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第38話 入国と会敵

 

 ジル達がノルアンに着いて三日後の午前に休養や冒険者ギルドでのお金稼ぎを一通り済ませ、いよいよベスターメルン帝国へ出発した4人。


 これからの予定だが、帝国に入ったら帝国領土の中央にある帝都『ヴェストハルト』へ向かいつつ、通過点の帝国の町で冒険者ギルドにアリスの家族を探す依頼を出す。

 人探しの依頼は帝都のギルドへも伝わるため、これでフラーシアとベスターメルンの両都に依頼が伝わる事になり、アリスの家族が見つかる可能性がぐっと高まる。


 帝都に着いたら帝都ギルドにジルの両親から連絡が来ていないか確認し、ベスターメルン帝国のどこかに元リルニア王国の難民達が集まる町があるという話について情報を集めてその町へ向かう。おおまかにはそういう予定にしている。




 ──会敵は綺麗な夕日が見える頃だった。



 

 国境を越え、小さな森の道を越え、野道を進むジル達。

 空は綺麗な夕焼けになっていた。

 周りには民家一つ無く、木々と草むらだけ。


 空の様子を見たジルが切り出す。


「そろそろ暗くなるし、野宿の準備しよっか」

「そうですね。私は水を汲んで来ます、キャンディ様は簡易テントをお願いします」

「えー……分かった……」


 面倒くさそうに魔法の収納袋を開けて、荷物を広げるキャンディ。


「キャンディ、僕も手伝うから」

「それは当たり前だわ」

「えぇ……」


 こうして簡易テントの組み立てを行なうジル達だったが、ふとアリスが頭を上げて遠くを見る。



 

 魔力の込もった視線。


 これはセラフセヴァーのものでは無い。




「……ごめん、私ちょっとお手洗い行ってくるね」

「はーい」


 ジルの軽い返事を聞くとアリスはスタスタとジル達からは見えない木陰まで歩く。


 ある程度の距離、ジル達からは見えない所まで歩くと、アリスはセラフセヴァーの所まで跳んだように地面を蹴った。

 凄まじい速度で移動し風を切るアリス。 

 そして1秒にも満たない時間で人が点にしか見えない距離を詰め、シュタッとその者の20メートルほど後ろに着地するアリス。


「……えーと、今度は本当に誰?」

「!?」


 セリーヌは後ろからの予期せぬ声に驚きバッと後ろを振り向く。


 セリーヌの白いシスターのような衣装に水色の髪と瞳。

 今度はまったく見覚えが無かったアリスは表情に疑問を浮かべる。

 セラフセヴァーの時と違って、アリスの体は淡い光を帯びていない。


 セリーヌは、『望遠』の魔法で観察していたはずの対象の1人に突如として後ろに立たれたことに混乱しつつもすぐに杖を構え、さらに念話を発動。

 セリーヌはそれなりに戦闘経験もあり、頭を素早く切り替えて予期せぬ状況に対処することができた。


(すいません勇者様、ティア。感づかれました。私は銀髪の少女を抑えます。お二人も仕掛けてください)


 セリーヌは暗殺対象達に動きを気取られたと見ていたが『望遠』の魔法によりジル達冒険者パーティーの大まかな状況は把握しており、撤退ではなく戦闘を選択した。

 ケーキの魔族は水汲みで離れ、幸か不幸か自分の目の前に来たのは銀髪の少女1人。丁度良くジル達の戦力は分散していると判断した。


「ねえ聞こえてる? あなたは誰? なんで見てたの?」

(口止めのため、お手数ですが全員始末してください)


 セリーヌはアリスを無視して念話を続ける。

 当然隠密の任務の詳細を話す訳にはいかないし、遠くから見ていたことがバレている状況。

 任務で始末しなければならないのは菓子の魔族のみだが、この状況では口止めのために冒険者パーティー全員を始末しなければならない。


 セリーヌの持つ魔法の杖の先端に水色の魔力が集中していく。

 セリーヌは『望遠』の魔法に感づいたことからアリスを恐らく魔法職の冒険者であると判断。油断せず魔力を練り上げる。


 

