表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/61

第41話 ジル、キャンディ vs 炎剣の勇者 1

 

 オレンジ色の髪の鎧剣士。

 その鎧剣士を挟むように動く、刀を持った少年と巨大ペロペロキャンディを持った少女。


 炎剣の熱により、空気は真夏よりも熱かった。



 右のジルを目で追う炎剣の勇者ミカエル。

 それを見たキャンディが踏み込み、ミカエルの左からペロペロキャンディを大きく振るった。

 ミカエルはチラッとキャンディを見ると手甲で防ぎ、ガキンと大きな音が響いた。


 キャンディの全力の一振りに対して普通の成人男性がこのような受け方をすれば当然のように骨が折れているだろうが、フラーシア王国の国宝の一つ『炎剣 プロミネンス』に選ばれ、炎剣から力を与えられたミカエルにとっては問題ない。


 ふと、ミカエルの鎧が赤く発光する。

 フラーシア王国が炎剣の使い手の為だけに作り出した、熱や炎を吸収し放出する魔鎧。


「!」


 キャンディは巨大ペロペロキャンディで自分を守るようにしつつ大きく飛び退くが、鎧から発せられた灼熱の衝撃波がキャンディをさらに大きく後ろに吹き飛ばした。

 巨大ペロペロキャンディに大きくヒビが入る。


「あつっ!!」

「キャンディ!!」

「てめえは魔族の心配してる場合か?」

「っ!」 


 炎剣の勇者ミカエルが赤い剣を真横に振るう。


 まだ自身の間合いに入れていないジルは素早くしゃがむ。

 次の瞬間、頭上をかすめ飛んでいく灼熱の刃。


 赤い刃は遠くの木々を薙ぎ倒していき、火災を引き起こした。


 躱したのにも関わらず、炎剣の灼熱を感じる。

 その灼熱を微かに癒す、頬を伝う冷や汗。


「さっきからいい反応だよな。自己強化の魔道具でも持ってんのか?」 


 勇者ミカエルは余裕の表情で、少しジルに興味が湧いたように話しかける。

 ジルは無視し、魔刀を構えたまま問い掛ける。


「……なんでキャンディを狙うんですか」

「あ? あーまあどうせ殺すし喋っていいか。お国からの依頼だよ」

「……国からの……!?」


 ジルは意味が分からないというような表情で反応する。

 ミカエルがキャンディの方に振り向きながら続ける。


「菓子の魔族、お前は好き勝手生きすぎたんだよ。使えない腕輪付きなんざただの魔族、消されて当然だろ? ま、今までのガキや女みてえに俺のオモチャになって死ぬんだから最後には役に立てるなぁ?」

「キモッ死ね!!」

「……今までの」


 キャンディの嫌悪感を隠さず大声で吐き捨てた言葉より、なぜかジルの低い声の方が空気によく響いた。


「子どもや女って、どういうことですか?」

「あぁ、任務のついでに平民のガキや女を殺して遊ぶんだよ!」


 ミカエルは楽しい思い出を語るように話す。


「女もいいがやっぱ子どもだな、あいつら焼いてやったり腕や足を切り落としてやると汚ねえ声で泣き叫ぶんだよ! それがおもしろすぎて最高に笑えるんだよなっ、ハハっ!! 安心しろよ、菓子の魔族みてえな子どもそっくりの魔族を殺すのは初めてだからな、すぐには殺さずに遊んでやるよ」

「……あなたは、勇者じゃないんですか?」

「勇者だからだよ!! 炎剣に選ばれた俺は国の宝、英雄だ! 勇者はどんなことをしても許されるっ、最高だぜ!? お前も羨ましいだろ!?」


 ジルも使い手を選ぶタイプの武器があることは知っていたが、よりにもよってこんな者が炎剣に選ばれて勇者になっているとは思いもしていなかった。



 ──魔界にいる強力な魔族『炎の魔族』が作り出した魔剣『炎剣 プロミネンス』は、当時フラーシア王国の誰にもその力を与えることはなく、宝物庫に眠っていた。


 フラーシア王国“ごとき”ならば一体で滅ぼせる力を持つ炎の魔族。

 その魔族が作り出した魔剣を王国が入手できたのは、人類圏最強国家『聖帝国ガルガルシア』が当時炎剣を与えられていた魔族から奪い取り、フラーシア王国に炎剣を供与したからである。

 その目的はいくつかあり、聖帝国が魔界との戦争に集中するために万が一にも西側諸国が聖帝国にちょっかいをかけないようにするため、そして円滑な貿易のための(仮初めの)友好の証、西側諸国に魔界からの自衛能力をつけさせるため等の目的があった。


