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第44話 ほしぞらのよるに。

 アリスを探して大声をあげるジル達3人。

 そこに少しだけ時間をおいてアリスは駆けつけた。


「アリス!!」

「ジル! キャンディちゃんにケーキちゃんもっ!」

「無事で良かった……っ……」

「ふふっ、大丈夫だから。ジル、泣かないで」


 アリスを強く抱き締めるジルと、ジルの背中を優しく擦るアリス。

 キャンディも近寄って話しかける。


「アリスっ! 大丈夫だった? 暗殺者みたいな奴とか来なかった?」

「うんっ大丈夫! っ、キャンディちゃん左腕!!」

「ちょっとー。気づくの遅い〜」

「ごめんっ、次の町着いたらいっぱいお菓子買うからねっ」

「とりあえず私とキャンディ様の腕輪を外して破壊しましょう。国に狙われている以上はもう着けない方がいいかと。暗くなりますが移動もしないと」 

「! そうだね!」



 こうしてキャンディとケーキは人間と違い頑張れば変形させることができる手の形をいじくり腕輪を外し、ジルの魔刀で破壊。土に埋める。

 4人は暗くなる中だったがさらなる刺客等を警戒して少し移動、それから野宿して夜を明かす。


 アリスの白いワンピースが泥だらけだったが、ずっと身を小さくして隠れていたとジル達には説明した。




 実際はセリーヌを痛めつけている時の返り血が付いたのを隠す為だったが。



 ◆



 ジル達3人にアリスが合流する前。



 夕日も落ちて夕焼けが夕闇へと変わっていく中、木陰で銀髪の少女と黒仮面に黒いローブの者が立ち話を行う。

 付近には、ミカエルの死体をセラフセヴァーが消滅させた後の地面の跡。


 それはどこか異常な光景だった。


「冒険者達は全員無事です。ご安心を」

「良かった……結局あの女の人、どんなに体ちぎっても死ぬまで何も話さなかったの。セラは?」

「はっ。刺客はフラーシア王国の勇者で、始末する前に国の命令である事を聞き出しました。その口ぶりから、あの少女のような魔族が国への貢献度が低いゆえ処理するよう命じられたものかと」

「なにそれ」



 怒気の込もった声。


 

 瞬間、生きるもの全ての存在を許さないかのように空気が死の気配を帯び、ピリつく。


 夕闇の中、鳥や虫達が一斉に鳴き声をあげて飛び立つ。

 近くの全ての生物達が逃げ出していく。


「セラ。二度とこんなことが起こらないようにして」

「……少し派手になります。我々の存在や所在がある程度把握されてしまうのを許容頂けるのであれば」

「──構わない、やって」


 そこにいつものあどけない少女の表情は一ミリも無い。


 ゾッとするような冷たく殺意の込もった表情。



 その白ワンピースにはまだ真新しいセリーヌの血。


 


「キャンディちゃんにこんなことする国なんて、いらない」




 ジル達には見せない深淵が、顔を覗かせていた。


 

