第48話 ジルとトマトティアラ
ジルとトマトティアラは横並びで冒険者ギルドに向かって町を歩く。
ジルが見る限りトマトティアラの身長は150cm台後半で、ジルより数cmだけ低いぐらいに見えた。
「え、仕事の時に散り散りに?」
「そうなの! 仲間とはぐれちゃってさ〜! まあそれはいいんだよねぇ、アイツら嫌いだし! それより仕事で大怪我したのが最悪だよねぇ、ナンパしてきた奴ら包丁で脅そうしたんだけど傷口痛くってさ!」
「ふふっ、町中で包丁なんか出しちゃダメですよ。今度からは大声上げてくださいね」
「あ、その手があった〜! キミ頭いいねぇ! きゃははっ!」
トマトティアラは大げさに表情を変えてよく喋り、よく笑った。
ジルはトマトティアラに対し、性格も明るくてお喋りなまさに年頃の女の子そっくりの魔族だという印象を抱く。
彼女はジルに興味津々という感じで問い掛けてくる。
「ねぇキミ名前なんていうの!? アタシはトマトティアラ! トマトの魔族!」
「えっトマトの魔族!? あ、僕はジルっていいます。トマトティアラさんは野菜の魔族の眷属種ですよね? フラーシア所属ですか?」
「そうだよ〜! ベジィ様の眷属! てかジルって名前短くて覚えやすくていいねぇ!」
「ありがとうございます。トマトティアラさんもなんというか、覚えやすい名前ですね」
「きゃははっ! ベジィ様のネーミングセンスがアレだからね〜! まあだからアタシのことはティアって呼んで! それからタメ語がいい〜!」
「え、分かりました。じゃなくて分かった」
「きゃはは! 距離測られてる感やばい〜!」
フラーシア王国には『野菜の魔族・ベジィ』とその眷属種が多数腕輪付きとして所属していて、ジルもそのことを知っていた事からトマトの魔族と聞いた瞬間にフラーシア王国所属の魔族ではないかと推測した。
ジルは自分の中に、もしかしたら自分達を追うフラーシアの刺客じゃないかと警戒心が生まれるのを感じ、同時にそんな自分に対して嫌悪感を感じた。
刺客と確定している訳でもないため、ジルはトマトティアラを不快にさせないよう笑顔を作って質問する。
「えと、ティアはフラーシアから仕事で来たってこと? どんな仕事?」
「え〜? とっても嫌なお仕事〜! 詳しくは守秘義務あるからごめんね! それでまあクソみたいな奴に脇腹ぶっ刺されちゃってさぁ、負けそうだったからアタシ逃げちゃったんだよね〜! ま、ソイツどうせミカエルに殺されてるからいいんだけど!」
「仲間の人ミカエルっていうんだ。すぐ合流できるといいね」
ジルは炎剣の勇者との戦闘の際、勇者の名前は聞いていなかった。
「ん〜ぶっちゃけ合流はしたくないかな! さっきも言ったけどアイツら嫌いだし〜! ミカエルとセリーヌっていうんだけどさ、2人とも性格悪すぎだしアタシが居る時でも発情期のつがいみたいでキモいし、どーせ今もアタシほっといて2人でサカってるんだろーね!! アタシの配置めっちゃハズレ引いたよねぇ、ふつーにトマト売りとかの仕事したい〜!!」
「そ、そっか」
トマトティアラは近接は弱い魔法使いのセリーヌの護衛、そして雑用や食料生成要員として勇者パーティーに配属されていた。
また彼女はフラーシア所属の腕輪付きの魔族で、かつキャンディと違って意外と言う事をよく聞き国の評価が高い魔族であるが故に極悪非道のミカエルもいろいろな意味で手を出しづらいであろうという国側の計算もあった。
その計算通り、勇者の狂信者であるセリーヌは別としてトマトティアラにはミカエルも手を出していない。
ジルはトマトティアラがめちゃくちゃに愚痴を捲し立てているのを聞き、自身もパーティー内で彼女とイチャついていることに関しては心当たりがあったため冷や汗をかく。
僕もキャンディやケーキさんが居る前でアリスとあんまりイチャつかないように気をつけよう……
そんなことを考えていると、ふとトマトティアラが横の建物の方を見ているのに気づく。
「? あ、衣類店……そっか、ティアのドレス汚れてる……っていうか破れてるもんね」
「そうなの〜。でもアタシお金持ってないから仲間と合流するまで我慢する」
勇者パーティーの資金は主にセリーヌが管理しており、トマトティアラは1ゴールドも持っていない。
その赤いドレスはケーキから全速力で逃げている時に付いた草木や土の汚れが目立ち、所々破れてしまっていた。
この赤いドレスは勇者パーティーに配属されるにあたり、勇者パーティーの一員として相応しい服装をと国にわがままじみた説得を行ない買ってもらったものである。
「ティア。お金は後でいいから僕が何か買おっか?」
「え。いいの?」
「うん。ギルドに案内してもらうお礼」
「……さっきも助けてくれたのにありがと! ジルは優しいねぇ!」
トマトティアラは満面の笑みで喜びを表現し、さらに右手の平をジルに向けて差し出した。
ジルがなんだろうと思っていると、その右手の平から瑞々しいミニトマトがポコッと生成される。
「これあげる! 食べて!」
「えっ。ありがとう」
ジルはミニトマトを指で摘んでひょいっと口に放り込み噛み砕くと、とても新鮮で甘酸っぱいトマトの味が舌に広がる。
「……美味しい……! 今まで食べたトマトの中で一番かも」
「でしょっ! アタシのトマト美味しいって地味に評判なんだよ〜!」
トマトティアラは後ろに手を組んでケタケタと嬉しそうに笑った。




