第22話 お友達
「うおおおっっ!!」
決勝はジルの勝利で決着。
ジルは立ち上がり、喜びのあまり雄叫びを上げた。
キャンディは地面で呆然としている。
「……ジル……♡ カッコいい……♡」
「……まさかキャンディ様が負けるとは……」
客席がなおも盛り上がっている中、アリスは陶酔したような声を両手で抑えた口から漏れさせ、ケーキは信じられないという風に片手で口を抑えた。
ジルは雄叫びを上げたあと、スッとアリスの方へ向く。そしてニッっと笑顔になり右手のVサインをした。
「へへ!」
「きゃーっ!!♡♡」
それを見たアリスはぴょんぴょんと客席で体を跳ねさせてはしゃぐ。
もはや推しから特別に合図を送られた女の子ファンのようであった。
◆
試合終了後まもなく。
リング上で優勝したジルへ賞金と賞品が渡された。
まず賞金。袋がジャラッと渡される。
袋の中には銀貨100枚。
優勝賞金の10万ゴールドである。
割としょぼい額の理由は、地方の町の週一回開催の規模の小さい賭け試合であることと、優秀な冒険者が賭け試合に出てばっかりで普通のクエスト依頼を受けなくなるのを防ぐ為である。
そして賞品。
町のケーキ屋アストリの、今回だけのオリジナルショートケーキセットが入った包装箱がジルに渡される。
「……ぁ…………ぅっ、ぐすっ、やだ……っ」
それを見たキャンディは楽しみにしていたショートケーキセットが食べられないことを実感して辛くなってしまい、客席で泣き出してしまう。
ケーキはその背中を優しく擦って慰める。
リング上からキャンディの様子に気付いたジルもズキッと胸が痛くなり、表情が曇ってしまう。
でも、アリスにこんな表情を見せる訳にはいかない。
すぐに表情を笑顔に直す。
賞金と賞品を片手にジルはアリスの所に戻っていく。
「ただいま」
「おかえり、優勝おめでとう」
「ありがとうっ。……アリス、祝ってくれてすぐなのにごめん、一つお願いがあるんだ」
「うん。キャンディちゃん達にもショートケーキあげたいの?」
「えっ、なんで分かったの?」
「だってジル、キャンディちゃんの方見て一瞬辛そうな顔したもん。私にはその顔見せないようにしてるけどっ」
えへへっ、とアリスは笑った。
全てお見通しと言わんばかりの悪戯っぽい笑みだった。
その表情を見たジルは、本当に素敵な女の子だとアリスへの想いを強くする。
「……うん、僕から渡すと気を悪くするかもしれないから、ごめんだけどお願いできる?」
「ん! 任せて!」
包装箱の中には4種類のショートケーキが2個ずつ。それぞれ全てが個包装。
アリスはそのうちの別種類の2個を取り出し、ジルと軽くやり取りをするとキャンディ達のほうに歩き始める。
それを見たジルは席を離れ、試合の為に借りた服を着替えるべく足早に移動した。
◆
「……え? そのショートケーキ、くれるの?」
目尻に涙が残ったままのキャンディはいまいち現実感を感じていないような表情。
「うん。家でゆっくり食べたいって言って貰ってきたから内緒だよっ」
当然、キャンディの気を悪くしない為の嘘である。
ジルとの軽いやり取りで決めた嘘だ。
自身を決勝で負かしたジルの意思で渡したとなるとキャンディがどんな気持ちになるか分からない。
ジルが席を足早に外したのはアリスがこういう嘘をつきやすくする為。
「……あ」
キャンディは本当にショートケーキを分けてもらえることを理解すると、一気にパアッと顔を明るくした。
「ありがとうっっ!! あなたお名前は!?」
「アリス」
「アリスっ! あなたいい人ねっ、あたしのお友達にしてあげるわ!!」
「ふふっ、ありがとう」
周囲に白い花が浮かぶかのような笑顔のアリス。
周囲がキラキラしているかのような笑顔のキャンディ。
(……キャンディ様に笑顔が戻って、良かった)
ケーキは思わず微笑み、二人に気付かれないようそっと優しいため息をついた。




