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第49話 野菜の魔族・ベジィ

 冒険者ギルドに向かう途中に立ち寄った衣類店内。

 新しい服を着てご満悦のトマトティアラ。


 それは着替える前まで着ていた綺麗な赤いドレスとは違い、明らかに庶民向けという感じの安い生地の肩出し赤ワンピースだったが、トマトティアラは目を輝かせながらクルッと回ってワンピースを靡かせて喜ぶ。


「ん〜このワンピースさいこ〜♡ なんかドレス買って貰った時より嬉しい〜♡ ありがとぉジル! 仲間と合流したらちゃんとお金渡すからねぇ!」

「ふふっ、喜んでくれて良かった」


 そう言ったジルにトマトティアラは褒めて欲しそうに近寄ってテンション高く話しかける。


「ねぇこれ似合ってる!? 似合ってるよね!!?」

「うん、すごく似合ってる」 

「きゃはっ!♡ もう一生これ着る〜♡」

「あはは、魔族の一生ってすごい長いでしょ。保たないよ」


 お世辞ではなく、髪の毛も瞳も大部分が赤いトマトティアラに赤いワンピースはよく似合っていた。


 ちなみに魔族に老化という概念は無く、人間達のトマトへの欲望や好意が無くならない限りトマトの魔族・トマトティアラの命が自然に尽きることは無い。


「一生着るったら着る〜♡ あ、それじゃギルド行こっか! ドレスだけ引き取って貰ってくるからちょっと待っててね〜!」

「ん、外で待ってる」


 衣類店の人と話をすると破れた赤いドレスは引き取って貰うことが出来るようだった。

 ジルは店の入口のすぐ外に移動し、トマトティアラは試着室に置いていた赤いドレスを取って来て中年の女店主に渡す。


 なお武器の包丁を入れているホルダー部分だけは切り取り、ついでに買った茶色のベルトに括り付ける加工をお願いしていたのでそれも受け取る。これを腰に巻きつけることで武器の包丁をすぐに取り出すことができる。