「……答えてくれないの?」

「何もお話しすることはありません」


 セリーヌは杖の先端をアリスの方に向けた。




 アリスは魔力の込もった視線──セラフセヴァーやセリーヌの視線には敏感に反応したが、それより近いもう二つの視線には気づくことが出来ていなかった。



 ◆



「きゃは! 噂通りのメイドさんだ〜! 可愛いねぇ!」

「……どなたですか?」


 近くの森の中の川に水汲みに行っていたケーキに、かん高い声で話しかけるトマトティアラ。

 森にまったく似つかわしくない赤いドレスの腕輪付きに対し、ケーキは怪訝な表情を浮かべる。


「アタシはトマトティアラ〜! トマトの魔族! お願いがあるんだけどぉ、あなたここで死んだことにしてどっか消えてくれない?」

「……はい? 意味が分かりません」


 ケーキは警戒を強める。

 性格的に口の軽いトマトティアラはケーキの警戒を気にせずにペラペラと任務のことを喋り始める。


「えっとね〜、菓子の魔族をぶっ殺せっていう国からの任務で来たんだけど〜」

「は?」


 ケーキが人間だったならばビキッと額に血管が浮き出ていたであろう。

 殺意を迸らせるケーキに対し、トマトティアラは空気を読まずに話を続ける。


「なんかあなたも口止めのために殺さなきゃなんだけど、あなたアタシより弱そうってワケじゃないし面倒くさいんだよね~! だから死んだことにしてどっか他の国の田舎とかに行って欲しいな〜って! ほら、丁度よくここベスターメルンだし! 腕輪嵌ってる右手首だけ置いてってくれればいいから! ね?」

「……話はそれだけか? 消えるのは貴様の方だ」


 (まず間違いなく暗殺者はこいつだけではない。今頃キャンディ様の所に別の刺客が現れているはずだ)


 ケーキは両手にフォークを一本ずつ携える。

 キャンディが狙われる理由は分からなかったが、目の前の腕輪付きを速やかに倒し、主の元へ駆けつけなければならない。


「……はぁー。やっぱこうなっちゃうよねぇ……」


 トマトティアラは残念そうにため息をつくと、赤いホルダーから包丁を取り出し、両手に携えた。


「ま、こうなったらぶっ殺すしかないよね〜」



 よく見ると、その包丁には薄く血痕の跡が残っていた。



 ◆



「話通り十代前半のガキみてえな見た目じゃねえか。顔もいいしすぐ殺すのは惜しいな。少し遊ぶか」

「……誰あなた? 今、殺すって言った? あたしを?」


 アリスがお手洗いと言って離れてから少し。


 テントの設営を進めていたジルとキャンディの前に、今まで気配を消していた高身長でオレンジ色の髪をした二十代後半の鎧剣士が無造作に現れる。言うまでもなく、炎剣の勇者ミカエルだ。


 ミカエルは自身とセリーヌによる二重の隠蔽の魔法により、どちらかというと感知は苦手なアリスの目を逃れていた。


 ジルが警戒色の強い表情で話しかける。


「……その立派な装備。野盗ではないですよね」

「お前にゃ用はねえよ。死ね」


 キャンディを見る目とは打って変わってどうでも良さように吐き捨てたミカエルのロングソードが赤く輝き始める。

 ジルは刀を抜いて戦闘態勢に入るが、それよりも早くキャンディが驚愕の表情を浮かべて後ずさる。


「!! すごい魔力っ!! ジルっ、こいつやばいわ!!」

「魔剣……!」


 ミカエルの魔剣から発せられる赤い魔力を見たジルも警戒して距離を詰めるのを躊躇する。


 その躊躇と、淡く白い魔力により強化された動体視力や身体能力がジルの命を救った。


 ミカエルは間合いでないのにも関わらず魔剣を雑に斜めに振る。

 その動きを捉えたジルはバッと横っ飛び。

 瞬間、赤い閃光が大地を走る。

 ゾゥッ、と吹き荒れる炎と共に数百メートル先まで大地が割れた。


 ジルはそれを見て驚愕の表情を浮かべ、鎧剣士の正体を察する。


「!! 炎の魔剣っ、まさか『炎剣の勇者』!?」

「お、フラーシアの奴なら当然知ってるよな。お察しの通りだ。俺に殺されるのを光栄に思えよ?」

 

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