第42話 ジル、キャンディ vs 炎剣の勇者 2
ジルとミカエル、炎剣と魔刀の鍔迫り合い。
ふとミカエルの鎧が赤い光を帯び始める。
ジルはやむを得ずバッと飛んで距離を離した。
次の瞬間には、先程キャンディを吹き飛ばした炎の衝撃波。
ドゥっ、と魔鎧から衝撃波が周囲に爆ぜる。
「さあ仕切り直し……ちっ!!」
ジルは距離を離して一旦衝撃波をやり過ごすと、また人間離れした凄まじい速さでミカエルに迫り、今度は首を狙った横振り。
ミカエルに一息つく間も与えない。
ミカエルはなんとか炎剣で受け止めるが、その額からは冷や汗が流れていた。
ジルは間をおかず、続けざまに太ももを狙った軽い横振り。かと思えば頭を狙った刺突。
キャンディの魔力を吸収した魔刀の力により、ジルのパワーやスピードは一時的に格段に上がっている。
ミカエルは全て回避、防御するが、その表情に先程までの余裕はない。
そもそも単純な剣の腕はジルが上である。
また、自分と比べて重装のミカエルはこのような小刻みな攻撃には対応しづらいだろうとジルは予想していた。
事実、炎剣から力を与えられて速さも動体視力も上がっていなければミカエルはとっくに首が落ちているだろう。
炎鎧の衝撃波攻撃も、先程使ったばかりでまだ再使用できない。これもジルの予想通りだった。
ピクっと何かに反応したような仕草をしたミカエルが左腕を後ろに薙ぐと、キャンディが飛ばした小さなペロペロキャンディ製の矢が手甲に弾かれる。
ミカエルのその小さな意識の乱れをジルは見逃さなかった。
頭を狙った刀の振り下ろし。ミカエルは片手一本の炎剣で受け止めるが、その振り下ろしがやけに軽いことに気づく。
釣りと気付いた時には遅かった。
ジルはミカエルの土手っ腹に右足の蹴りを入れる。
炎鎧のお陰で大したダメージは無いが、ミカエルは姿勢を崩しよろける。
そこにジルは踏み込んだ。
肩辺りを狙い、あえて全身の力を入れない横振り。
ミカエルは炎剣で受け止めようとするが、それはジルの予想の範疇。焦りもありミカエルはジルの次の一手に対応し切れなかった。
ジルは刀を横振りしつつ、大きくしゃがむように姿勢を下げた。
魔刀の切っ先がミカエルの大腿部を浅く捉える。
「っっ!!」
ミカエルは痛そうな表情をしつつも炎剣を赤く発光させる。
それを見たジルは後ろに大きく飛んだ。
だが炎剣は赤く発光したままで、炎を発したりはしない。ただの陽動だったかとジルは推測する。
ミカエルの大腿部から血がどくどく流れる。
あまり力の入らない刀の振り方だったこともあり斬撃は骨まで達さず、立てなくするまでには至らなかったようだ。
「今まで殺してきた人達とご遺族にっ、あの世で償え!!」
「いけるわね! コイツこのまま殺しちゃいましょ!!」
勝利を引き寄せつつあると確信したジルとキャンディの表情と声色。
「……うぜえ……」
ミカエルの低く冷たい声。
途端、空気が揺れた。
「…………!?」
嫌な予感がしたジルとキャンディはさらに距離を離す。
「……“炎の化身”」
ミカエルがボソッと詠唱した。
ふとジルはミカエルの炎剣の赤みが青色に変化していくことに気づく。
また、ジュウウと何かが蒸発するような音がし始める。
地面だ。
ミカエルの周囲の地面があまりの灼熱で溶け、蒸発し始めている。
バキッ。
パキパキッ。
何かがひび割れる音。
ミカエルの炎鎧がひび割れる音だった。
フラーシア王国が炎剣の使い手のためだけに作り出した炎鎧ですら、完全に力を解放した『炎剣プロミネンス』の灼熱には耐えられない。
