第33話 炎剣の勇者
フラーシア王国を始めとする西側諸国。
その北側の海に近い場所で、最近よく現れる魔物や魔族。
だが、魔族は何故か積極的には人間を襲わず、配下の魔物達が人間を襲うのを観察するような様子だという。
ここもそんな魔族や魔物達が現れた、海から少し内陸に入った位置にある小さな集落。
凄まじい羽音が集落全体を覆っていた。
その羽音と正反対に、一人として音を発したり動いている人間はいない。
その集落へ向かって、とある三人がスタスタと歩いていく。
集落を飛び回る人間の子どもサイズの巨大な蜂達がピクッと反応し、一斉に招かれざる客達の方を向く。
「情報通り集落にまだ居着いているようです。『望遠』の魔法で見る限りでは、生きている住人はまだ確認できません」
冷静に発言したのは三人の内の一人、杖を携えている魔法使いの女性、名をセリーヌという。
水色ロングのハーフアップの髪の20歳。
彼女は瞳も水色だったが、アリスの水色の瞳のような幻想的で輝くような美しさは無い。その瞳にはどこか狂信が混じっていた。
彼女の服装は全体的に白く、どこかシスターのような印象を抱かせる。
「きゃは! まあフツーに考えて全員死んでるよね〜!」
かん高い声で反応した少女はトマトの魔族、レベルは3。
名前はトマトティアラ。
名前がこんな感じなのは名付け主の『野菜の魔族』のセンスがそんな感じだからで、近しい者からはティアと呼ばれている。
その右手首には黒い腕輪が嵌められている。
彼女の髪の毛は頭頂部辺りが濃い緑、そこ以外はみずみずしい真っ赤という、まさにトマトを思わせるふんわりセミロングの髪をしていた。
顔立ちは十代後半の少女で、その瞳は近くで見ると小さな小さなミニトマトが封じ込められているかのような瞳であることが確認できた。
服装はまるでこれから結婚式にでも出席するかのような赤いドレスで、そのドレスにまったく似つかわしくない赤いホルダーを腰にいくつも縫い付けている。そのホルダーには包丁が入っていた。
「あーあ、ガキの一人でも生きてれば楽しめるんだけどなぁ」
そう残念そうに言ったのは、高身長でオレンジ色の髪をした二十代後半の男性。
一見普通だが、とある特殊な加工が施された黒い鎧を身に纏い、その右手にはロングソードが握られている。
彼はミカエル。
フラーシア王国に二人いる『勇者』の内の一人である。
「……。きゃははっ! ほんと趣味悪いよねぇ、最近現れてる魔族のせいにできるからって子供いっぱい焼き殺してさ!」
「ティア。勇者様に向かって不敬です。勇者様が望むのですから、それは正しいこと。少数の犠牲と引き換えにたくさんの王国民が救われるのです」
トマトティアラが一瞬表情を曇らせたのを隠してケタケタと笑い、セリーヌがそれをたしなめる。
ミカエルの非道は、彼がどのような汚れ仕事でも引き受け国への貢献度が高く、また快楽目的で殺している人間より多くの人間を救っているということで国から見逃され隠蔽されており、一般国民からすれば彼は英雄である。
また、『勇者』という存在はまったく代えが効かないというのも大きい。
何しろフラーシア王国には二人しかいないのだ。
ちなみに各国が擁する勇者の数は以下の通りである。
フラーシア王国 2人
ベスターメルン帝国 2人
アラバビスカ王国(西側諸国の一つ) 1人
西側諸国その他 0人
聖帝国ガルガルシア 約200人
空中浮遊都市ソラリス 0人
ちなみにソラリスは魔界と現在進行系で全面戦争している二カ国の内の一つである。
話をしている勇者パーティーの三人に向かって人間の子どもサイズの巨大な蜂の群れ、そしてその蜂達よりさらに巨大──3メートル近くもある巨大な蜂が飛んで向かってくる。その蜂は他とは違い、顔の中央に人間の女の顔面が浮かんでいた。
その女の顔面がミカエル達に向けて響くような大きな声を発した。
「ワタシは蜂の魔族。自分からワタシ達に向かって来るとは、貴様らよほど死にたいようだな」
「『簡易鑑定』。……レベル5です。周りはレベル3か2」
魔族の言葉を無視し、セリーヌが簡易鑑定を使って鑑定結果を報告する。
それを聞いたミカエルは面倒くさそうな表情を浮かべた。
「レベル5か〜。なんつーか最近出没してる魔族と魔物強くない? たかだか蜂への畏れの塊がレベル5っておかしいだろ」
「ん〜多分こいつらとかを最近送り込んでる奴が力を与えたんだろうね〜。こいつら使って何がしたいのかはよく分かんないけど」
「……ワタシを無視か? 貴様ら、楽に死ねると思うなよ」
蜂の魔族と周囲の魔物達は針をジャキッとミカエル達に向けた。
「ま、とりあえずさっさと片付けるか」
勇者ミカエルはロングソードを構えた。
するとその剣が赤く輝き始める。
──そもそも『勇者』とは?
それを説明する前に、まず冒険者ギルドが定める魔物や魔族の危険度レベルをおさらいしておこう。
まず以下の通り、レベルの基準となる魔物とその危険度。
レベル1スライム 人間の子ども未満の脅威
レベル2ゴブリン 大人が武器を持っていれば問題なし
レベル3オーク 訓練された兵士や中堅冒険者と同程度
レベル4オーガ 冒険者パーティ1組がかりでも危ない
レベル5クラーケン 冒険者パーティができれば10組は必要
オレトなどの中規模以下の町で対処できる魔物はここまで。
そしてそこからさらに上、レベル10まで定義されている危険度。
その中の一つ。
レベル6、ドラゴンクラス。
レベル6の魔物を一体殺すためだけに王都の冒険者ギルドが大規模クエストを発令したり、国がバリスタ等の大型兵器を持ち出して討伐作戦を組むレベルである。
そのレベル6を、一人で葬り去る人間。
それが『勇者』と定義されている。
レベル6以上の魔物や魔族を一人で倒した者、または一人で倒せると認められた者が、他の冒険者等と区別されその称号を得る。
だが、それほどの力を得る者が必ずしも善人であるとは限らなかった。
ミカエルがその典型である。
「ア……ガ……」
灼熱の荒野と化した大地。
そこに横たわり呻きを上げる、炭化した蜂の魔族。
魔力の塵となり消え去っていく大量の蜂型の魔物達。
「ティア、止め刺せ」
「ハーイ」
トマトティアラが蜂の魔族の顔面に無感情に包丁を突き刺し、すぐに蜂の魔族は塵となり消滅していく。
それを確認したセリーヌが、懐から取り出した手紙をミカエルに見せながら話しかける。
「次の任務ですが、ベルトラン様が王都にお呼びです。朝、手紙が伝書鳥で届きました。任務の内容は会ってから伝えると書いてあります」
「わざわざ会ってから? まーたキナ臭い仕事させられそうだなぁ。代わりにいろいろと見逃してもらえるからいいけど」
『炎剣の勇者』の二つ名を持つミカエルはため息をついた。




