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第32話 地下の会議室で

 オレトの東の隣町、リルノールに向かう貨物馬車の列。

 その周囲を護衛の冒険者達が囲んでいる。


 今回参加した冒険者パーティーは4組いて、ジル達のパーティーは列の右、その前の方を守っていた。

 出発前に他のパーティーから話を聞くと、やはりこういうクエストは隣町への移動がてら請けるパーティーが多いようだった。


 ジルが歩きながら予定の確認をする。


「リルノールに着いたら一泊して、翌朝にはベスターメルンとの国境沿いにある町、ノルアンに向かうってことでいいよね」

「そうですね。ただ、おそらく長旅になります、休養や町への滞在時間は増やしてよろしいかと。キャンディ様も町のお菓子漁りしたがってますし」

「ケーキ! 何その言い方!? あなたもケーキ屋さん漁りしたくないの!?」

「私は慎みのある大人ですので」

「あ、ケーキちゃん! お姉さんぶる人って子どもっぽく見えるんだよ! ジルが前に教えてくれた!」

「……ほう?」

「あの、ケーキさん……睨まないで……」


 一瞬出たケーキの素にちょっとビビるジル。

 ちなみにケーキはこのパーティーではジルと二人の時以外は基本敬語である。


 アリスが楽しそうにジルに話しかける。


「ふふっ♡ 始まったばかりだけど4人で旅するの、すごく楽しいかもっ」

「そうだね。せっかくだから楽しい旅にしよう。それで、楽しい思い出を家族に再会したらいっぱい話そう。絶対すごく喜んで聞いてくれるよ!」

「……うん!」


 相変わらず、アリスが憧れの王子様を見るような目でジルを見る。

 アリスは我慢できないとばかりにジルの腕に抱きつく。


「ちょっアリスっ! 人前だよっ!?」

「我慢できない……ジルとくっつきたいっ♡」

「ジル……アリスを傷つけたら殺すから。いや今も殺したいけど」

「勘弁して……」

「ん〜♡」


 嬉しそうに困るジル。

 ジルの腕に頬ずりして甘えん坊モードのアリス。

 アリスを取られたみたいでプンスカしているキャンディ。

 何も言わず微笑むケーキ。


 なんだかんだで4人の旅は楽しく始まったのであった。



 ◆



 フラーシア王国王都、アティスセーヌ。


 その中心部にある立派な王城、その地下の一室。

 その部屋の中は王城にしては装飾が少なく、薄暗かった。



 その部屋の中、円盤状の机を囲むしっかりとした服装の数人の大人達。

 見るからに会議中という様子であった。

 その会議の中心は、二人の男性。


 中年で小太りだが、見るからに高級で貴族らしい服を着ている男性。

 フラーシア王国の高官の一人、テオドール。


 そしてもう一人。

 老年に差し掛かろうかという顔立ちだが、かつて冒険者だった名残りが残る肉体をしている。

 ただ、その成金のような服装が完全に冒険者を引退していることを伺わせる男性。

 フラーシア王国全体の冒険者ギルド長、ベルトラン。



 この会議室で、高官のテオドールがベルトランに冒険者ギルドへの依頼の話をしていた。

 このようにわざわざ高官クラスがギルド長と話す時の依頼は2パターン。


 よほど規模の大きい依頼か、表に出せない依頼。



「……そういえば、あの邪魔な一家の暗殺は見事遂行されたようだな。子どもも含め皆殺しと確認したよ」

「はっはっは。お国様の依頼でかつお金も沢山頂ける。当然でございます。暗殺に関して言うと最近の海沿いでの魔族や魔物の出現は都合がいいですな。奴らの仕業ということで簡単に話が終わる」

「フッ、であるならば次の暗殺依頼も問題なく請けてくれるな?」


 邪悪な笑みを浮かべたテオドールは次の依頼の話を切り出す。


 冒険者ギルドの闇。

 ギルドは裏の仕事も、一部の信用の置ける者達を使って請け負っていた。




「菓子の魔族の暗殺を依頼する」




「……ほう? それは興味深いですな。依頼の理由を聞いても?」


 暗殺の理由をベルトランから聞くのは珍しいことだった。

 珍しく興味深そうな表情を見せたベルトランに、日頃の信頼と親交もありテオドールは説明する。


「奴の誕生から13年。奴は魔族として成長している」


 菓子の魔族・キャンディは、誕生当初はレベル4の中でも下位の力しか持たなかった。

 だが、今や地方の町オレトに現れたレベル4の魔物を複数、それも一方的に葬り去るほど成長している。


 キャンディは各地のお菓子を食べる為に旅する中でたくさんの人から好かれ、その好意から漏れた魔力を吸収、力を増している。

 食べずとも生きていけるのにも関わらず食べまくるお菓子も、彼女の魔力に変換されていた。


「だがそれはいい。『腕輪付き』として国への貢献度が高ければな。奴は国からの金にはならないが名誉になる依頼はほとんど無視だ」


 そう、キャンディは好き勝手に各地を旅して、お金は冒険者ギルドの依頼で金になるものだけを請けるという自由気ままな生活をしていて、国への貢献度は決して高くなかった。

 そもそも暑さ寒さに強く、食べずとも生きて行ける魔族のキャンディにお金を稼ぐ理由はお菓子しか無い。

 ケーキがいなければ宿すら取らなかったであろう。


「奴は遊んでいるだけ。しかも各地の子どもから好意を集めて自身の魔力を高めている。さらには白い腕抜きをし、腕輪を隠している姿がオレトの冒険者ギルドから報告されている」


 アリスがキャンディにプレゼントした白い腕抜き。

 それを着けている姿は目撃されており、冒険者ギルドから国に一応の報告が為されていた。


「そして奴はオレトからベスターメルンを目指す冒険者パーティーに加わったようだ。近頃海沿いを中心に現れている魔族どもと遭遇し唆され、王国の情報を土産に魔界へ向かったという可能性もある。考えすぎかもしれんが念には念をだ。どうせ国への貢献度も低い、奴が脅威になる前に始末する。宰相の許可も得ている」

「ふむ。理由は理解しましたが、討伐という形ではなく暗殺という形を取るのは何故ですかな?」

「言った通り、奴は各地の子どもを中心に好意を持たれている。つまり表立った討伐は国民の反感を買う可能性があるということだ」


 テオドールは一呼吸を置いた。


「……奴がベスターメルン帝国に入国した後に始末しろ。ケーキの魔族や冒険者パーティーも邪魔するようなら殺せ。何、今回も魔族の仕業にすればいい。問題は奴がレベル4の上位に位置する魔族ということだな」

「ああ、その点は問題ありません」

「ほう?」


 ベルトランはきっぱりと問題ないと言い切り、その理由を次の言葉にする。

 その顔には醜い微笑みが浮かんでいた。




「勇者を差し向けます」




第4章


『炎剣の勇者』


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