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第46話 大陸の地理と状況

 

 またやってくるかもしれない追手等から逃れるため、簡易テントが焼かれたために木陰で野宿をしたジル達は早朝には出発した。


 午前中にはベスターメルン帝国の中規模の町メルスハイムに到着し、とりあえず宿を取る。

 幸いにもケーキやキャンディは人間そっくりの魔族であるため、その特徴的な瞳さえじっくり見られなければ腕輪を着けていない魔族であることがバレる心配はない。 

 ……人間が相手であれば、だが。



 宿の部屋でようやく腰を落ち着けた4人が事態に対処するための話し合いを始める。


「……」

「アリス? どうかした?」

「ううん、なんでもない」


 アリスを除く3人は、まだ昨夜のフラーシア王国の破滅を知らない。


 まだ左手が再生していないキャンディが不機嫌に話を切り出す。


「とりあえずさぁ、あのフラーシアクソ王国から狙われなくなる方法なんかない?」

「クソ王国……」

「クソ王国よ!! このあたしの命を狙うなんて、元々忠誠心ゼロだったけどマイナス百万になったわ!!」


 キャンディの発言に、アリスとケーキはコクコクと頷く。

 ジルは本気で怒ったアリスをまだ直接見たことが無かったが、今回の件はさすがに思う所があるようだとジルは思った。

 ジルはフラーシア王国については生まれ育った国ということもあり、複雑な気持ちを抱いていた。


「まったく同感です。それで狙われなくなる方法ですが、ぱっと頭に浮かぶのはフラーシア王国と同等以上の国力を持つ国の腕輪付きになることですね、そうなれば下手に王国も手出しできないでしょう。難易度は高いですが……」 

「フラーシア王国と同等以上……割と絞られるね」

「はい。同等なのはベスターメルン帝国。そしてフラーシア王国を遥かに超える国力を持つのが『聖帝国ガルガルシア』と『空中浮遊都市ソラリス』」

「えー……また腕輪着けるのイヤ……しかも聖帝国って味方でも魔族の扱い悪いって噂よね……ソラリスは遠すぎだし……」

「まあそうですね……少し地図を描いて整理して考えましょうか」



 ケーキが簡単な世界地図を描き始め、ジルは大陸の地理や状況を思い浮かべる。



 大陸中央と北側は全て魔界。

 頂点に全ての魔族の始祖で『命の魔族』と仮定されている存在がいるとされ、その下で5体の『魔王』と呼ばれる最強格の魔族達が魔界の5つの地域を統治している……らしい。

 らしいというのは、この情報は聖帝国ガルガルシアから西側諸国への情報提供によるものだからだ。



 大陸西にフラーシア王国、ベスターメルン帝国、アラバビスカ王国を中心とする西側諸国。



 大陸南西の大きな瘤のように出っ張った部分、西側諸国から見ると山脈を挟んで南側にあり、大陸南西の全てを占めるのが『聖帝国ガルガルシア』。

 フラーシア王国の約10倍の面積と圧倒的軍事力を持つ超大国で200人以上の勇者を擁し、特に『聖勇者』と呼ばれる人類最強の7人の名声はフラーシア王国にまで響いている。

 数百年もの間、魔界との全面戦争が続いている。



 大陸の南側諸国は全て魔界の植民地、または聖帝国と魔界の戦場と成り果てている。

 その南の海洋には小さな島国がいくつか健在。

 国力は低く、実質的に全てが聖帝国ガルガルシアの従属国である。


 なお魔族は、知能の高い生物──特に人間の感情から漏れ出る魔力を源泉として生まれたり力を得たりしているため、制圧した国の人間を皆殺しにしたりはせず奴隷や実験動物のように生かしている。



 大陸の東側諸国もほぼ全て魔界に制圧されているが、大陸東側と海洋の狭間に浮く『空中浮遊都市ソラリス』が唯一健在。


 約150年前、とある出来事があり魔界と戦える強国へと急激に成長した。

 西側諸国や聖帝国とは距離があり、どのような国なのか、なぜ空中に浮いているのか等ジル達も知らないことが多かったが“魔界との戦争が成立している”という時点でフラーシア王国を遥かに超える軍事力を持つことが容易に推測できた。


 “東方最後の人類圏”とも言われるソラリスは、フラーシア王国の100分の1以下の面積しかない国でありながら、ソラリス以外の東側諸国が全て壊滅した約百年前から孤軍奮闘で魔界との戦争を続けている。

 ジル達が陸路でこの国に行くには魔界か、聖帝国と魔界の戦場地域を超える必要があり、しかもジル達は知らないことだがソラリスの国土はたまに移動したりしている。



 キャンディがふと質問する。


「あれ? これさぁ、西側諸国はなんでまだ魔界にやられてないの? 仮に西側諸国全部が連合軍組んだところで、魔界がテキトーにレベル7の奴を20体、いや下手したら10体ぐらい送り込むだけで壊滅でしょ」

「それ皆言ってるよね、なんでなんだろうね? まあ今は聖帝国とソラリスの相手で手一杯なんじゃないかとは言われてるね」 


 一応フラーシア王国とベスターメルン帝国は、人類圏で聖帝国ガルガルシアと空中浮遊都市ソラリスの次に力のある国であるが、それでも魔界がその気になれば戦争すら成立せず一方的に蹂躙されると言われている。

