第31話 旅立ち
出発の日の朝。
ジルの家の前で、お別れの会話が行われていた。
「もしフラーシア王国でアリスちゃんのご家族の情報があったら、ベスターメルンの帝都ギルドに情報を飛ばす。無事に帰ってこいよ」
「ありがとう父さん。お土産も買ってくるね」
アリスとファニーも話す。
「アリスちゃん、今まで家で編み物のお手伝いありがとうね。これ、お給料だと思って受け取って」
「えっいいんですか? ありがとうございます。こんなに、たくさん……」
それは今までの仕事分の給料としては明らかに多すぎる、一ヶ月分の仕事をしたくらいの銀貨だった。
「いいの。またいつでも私達の家に戻って来ていいからね」
「……ありがとうございます。ファニーさん、大好き」
「うふふ、嬉しいわ」
アリスとファニーはぎゅっと抱き締め合う。
大きなバックパックを背負い魔刀を腰に携えたジルと、ジルのよりは小さいが女の子が背負う物としては大きなバックパックを背負ったアリス。
こうして二人は手を振り、家と両親に一時の別れを告げた。
オレトの町中心部に向かう二人。
「……アリス」
「……ん」
二人は指を絡ませ、手を繋いだ。
◆
町の中心部、冒険者ギルド前。
キャンディとケーキは既に二人を待っている。
やがてジルとアリスの姿を確認したキャンディは声を上げる。
「あっ来たわね……は!? なんで手繋いでるの!!」
「お待たせ。えっと、これは……」
「ジルっ、そういうのセクハラって言うのよ!! 離しなさいっ!」
「キャンディちゃんっ。私達ね、付き合うことになったの!」
「……は? はあああ!!?!?」
嬉しそうに報告するアリスと、驚きの表情をするキャンディ。
「……?」
ケーキはそんな二人の方ではなく、ジルの方を見ていた。
彼女は何か疑問符が浮かんでいるような表情をしている。
「いいアリス!? コイツに少しでも不満があったら言うのよ!? すぐにボコボコにしてパーティーから叩き出すから!!」
「そんな事にはならないよ! ね、ジル♡」
「うん。絶対に大切にするから」
「ジルは黙って!!!」
◆
平和な言い争いも終わり、旅立ちの確認をする4人。
「そういえばキャンディとケーキさんの荷物少なくない? 大丈夫?」
「ああ、収納用の魔道具に大体の荷物は入れてあるので。お二人もお金に余裕ができたら買うといいですよ」
そう言いながらケーキは腰に括り付けている小さな袋を指差す。
これは中に空間を封じ込められる魔法の袋で、袋を開くと大きく布が広がり中の荷物を取り出せるようになっている。
そして封じ込めている間の袋はごく軽量というとても便利な代物だ。
ただし割と貴重で結構いい値段のする魔道具なので気軽には買えない。
「さて確認だけど、ベスターメルンに向かいつつギルドの依頼こなしてくから。とりあえず隣町リルノールまでの貨物馬車護衛依頼があるから、あたし達それ請けるわよ。さ、ジル達も請けて来なさい!」
「うん。手続きしてくるから待っててね」
ジルとアリスはギルド内に入っていく。アリスはついでに冒険者登録も済ませる予定だ。
二人がギルド内に姿を消すの見届けたケーキは、キャンディにさっきから気になっていたことを確認しようとする。
「キャンディ様。ジルが纏っている魔力が……」
「あ、ケーキも気づいた? ジルが纏ってる白い魔力、前より強くなってる。派手に魔物狩りしたのね。相変わらずあたし達以外は見えてないみたいだけど」
◆
冒険者ギルド内。
アリスは受付で冒険者の登録をしようとする。
「こうやって水晶触ればいいの?」
「うん。これで水晶に年齢の数字が現れて証明できるから」
冒険者になれるのは15歳から。
なので見た目が15歳以上なのか怪しい人が冒険者になる際は、このように年齢把握用の魔道具で自身の年齢を証明するという手続きが入る。ジルも同様の手続きを行なった。
ジルが把握している限りでは、水晶に触れた者の魔力から年齢を読み取るらしい。
「……ん? これは表示されませんね」
「えー? なんで??」
ギルド受付嬢がもしかしたらと話を続ける。
「こういう体質の方、稀にいるんですよ。鑑定とかも効きにくい人。この場合はご家族の方に十五歳以上ですと言って貰えればいいんですけど……」
「家族……」
アリスの表情が曇る。
「その、アリスは……」
「! 失礼しました。ごめんなさい」
アリスの様子やジルが言いかけた言葉で事情を大まかに察した受付嬢はすぐに謝り、話を切り替える。
「えっと、アリスさんは冒険者登録が出来ないので依頼を直接請けることはできませんが、参加する方法はあります。冒険者の方の雇われという形ですね。クエスト終了後、報酬をギルドからではなく冒険者の方から貰うという形になります。今回はジルさんが冒険者ですのでその形をご検討するのがよろしいかと」
この場合、雇われと冒険者の間でトラブルになることもあるが、ジルのことを知っている受付嬢は躊躇なくその形を勧めた。
「それが良さそうですね。アリスもそれでいい?」
「うん!」
「ん! それじゃ受付さん、僕が請けたいクエストがあって……」
こうして、アリスはジル達の冒険者パーティーの雇われという形で旅に参加することになった。
「承知しました。ところで、お二人って付き合い始めたんですか?」
「えっ」
「ふふっ、分かりやすいですね♡」
「えっと……はい……」