「──アリス様のお望みのままに」



 血のついた白ワンピースが風にはためき、その前で黒装束の者が片膝をつく。


 夕闇をバックにしたそのシルエットはどこか美しく、狂気を孕んでいた。



 ◆



 フラーシア王国の王都、アティスセーヌ。


 立派な二重の城壁に囲まれた立派な王都で、内側の城壁内には王城や各行政機関が集中している。

 城下町もジルがキャンディ達と出会った町オレトより明らかに建物が綺麗で、王都の裕福さを伺わせた。




 ──その日はジルとアリスが恋人になった日のように、綺麗に星空が見える夜だった。




 王城の上空に、複数のなにかが現れた。





 それから少しだけ時間が過ぎ。



 内側の城壁内のとある高級料理店。


 フラーシア王国の高官達が席についていて、食事の席であったことが推測できた。


 その中の一人。

 中年で小太りだが、見るからに高級で貴族らしい服を着ている男性。

 キャンディの暗殺を命じたフラーシア王国の高官、テオドール。



 ……ポタッ。



 血が落ちた音だった。


 その胴体には穴が空いていて、既に事切れていた。 

 他の全ての席にも、頭や胴体に風穴が空いた高官達の死体。


 料理の匂いと血の臭いが、混ざり合っていた。



 場所は変わり、各行政機関や施設内。

 フラーシア王国の頭脳とも言える者達が仕事をしたり、住んでいたりする場所。


 そこに生きている者はもういない。


 沢山の穴だらけの死体が放置されているだけの場所と化していた。


 その外を見回り警備する兵士達。

 その中で、侵入者に気付いて()()()()者も同様の運命を辿った。



 外壁と内壁の間の街中にある王都冒険者ギルド。


 一階では冒険者達が騒がしく酒を飲んでいる。


 三階は打って変わって静かな階だった。

 そして、他の部屋に比べて明らかに立派で広い一室がある。

 その一室の中には、侵入者を倒そうとした護衛の冒険者数名の切り刻まれた死体。

 一階の者達は酒の席の五月蝿さで事態に幸運にも気付かない。


 室内にまだ生きている者が2人だけいた。


 老年に差し掛かろうかという顔立ちだが、かつて冒険者だった名残りが残る肉体をしている。

 ただ、その成金のような服装が完全に冒険者を引退していることを伺わせる男性。

 国からの依頼によりキャンディに勇者を差し向けたフラーシア王国全体の冒険者ギルド長、ベルトラン。


 そして、フラーシア王国が擁する2人の勇者の内の1人。


 “槍の勇者”ジュスト。


 “炎剣の勇者”ミカエルと違い、己の体一つで槍とともに強くなり、ついには約三年前の大暴走の際にレベル6の魔物を死闘の末に倒して勇者と認められた叩き上げである。


 侵入者の前に護衛の冒険者達の死体が転がる中、槍の勇者は他の者と比べ物にならない速度で動き、侵入者に槍を突き出した。

 それは闘技場でケーキと対戦したエヴラールの槍よりも遥かに速く、鋭い突きだった。


 その槍は、侵入者の片手に掴まれて止まっていた。



 ヒュンッ、と風を切る音。  



 槍の勇者はいくつかの肉片となり、バラバラになった槍と共に崩れ落ちる。


「さて、あなたが王国全体のギルド長ね? 分かってると思うけど叫んだりしないでね?」

「き、貴様……こんなことをしてっ、ギルドどころか王国軍が動くぞっ……!?」

「王国軍?」


 それは、何か可笑しいことを言われたかのようにフフッと笑った。


「……なぜ笑う?」 

「あなた、簡易鑑定は使えるかしら? 私を鑑定してみなさい」


 そう言うと侵入者は黒仮面を外し、さらに黒いフードを脱ぐ。



 それはセラフセヴァーと同様に顔が僅かに白く光っていたが、そのシルエットはロングの髪をした大人の女性のようだった。


 黒い衣装のせいで全体は見えないが、髪の毛から足の下まで真っ白で、全身も僅かに光っている。

 そしてシルエットが人間なだけで目や手足の爪等が一切なく、顔だけでなく全身を眺めても中に光源が仕込まれた大人の女性のマネキンのような印象を受けるだろう。


 セラフセヴァー同様、全身を覆う黒装束でその体は隠されていたが、黒仮面を外してフードも脱ぎ、今はその光る髪の毛とマネキンのような顔部分だけは外から見ることができた。



 セラフセヴァーと同様にその白い光も、アリスの発する淡く白い光にとても良く似ていた。



「……『簡易鑑定』」


 元冒険者であるベルトランは簡単な魔法をいくつか使うことができ、魔族や魔物の魔力量から危険度レベルを測る簡易鑑定もその一つだった。

 対象の魔力量を測る簡易鑑定で強さを測れるということ、さらに言葉を話していることから、侵入者が魔族であることが推測できた。


 ベルトランは警戒色の強い表情で簡易鑑定を使い、その右手の甲に侵入者の危険度レベルが表示される。



 それを見たベルトランの表情は青ざめていき、絶望に染まっていく。


「……な……」 

「ね? 多分王国の軍隊と冒険者の全員より私の方が強いわよ?」

「馬鹿な……こ、こんな……」

「あと言っとくけど、今王城を襲ってるお方や“あの方”は私より強いからね、ふふっ」

「……え?」

「あなたはこれからの為に生かしてあげる。……そうねぇ……長いお付き合いになるかもだし名前は教えようかしら。ラファルイナと呼びなさい」


 余裕で微笑むように話すラファルイナ。

 その者を前にしたベルトランは、フラーシア王国の終焉を確信せざるを得なかった。



 ──王城内。


 そこらじゅうに、大穴が空いた兵士の死体。


 王座に座る、首から上が消し飛んだ国王の死体。


 傍らに、穴だらけの王妃の死体。




 王城内、とある一室の扉の前。


 警備の鎧兵士2人が廊下の曲がり角から現れた“それ”に気づく。


「……? 失礼ですが、どな」


 言い終わる前に消し飛ぶ2人の頭。

 それと共に穴が空く奥の扉。


 黒い仮面に黒いローブの者は歩いて兵士の死体を通り過ぎ、穴の空いた扉を開けた。



 そこは、国王の子ども達に与えられた寝室の一つだった。


 

「……だれ?」



 小さな男の子が純粋無垢な瞳で問い掛けた。


 セラフセヴァーは答えず、無感情に右手の平を向ける。



 

 ──こうして、数百年の歴史を持つフラーシア王国は滅んだ。



 後に残ったのは、フラーシア王国という名前が一緒なだけの“彼ら”の傀儡国家。



 ◆



 真っ暗闇の中でジルとケーキが睡眠を取る中、ジャンケンで決めた交代の見張りで起きているアリスとキャンディ。


 ふとアリスが用事を思い出したような表情。


「あっ、忘れてた」

「? 何が?」

「ううん、なんでもない」


 アリスは結局、セラフセヴァーに記憶を失う前のことを聞くのを忘れていた。

 ただ嫌な気持ちになりそうと予想していたこともあり、まあいいかとすぐに気持ちを切り替える。


「そう? でも面倒なことになったわね……隠れながら生活するのとかイヤなんだけど……」

「──ううん、大丈夫」


 アリスは確信したような声色。

 安心させるような笑顔をキャンディに向ける。 


「二度とこんなことは起こらないよっ」

「もー……お気楽なんだから」

「ふふっ」


 キャンディは珍しく呆れながら頭をアリスの肩に預ける。



 アリスは、ただただ優しく微笑んでいた。

 

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