炎鎧が耐えられない故に、普段は出しきらなかった炎剣の力。
ミカエルは今、その全てを解放させた。
彼は青い炎に包まれ、炎の化身となった。
「ほんとは後でセリーヌと一緒にいたぶって遊びたかったけどよ……やめだ。お前らはもう殺す」
ビュッと空気を裂く小さな音。
キャンディがまた小さなペロペロキャンディ製の矢を飛ばした音だ。
だが、矢はミカエルを包む青い炎に触れた瞬間に消し飛んだ。
「……は!?」
ミカエルが雑に人差し指をキャンディの方に向ける。
キャンディが遠距離攻撃が来ると察して身構えた次の瞬間、ミカエルを包む青い炎から凄まじい速度で青い炎の矢が飛び出し、空気を焼き裂いた。
予想以上の速さの矢に回避し切れず、キャンディの左腕の肘から先が蒸発し消し飛ぶ。
背後の草木も、空間をえぐり取られたかのように蒸発し消し飛んでいく。
「っっ゛!!」
「キャンディ!! っ!」
続いてミカエルはジルの方に人差し指を向けた。
空気を焼きながら飛んでくる青い炎の矢。
魔刀の強化がなければジルは致命傷を負っていただろう。
バッと素早く横に飛んだジルはなんとか回避に成功する。
だが……
「あー、てめえは躱すよな。じゃ、こいつはどうだ?」
ミカエルが炎剣を空に向けてかざした。
ポッ、と小さな青い火の球が空中に生まれる。
それはみるみる巨大化していき、やがてもはや火球ではなく小さな青い太陽とでも言うべき巨大火球となった。
周囲の地面からジュウウと蒸発音が激しく鳴る。
「言っとくが、こいつはさっきの炎の矢と違ってお前に向けて誘導できる。ま、速さは少し劣るがな」
「こ、こんなの……!!」
ジルは思わずたじろぐ。
そして、ミカエルは炎剣をジルの方に向けた。
空の青い火球がジルに向けてゴゴゴと動き始める。
最初は遅かったがそれはすぐに加速していき、やがて落石のような勢い速度でジルに向けて迫る。
ジルはすでに斜め後ろに向けて走っていたが、誘導性能もある巨大火球から逃げ切れるはずもなく、ジルは自身の死を確信してしまう。
……『勇者』とは、レベル6の魔族や魔物を一人で倒せると認められた者。
その勇者が全力を出せばこうなるのは必然。
ジルは目を強く瞑った。
アリスっ……キャンディ……ケーキさん……!
どうか……逃げて、生きて……!!
「……ここまでだな」
「!?」
ジルは聞いたことのない声。
突如としてジルの目の前に現れた“それ”は、淡く白く光る右手をジルに迫る青い太陽に向けてかざした。
直後、青い火球が激しく爆ぜる。
巨城の火薬庫が大爆発を起こしたかのような凄まじい爆発。
「っっっ!!」
その衝撃波だけでそこそこ遠くにいたキャンディまでもが、なんとか身を丸めつつもさらに遠くに吹き飛ばされた。
当然のようにミカエルにはダメージは無い。
飛んできた瓦礫もミカエルを包む青い炎に触れた瞬間消し飛び、炎剣の力により衝撃波に耐えるパワーを得ているからだ。
もくもくと煙が辺りを覆い尽くす。
小さなキノコ雲が上空に上がる。
巨大火球が落ちた地点はまるで隕石が落ちたかのようにえぐり取られ、クレーターと言ってもいい穴ができていた。
──ジルと、“それ”の周囲以外は。
「もしや少年側が勝利するかとも思ったが……勇者相手はまだ厳しかったか。だが少年、予想以上だったよ」
「え……?」
「……は?…………てめえは誰だ?」
煙が晴れ始めると、そこには黒い仮面に黒いローブ。
セラフセヴァーが、その黒い仮面をミカエルの方に向けた。