「店主さん! はいこれ〜!」

「ありがとうね、はいこれベルト。それにしても可愛い魔族ちゃんだねぇ」 

「ありがとぉ! ジルも可愛いって思ってくれてるかな!?」

「あの男の子かい? もちろんメロメロでしょ」

「きゃはっ♡ だといいな〜♡」

「あらあら、あの男の子は彼氏さん?」

「ううん、けどちょっと気になってる〜♡」

「いいわねぇ、魔族ちゃんなのに恋愛感情があるのね。付き合えるといいわね」

「うん〜♡ じゃあ行くね、またねぇ〜!」

「またいらっしゃい」 

「はーい! おまたせジル〜!」


 こうしてまた横並びになり、ギルドに向けて歩き出す二人。

 歩きながら恋する女の子の笑顔でジルに話しかけるトマトティアラ。


 その背中を見送る女店主の目線は暖かかった。


 ◆



 ちょうど同じ頃。


 惨劇から一夜明けたばかりのフラーシア王国の王都冒険者ギルド。

 三階の他の部屋に比べて広めの一室。

 槍の勇者を含めた数人がバラバラされたはずのそこには、もう血の跡すら残っていない。


 その室内、老年に差し掛かる顔立ちの男性が机の前の椅子に座っている。


 フラーシア王国全体の冒険者ギルド長のベルトランである。

 その表情はどこか憔悴しているようにも見える。




 そしてそのベルトランに対面しているのは一人のジト目気味の美少女。 

 少女は藁編みの籠を持っていて、その右手首には黒い腕輪が嵌っている。



 彼女はキャベツの魔族・キャベツエリカ。近しい者からはエリカと呼ばれている。

 トマトティアラと同じく野菜の魔族の眷属種で、危険度レベルは3。


 キャベツエリカは前ボタン付きの水色ワンピースを着ていて、キャンディよりさらに幼い10歳くらいの可愛らしい顔立ちと身長をしていた。


 頭の黄緑色のそれは葉っぱのように平べったく白い葉脈が走り、キャベツの葉のようだった。

 その葉がいくつも重なり、ぱっと見セミロングの髪のようになっている。もはやそれは髪と言っていいのか微妙であった。


 また、キャベツエリカのジト目気味の目は黄緑色の瞳をしていて、よく見ると瞳の中にキャベツの白い葉脈のような線が下から上に走っている。



 キャベツエリカはあまり抑揚の無い静かな声と薄い表情でベルトランに問い掛ける。


「……あなた、寝不足……? なんだか疲れてる顔……」

「あ、ああ。まあな、気にするな」

「……そ……」


 ベルトランが取り繕うように答えるが、自分から問うたにも関わらずキャベツエリカの反応は薄い。


 キャベツエリカはそのジト目気味の目と薄い表情、抑揚の薄い静かな喋り方により、やや無愛想な少女という印象を相手に与えている。



 そして、キャベツエリカが持っている藁編みの籠。

 その取っ手にも黒い腕輪が通されていた。


 その籠の中。

 新鮮な野菜がいくつか入っている。

 そのいくつかの野菜の中の一つ、みずみずしいトマトに人間の口のようなものが生える。


 そう、それらは野菜そっくりだが野菜ではない。


 トマトティアラやキャベツエリカの上位種でもある『野菜の魔族・ベジィ』である。危険度レベルは5。

 ベジィは炎剣の勇者と槍の勇者が亡き今、事実上フラーシアの最高戦力の内の一体である。


 好意的な感情や欲望から漏れ出た魔力から生まれた魔族は人から好意を持たれる見た目、すなわち美形の人間のような姿で生まれることが最も多いが、当然ベジィのような例外もいる。



 ベジィは口の生えたトマトの姿でぴょんっと籠の中から飛び跳ねてキャベツエリカの頭に乗り、その口から三枚目の男俳優のような軽快な、しかしながら疑念を含んだような声色で質問を発した。


「……ベルトランよぉ。今朝から民衆が騒いでるぜェ。昨夜王都で何があった?」

「そ、それは調査中だっ、お前が気にすることではないっ」 

「…………」


 ベルトランの表情は何か焦っているようにも見える。


 昨夜から行政施設や王城で働いている家族が帰って来ない等の話で王都内は少し騒ぎになっていた。

 それとは反対に、ほとんどの人間が抹殺された各行政施設や王城内は静謐の極みである。


 ベジィは何かを疑うように口を閉ざしているが、キャベツエリカは空気を読まずに早く帰りたそうな雰囲気を漏れさせながら口を開く。


「……それで何の用……? わざわざ直接なんて……」

「あ、ああ。野菜の魔族とその眷属達に任務を言い渡す。現在任務のためベスターメルンに居るトマトの魔族に任務中止を伝えて連れ帰れ。これは他の全てに優先する最重要任務である」

「……あァ? わざわざテメェが直接命ずる任務がそれかァ?」


 ベジィがそう言うのも無理はない。

 通常であれば伝書鳥をトマトティアラが滞在している町の冒険者ギルドに飛ばすなり、適当な使者を早馬で飛ばせばいいだけの話である。


「んなもん伝書鳥をティアのいる町の冒険者ギルドに……」

「今朝送ったさ当然……だがトマトの魔族の任務は確実に中止されなければならない、お前らも出向いて確実に任務を中止させろ」


 トマトティアラは伝書鳥よりも早く町の冒険者ギルドに着きミカエルやセリーヌが来ていないか確認、その後は町をぶらついていたため、まだトマトティアラは伝書を確認できていない。


「んでティアの任務ってのは?」

「……お前が知る必要はない」 

「……ん? ティアは炎剣の勇者のパーティー配属だったよな? 勇者達には任務中止は伝えなくていいのかァ?」

「あ、ああ。勇者達も居たら伝えろ」

「…………了解」

「……ベスターメルンまで行くの……? めんどくさい……」


 ベジィはベルトランの発言に違和感を感じるが、それを口には出さない。

 キャベツエリカは任務の長距離移動のことを考えてただただ面倒くさそうにしていた。




 ……昨夜、セラフセヴァー達からベルトランに伝えられた事がいくつかある。


 その中には、キャンディ達を狙った炎剣の勇者と魔法使いの女は始末した事や、これ以上ジル達の冒険者パーティーの誰か1人にでも手を出せばベルトランやその家族に苦痛に満ちた死を与えるという事もあった。


 ベルトランはミカエルとセリーヌはすでに死んでいることを聞いて把握していたために、トマトティアラにのみ任務中止を伝えるという違和感のある発言内容になった。

 トマトティアラが恐らく生きているであろうことは腕輪から把握できたため、確実に任務を中止させる為にわざわざベジィ達を差し向けるのである。



 トマトティアラの腕輪の位置を把握できる魔法の地図を手渡されたキャベツエリカはベジィと共にギルドの外に出る。

 速やかな移動のための馬車代まで手渡されていた。


「……馬車代……こんなのいつもはくれないのに……」

「……胡散臭ェな……とりあえずラッシュも呼ぶぞ、それから出発だ」


 ラッシュとは『レタスの魔族・レタスラッシュ』のことである。

 名前がこんな感じなのはベジィのネーミングセンスがそんな感じだからである。



「……ねえ、ベジィ様……」

「なんだァ?」



 キャベツエリカはボソッと呟く。


「馬車代でたくさんキャベツ買ってもいい……?」

「…………」


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