 これは西側諸国が脆弱だからというよりも魔界、聖帝国、ソラリスという3強の力があまりにも突出しているためである。


 にも関わらず魔界が西側諸国が滅ぼしていない理由として一番多い予想は、ジルが言ったような魔界が聖帝国やソラリスとの戦争に可能な限り戦力を割くためという予想である。


「話を戻しますね。整理するとやはりベスターメルンの腕輪付きになるのが一番難易度が低いと思います。ソラリスは遠くて国の情報も少ないですし、聖帝国は噂で聞こえてくる腕輪付きの扱いの悪さからして、私とキャンディ様はこのまま隠れて生きる方がマシという可能性すらあります」

「まあ……そうね……」


 キャンディは不本意ながらそれしかないか、という感じの表情で頷く。

 ジルも納得し頷く。

 アリスは何かを言いたいが言いづらいような表情。

 ケーキが話を続ける。


「それから、狙われているのはキャンディ様です。なので私とキャンディ様はどこかに隠れるなり逃げるなりして、お二人は旅を続けるという手もあります」

「そんなの駄目!」

「うん。僕もそれは論外かな」


 アリスが強く否定し、ジルもきっぱりとそれに続く。


「そんな2人を見捨てるような選択肢は無いよ」

「そうだよ! それにその……もう追手なんか来ないと思う。きっと大丈夫だよっ」

「……お二人とも、ありがとうございます」

「ふふっ、2人ともありがと。でもアリス、大丈夫なわけないでしょ! 仮にあのクソ勇者があのまま助っ人にやられてるとしても、まだ王国には“槍の勇者”とかいうのもいるし」

「……あの助けてくれた人は結局何だったんだろう?」

「ベスターメルンの勇者と名乗ってたんですよね? 少なくとも炎剣の勇者を戦場から引き剥がせる実力となると、実際その通りかと。助けた理由については領地内で他国の勇者が暴れているのを見過ごせなかったと推測できます」


 間近で黒装束の者を見たジルはいまいちそうは思えなかったが、そうとしか考えられないかと一応自分を納得させる。


「さて、本格的に動くのはキャンディ様の腕が再生してからにしましょう」

「そうね、まずお菓子食べたいわ! アリスごめんね。あなたの家族を探す旅なのに」

「ううん大丈夫!」


 そうしてケーキがテキパキと役割分担を決めていく。

 休養と沢山の食事でキャンディの左腕は程なく再生する見込みだった。 


「ではジルはギルドに私達が腕輪付きになる為の情報収集とお金稼ぎをお願いします。私はキャンディ様のお側で荷物整理や衣類の修復を。アリス様は沢山のお菓子を始めとしたお買い物をお願いします」

「分かった!」

「キャンディちゃんっ、沢山美味しそうなお菓子買ってくるからね!」

「ん! 楽しみに待ってるわ!」



 こうして宿から出たジルとアリスは一旦別れ、ジルは一人でメルスハイムの町中を歩いて冒険者ギルドに向かう。


 ベスターメルン帝国は工業が盛んな国で、この町もその例に漏れず鍛冶場や工厰のような施設が少し多いように見える。

 また、賑わいからしてそこそこの規模の町であることが分かる。


 (宿の人に聞いた限りではこっち方向だよね……町の人にも聞こう)


 ジルは当然ながら初めて来る町で地理に疎く、少し歩いて噴水のあるやや広い場所に着くと、冒険者ギルドまでの道のりをまた誰かに聞こうと辺りをざっと見渡す。



 すると、嫌でも目立つその姿がジルの目に入った。



(……ん? ベスターメルン帝国の腕輪付きかな)


 噴水に座る少女。


 右手首の腕輪を見て、ジルはベスターメルン帝国所属の魔族だと推測した。



 少女の髪の毛は頭頂部あたりが濃い緑、そこから下は全てみずみずしい真っ赤というトマトを連想させる色で、毛先に軽くパーマがかかったようなふんわりセミロングの髪だった。


 ジルが見る限り16、17歳ぐらいの可愛い顔立ちで、やや遠くから見るとその瞳は赤く見えるが、近くで見ると実際には小さな小さなミニトマトが封じ込められているような瞳であることが分かるだろう。


 服装はまるでこれから結婚式にでも出席するかのような綺麗な赤いドレスだったが、森の中でも走って来たのか割と汚れているように見えた。


 そしてその綺麗なドレスにまったく似つかわしくない赤いホルダーを腰にいくつも縫い付けられている。そのホルダーには包丁が入っているように見える。



 そう、ケーキとの戦いから逃げ出したトマトの魔族、トマトティアラである。



 ミカエル達勇者パーティーは、キャンディ達を襲撃するにあたってこの町を仲間とはぐれた際の合流場所と事前に決めていた。


 噴水に座って暇そうに足をパタパタさせるトマトティアラ。


(ギルドにも来てないみたいだし、ミカエルとセリーヌどっかで遊んでるのかな〜? もうアタシ一人でちょっと観光でもしちゃおっかな。…………ん?)

「あ」


 ふと、トマトティアラとジルの目が合った。

 

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