 フラーシア王国は当然使い手を探すがなかなか適合者は現れず、どうにか炎剣の使い手を探すために罪人達にもテストを受けさせることにしたのがミカエルが勇者になったきっかけである。

 当時、複数件の殺人の罪で捕まって処刑される寸前だったミカエルの前でのみ炎剣はひとりでに震え出し、炎を帯び始めたのだ。


『隠蔽』の魔法を殺人を楽しむ為だけに独学で覚える程の外道。

 ミカエルが炎剣に選ばれた理由はいまだに分かっていないが、この外道ならば自身を思う存分振るい殺戮の限りを尽くしてくれるであろうことを炎剣は感じ取ったのかもしれない。


 こうしてミカエルはフラーシア王国の勇者となった。

 当然このようなミカエルの過去は伏せられ、勇者になる前のミカエルの殺人の被害者遺族は全員消されている。



「……王国の勇者がこんな人だったなんて……!」


 幼い頃から勇者という存在に憧れていたジルは失望と怒りをあらわにする。


「おいおい睨むなよ! 王国が許してることだぜ!?」 

「王国が裁かないなら僕がやる……! これ以上お前の好きにはさせないっっ!!」

「ほざけ雑魚が!」


 ミカエルが炎を大きく纏う。

 ジルの刀を持つ手に怒りのあまり血管が浮き出る。

 怒りをあらわにしたジルの様子に内心驚きつつも、何も言わずミカエルの隙を伺うキャンディ。



 ──ミカエルが剣先を地面に向けた。


 その意図を察したジルとキャンディは横に走り出す。

 そしてミカエルが炎剣を地面に強く突き刺すと、周囲の地面がバキバキとひび割れていく。

 そして地面の裂け目から10mはあろうかという巨大な炎の柱が次々噴出した。


「くっ……!!」

「っっ……!! 熱いキモい死ねっ!!」


 ジルとキャンディは回避に徹する。

 地面の裂け目を避けて炎の柱を回避しつつ、元々間合いに入れていないにも関わらずさらにミカエルとの距離を離すしかない。

 キャンディも回避のため巨大ペロペロキャンディをいつの間にか吸収していた。


 だが、ミカエルの炎剣は遠くまで炎の刃を飛ばすことができる。距離を離して回避に徹すればしばらくは持ち堪えるだろうが、それも時間の問題であることは誰の目にも明らかだった。

 だからといって下手に近づけばミカエル周囲の激しく裂けている地面から再び火柱を噴出させられて黒焦げにされるだけだろう。

 ミカエルは地面から炎剣を引き抜いてニヤニヤと2人の顔を見比べる。


(このままじゃジリ貧だ……どうにか近づいて……)


「ジル!! “吸収”しなさい!」

「! 分かった!!」


 はっ、とキャンディと目が合うとジルは大声で応えた。


「あ?」 


 ミカエルは怪訝な顔をしたが、次の瞬間にはキャンディの腕や脚から大量の液体チョコレートを発生してミカエルの側まで濁流のように迫った。


「んなもんが通ると思ってんのか?」


 ミカエルは再び炎剣を地面に突き刺すと、今度は円形の壁のような火柱がミカエルの周囲から噴き出し、液体チョコレートの濁流をはじき飛ばす。


 だが、キャンディの狙いはミカエルではなかった。


 弾かれた液体チョコレートの濁流が、そのまま方向を変えてジルの方に向かっていく。

 そしてジルの側でチョコレートが、ジルと同サイズの大きなキューブ状に変形して固まると、ジルは刀を大きく振り下ろした。


 大きな火柱で視界が塞がれ、ミカエルは2人の一手を見逃す。


「さて、諦めて大人しく死……あ?」


 ミカエルは火柱の壁を解くと、チョコレートは消え失せジルの周囲を黒い魔力の粒子が渦巻いているのに気づく。


「ジル! もうあたしデカいの出せないから後はなんとかして!!」

「ありがとうキャンディ……!」


 キャンディの魔力で生成されたお菓子を魔刀で切ると、そのお菓子は魔力に変換されて魔刀に吸収される。

 旅のさなかの休憩中、キャンディに小さなお菓子を生成してもらい実験済みだった。


「なんだその黒……っっ!!」


 ミカエルが言い終えるのを待たず、ジルがさっきまでとは比較にならない速度で地面を蹴った。

 ジルはミカエルを肩から一刀両断すべく刀を振り下ろす。

 炎剣に力を与えられたミカエルは反応はできたものの地面から火柱を発生させる余裕はなく、炎剣で振り下ろされた魔刀を受ける。


 響く刀と炎剣がぶつかる音。 

 魔炎と黒い魔力の粒子が爆ぜる。

 火の粉が辺りでゴウッと舞った。


「僕はお前を勇者と認めない!!」 

「クソガキがっっ!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