメルンの勇者と名乗った人にも再会できるかもしれない。
「あ、このクエストだとティアは仲間の人と入れ違いになっちゃったりしない?」
「うん、その方がいい〜!」
「ええ……」
笑顔で言うトマトティアラに対し思わずちょっと呆れるような声が出てしまったジル。
トマトティアラにはミカエル達との合流を遅らせ、気になる男の子と一緒に時間を過ごして仲良くなりたいという意図がもちろんあった。
もちろん、恐らくミカエルの戦闘跡ということで気になったというのもある。
ジルは依頼書を取り受付に手渡す。
「すいません、このクエスト請けたいんですけど」
「はい承知しました。お二人共ですか?」
「はい」
「は〜い!」
「ではお二人の冒険者登録を確認しますね。ギルドカードを拝見致します。魔族の方は腕輪をこちらの水晶に当ててください」
ギルドの水晶に腕輪を当てるとその者が何の魔族か、どこの国の所属か等が表示されるようになっている。
型通りの手続きをトントン拍子に済ませていくジルとトマトティアラ。
そうしてすぐに手続きは終わり、受付嬢が後ろの物品棚から一通の手紙を取り出す。
「手続きは以上になりますが、トマトの魔族さんにお手紙が届いています」
「え、アタシ個人に?」
「はい」
「あ、僕まだ用事あるからティアは手紙読みながら待っててくれる?」
「は〜い!」
トマトティアラは手紙を受け取り、受付から少しだけ離れて内容に目を通し始める。
そしてジルはまずアリスの家族を探す依頼を出す手続きをする。
「すいません、人探しの依頼を出したいんですが」
「承知致しました。ではこちらの依頼書に詳しい内容のご記載をお願い致します」
その間に手紙を読み終えるトマトティアラ。
(任務中止……アタシだけ? ミカエルとセリーヌのことは気にしなくていいってどういうこと??)
彼女は少し困惑した表情で思案するが、考えても結論が出るはずもなく気持ちを切り替える。
(……まあいっか! 『せっかくなので観光してから帰ります。少しお休みください』って感じに返事しよっと! ……ていうか、もしかして配属変わるのかな!? きゃははっ! やったあ!)
もしかしたら勇者パーティーから抜けられるかもしれないと考え、片手をぐっと握って喜ぶトマトティアラ。
彼女は現在ジルの応対をしている受付に声をかける。
「お姉さん! 手紙出したいからなんか紙ちょうだい!」
「承知致しました」
まっさらな紙を受け取ったトマトティアラは併設されている酒場の適当な近い席に座って王都への返事の手紙を書き始める。
ジルはその間に依頼の手続きを終える。
「手続きは以上になります」
「ありがとうございます。あとすいません、聞きたいことがあるんですが」
「はい、いかが致しましたか?」
「ベスターメルン帝国って、魔族がある程度自由な腕輪付きになるのはどういう手順を踏んでるんですか?」
「腕輪付きですか? 通常は野良の魔族の方の申し出があったらまず腕輪を着けて帝国軍や指定の冒険者パーティーに入って貰い、半年ほどの観察期間で問題ないと認められたらある程度の自由が与えられるはずです」
「ありがとうございます。大体フラーシア王国と一緒なんですね」
すなわちキャンディやケーキに問題がなくとも半年ぐらいは自由を奪われるということである。
そしてその観察期間中にまず間違いなくキャンディ達が各国、すなわちフラーシア王国にも討伐対象に指定されていないか等を確認するはずで、その時にフラーシア王国に強制送還が決定してしまうだろう。
それどころかフラーシア王国からの要望によりその場で帝国軍や冒険者に葬られる可能性すらあり得る。
(さて、どうしたものかな……)
「すいませーん! さっきの手紙の返事書いたので送りたいんですけど〜!」
「承知致しました」
「ジルごめんっ! 絶対返すからまたお金借りていい?」
「もちろんいいよ」
「ありがと〜!」
手紙を出す為のお金も快く出すジル。
こうして全ての手続きを終え、二人は調査団の出発までギルド内で待機となった。
二人が酒場の席で軽食を食べながら待っていると、他の冒険者パーティーも同じ護衛クエストの依頼書を受付に渡して請けようとしている様子が確認できた。
「ほらっやっぱり他の冒険者もいる〜! これでサボれるねぇジル!」
「もー。ギルドに報告されても知らないからね?」
「きゃははっ! 大丈夫、バレない程度にサボるから!」
困った笑顔でため息をつくしかないジル。
とはいえ、もし本当に魔物等が出たら怪我しているトマトティアラを近接で戦わせる訳にはいかない。
(もし魔物が出たら、調査団だけじゃなくてティアの方にも行かせないように立ち回ろう。友達は僕が守る)
二人が出会ってせいぜい2〜3時間。
もうジルの中ではトマトティアラは警戒すべき腕輪付きではなく、立派な友達だった。
◆
ジル達がいる町、メルスハイムの上空。
一つ目の小鳥が、東の魔界方面から西の戦闘跡の方角へ飛んでいく。
その両足には、小さな赤い宝石が掴まれていた。




